◆第70回有馬記念・G1(12月28日、中山競馬場・芝2500メートル)

 2000年以降に有馬記念を勝った牝馬を振り返る企画の第2回は、5歳だった19年に春秋グランプリ制覇を果たし、年度代表馬に選出されたリスグラシュー。

 次元が違った。

ラスト1ハロン。レーンが軽く手綱を動かすと、リスグラシューは全身を使ったアクションで反応した。他馬が止まって見えるほどの加速。アッという間に抜け出し、突き放す。ゴール手前で早々とレーンがガッツポーズを作りながら、2着には5馬身差。矢作調教師は約6年たった今でも「あれはちょっとビックリしたな」と苦笑いで振り返る。それほどの楽勝だった。

 香港遠征を回避した前年の3冠牝馬アーモンドアイが緊急参戦し、単勝1・5倍の圧倒的人気。矢作師の反骨心はたぎっていた。「中山では負けないと思っていた」。同年は宝塚記念、豪州のコックスプレートをともに圧勝。「5歳でこれほど変わった牝馬というのもなかなかね…」と漏らすほどの充実期に入った愛馬への信頼は揺らがなかった。

しかも、鞍上に日本で馬券発売したコックスプレートをJRAのG1と同等に扱う「特例」で引き続きレーンを確保。万全の態勢で臨めた一戦だった。

 リスグラシューはこれがラストラン。矢作厩舎にとっては開業15年目にして、初の有馬記念参戦だった。「俺は関東の生まれだからグランプリといえば宝塚記念より有馬記念だよ」。逆境で燃える男の執念が乗り移ったような強烈な有終V。世界のYAHAGIは今も昔も大一番でこそ光り輝く。(山本 武志)

 ◆リスグラシュー 父ハーツクライ、母リリサイド(父アメリカンポスト)。北海道安平町・ノーザンファームの生産。通算22戦7勝(うち海外3戦1勝)。主な勝ち鞍は19年の宝塚記念、コックスプレート(豪州)、18年のエリザベス女王杯、東京新聞杯、16年のアルテミスS。総獲得賞金は12億1720万100円(うち海外3億2981万9100円)。

馬主は(有)キャロットファーム。

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