日本には、家を借りたくても断られてしまう人が多くいます。そのような人たちに寄り添い、空き家問題と住まいの確保が難しい人たちの問題に取り組む京都のスタートアップ企業、Rennovater(リノベーター)。

代表取締役の松本知之(まつもと・ともゆき)さんが会社を立ち上げる前のサラリーマン時代に、所有していたワンルーム・マンションを住まいに困っている人に貸したのがその始まりでした。松本さんに話を聞きます。

「生活保護を受けられればまだ良い」住まいを借りられない人たち

社会には、賃貸住宅に入居しようとしても、なかなか貸してもらえず、困窮している人たちがいます。単身の高齢者や低所得者などが入居を希望しても、入居後の孤独死や家賃滞納、近隣トラブルなどを危惧する大家さんや不動産管理会社から、貸し渋りに遭うケースです。

そのような状況にある人を、国は「住宅確保要配慮者」と定義しています。2007年に「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」が制定され、より賃貸住宅を借りやすい環境を整えるため、2017年と2024年3月に改正。最新の法律は2025年秋ごろの施行予定となっています。

住宅確保要配慮者というと、多くの人は高齢者や生活保護受給者などをイメージしますが、Rennovaterの松本さんは「生活保護を受けられる人は毎月支給されるお金から家賃を払えるので、まだ良い方」だと話します。

「要件を満たさないために制度の適用とならず、いつ収入が途絶えるかもわからない状況の人たちが実に多くいます。例えば、児童養護施設から独立して生活を始めた人の中には、さまざまな事情から親や親戚に頼ることができず選択肢を狭められたり、入居しても生活がうまくいかずにつまずいてしまったり。犯罪歴がある人なども、一般的な不動産会社に相談して入居先を見つけることが難しい場合があるでしょう」(Rennovater 松本さん、以下同)

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

Rennovaterで住まいの支援を行った世帯の分布図。ここでいう「低所得者」とは「生活保護を受けられない人たち」をいう。いつ収入が途絶えるかわからない不安定な状況にあるため、家賃保証会社の審査にも通らず、賃貸住宅への入居が難しくなることが多い(画像提供/Rennovater)

会社員時代にワンルームを貸したことから始まった住まいの支援

Rennovaterは2018年に京都府京田辺市で設立した、スタッフ5名(うち、常駐は2名)の会社。空き家などの築古物件を購入、もしくはオーナーから管理を受託してリノベーションを施し、住まいに困る人たちに定住できる住宅を安価で提供しています。

京都・大阪を中心として近畿圏一帯に保有する自社物件の数は約260戸。そのうち19戸を東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏エリアに有しています。

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

Rennovaterの主な事業は、空き家や空室となっているアパートの部屋をリフォームし、住まいに困窮している人たちに安く貸し出すこと(画像提供/Rennovater)

Rennovateの事業で特徴的なのは「連帯保証人なし・即日入居可・入居時の初期費用本人負担なし 」(ただし、自社所有物件に限る)で住まいを提供している点です。

「他の不動産会社で物件を紹介してもらえない、審査を通らない、初期費用にお金がかかりすぎて借りられない、といった人たちも入居できるよう、基本的に私たちはどのような事情の人も断らないことをモットーにしています」

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

全ての人に心休まる住まいを提供することを理念とし、基本的にどのような事情のある人でもRennovaterサイドから断ったり、途中で支援をやめたりすることはない(画像提供/Rennovater)

きっかけは、松本さんが保険会社に勤めていたときに、賃貸物件を借りられないと困っていた人に対し、松本さんが所有していた新宿区のワンルームを貸したことでした。その時に初めて、社会には入居を希望しても断られる人がいることを知ったそう。2011年当時は住宅セーフティネット法も現在ほど整っておらず、空き家問題も今ほど多くの人に認識されていませんでした。

「空き家を活用し、住まいに困窮している人たちに貸し出していくということは、本来、自治体や公共セクターがやるべき仕事です。それを民間である私が先駆けてやることに意義があると考えたんです」

松本さんは「事業を維持可能な収益を確保できれば、社会的に意義のある事業になる」と手応えを感じ、会社設立に至りました。2024年9月には、Rennovaterが提供する物件は450戸(自社物件+管理物件)を超え、京都府と大阪府、奈良県の居住支援法人(都道府県によって指定される住宅確保要配慮者に対して賃貸住宅への入居促進サポートや生活支援を行う企業、団体)に指定されています。

ビジネスとして“長期継続”に重点を置く

住まいに困窮している人の多くは、収入が不安定、障がいがある、病のため働けないなど、住居以外にも問題を抱えています。「居住支援」とは、住まいの確保をサポートして入居できれば終わりではなく、継続的な生活支援が必要なケースも多々あるのです。

Rennovaterでは、フードバンクと連携して、月に1回希望者に食料を届けに行くなどの生活支援を実施しています。

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

2024年秋から食料支援を開始。

足が悪くて家賃を振り込みに行けないなどの事情がある人には、家賃を受け取りに訪ねるなど、入居後のサポートは入居者の事情に合わせて、できる範囲内で行っている(画像提供/Rennovater)

ただ松本さんは「生活の身の回りの生活や福祉的支援をサービスとして積極的に提供することは難しい」とも。創業当初は家を貸すのと福祉や生活面のサービス、両方を提供するのが良いと思っていたものの、個々いろいろな事由がある中で入居世帯を網羅する画一的なメニューなどはなく「全世帯に平等に対応していくのは難しい」と話します。

「住宅と福祉はある意味、対極にあるものです。福祉的側面に寄った支援団体はビジネスを前提にして回していくことについてあまり優先順位が高くないように思います。一方、不動産会社は短期的な利益も無視できないことが多いです。
私たちは目先の利益ではなく、長い目で見てビジネスとして事業を維持・拡大していくことを主眼に置いた居住支援を追求していて、入居後の生活支援は本当に必要とされることをできる範囲内で行っています」

