賃貸住宅に住んでいると、さまざまな「困りごと」に遭遇する。そんなとき、いつでもすぐに駆けつけてくれる人がいれば安心だ。
愛媛県の松山市内を歩いていると、やたらと一つのキャラクターが目