「リフォームは最低限にとどめる」事業継続のためのスキーム

目先の利益を重視しないといっても、そのスローガンだけでは成り立ちません。長期的に事業を成立させていくために松本さんが行っている方法は、まず「できる限り安く仕入れる」ことです。売主が一刻も早く売却したいなど、事情があって低い価格の物件情報をいち早くもらえるよう、売主から直接物件を預かっている不動産会社と付き合い、相場よりもお買い得な物件の購入を狙います。

次に「リフォームは的を絞って行う」こと。松本さんたちのリフォームの基準は「自分が住めるかどうか」です。できる限りリフォームは内製化(自社の人材や設備で対応)し、自分たちではできない専門的技術を要するところは、長年の付き合いで信頼を築いてきた一人親方のような職人にお願いすることで、柔軟かつ迅速に、コストを抑えたリフォームができていると言います。

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

壁のクロスを張り替えるだけでも、住まいの印象は大きく変わる。的を絞った最低限のリフォームにとどめることで、改修費用を抑えている(画像提供/Rennovater)

そして、もう一つのポイントは、管理物件の数を多く持つことです。

「数を持つことで事業は安定する」と松本さんは言います。

「どんなに手を尽くしても家賃滞納などのトラブルは、全体の5%程度は起こります。家賃滞納やゴミ屋敷のようになるなど何か問題が生じたときには、自社かオーナーが費用を負担したり、人手を確保したりして対応しなければなりません。入居者に非がある音の問題でお隣から苦情が来れば他の物件に移ってもらうなど、日々の業務でも地道な対応が必要で、決して収益性の良い事業とは言えないのです。それでも黒字経営できているのは、薄利多売の原理。物件提供数の増加により事業が安定してきました」

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

家賃を滞納して姿を消した入居者が暮らしていた部屋。ゴミが散乱し、所持品もそのままになっている。もちろん、ほとんどの人は綺麗に住んでいるが、どんなに手を尽くしても、このような事故が一定数は起こることを計算に入れて支援する必要がある(画像提供/Rennovater)

Rennovaterでは、さらなる安定を目指して社債も発行しており、その額は累計で1億円弱。金融機関からの借入も約6億円になります。また事業を応援してくれる投資家から資金調達を行い、累計で2億円の資金を調達しているそうです。

自社で物件を購入・所有する形から、管理受託へのシフトチェンジ

しかし、初めから銀行などの金融機関がすんなりお金を貸してくれたわけではありませんでした。

「これまでの業績が認められ、今では当社に融資してくれる金融機関は5~6行に増えました。

それでも、多くの不動産を自社で購入するのは莫大な費用がかかります」

そこで、2023年ごろからは「空き家を自社で購入」から、空室が多いアパートを1棟丸ごとオーナーから管理を請け負うなどして、貸し出す方向へシフトしているそうです。

「これまでは、投資した費用を回収することへのリスクが大きくなる分、土地勘のない地域の物件には容易に手を出せませんでした。提供できるエリアや物件数が限られることで、住まいに困る人が目の前にいるのにすぐに入居できる物件を提供できなかったり、希望エリアから遠く離れた自社物件のある地域に引越してもらったりしなければならなかったのです。

オーナー所有の物件を活用することで、あまり詳しくないエリアでも物件を提供できるようになりました」

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

設立当初は、自社で購入した物件が中心だったが、今では提供している物件の半数近くが、オーナーから管理を受託している物件になる(画像提供/Rennovater)

10年以上空室だった古いアパートも、Rennovaterが管理を受託することで、新しいマッチングを生み満室になるまでに。オーナーにとっては、Rennovaterが入居者との間に入ることで細かいフォローをしてもらうことができ、安心して貸せるようになるはずです。

「家がない」「生活保護も受けられない」を空き家活用で解決へ。入居後も食料支援などで生活に伴走 居住支援法人Rennovater(京都)

空室の多かったアパートが、Rennovaterの手で満室に。管理物件であれば大量の資金を投入して不動産を購入する必要がないため地域の事情にあまり詳しくないエリアにも進出できるメリットがある(画像提供/Rennovater)

この成功体験を踏まえ、松本さんは今後「各地域に使える物件があるという状況をつくっておきたい」と話します。管理物件に加え、新たに各自治体で宅地建物取引業者として登録し、他社が管理する物件を仲介する形での物件紹介も行うことで、現在、寄せられる相談に対する解決率は6~7割を維持しているそう。オーナーから管理を受託している物件や仲介物件は、一定の初期費用がかかりますが、その分、入居希望者にとっては選択肢が広がります。

Rennovaterは今後5年以内に1000物件の提供、その先は1万物件を目指しているとのこと。そのために、行政と連携して公営住宅の目的外使用も視野に入れているそうです。

「居住支援は『国も後押ししているからやろう』という軽い気持ちでは長続きしません。

相談を受ける側にとって、相談が寄せられるのは日常のことでしょうが、相談者は、相当な勇気を振り絞って相談しているのかもしれない。そのことを理解して事に当たらなければならないと思います」

居住支援には、入居後の生活支援を含む伴走的な支援が必要です。しかし、それを支援する団体の善意に頼るだけではなく、事業として成立するように考えなければ継続していくことは難しいでしょう。Rennovaterは居住支援において、とても現実的なバランスを保って事業運営していると感じました。「居住支援を事業として継続していくことができるのだろうか」と危惧する多くの居住支援団体にとっても、参考となるのではないでしょうか。

●取材協力
Rennovater株式会社

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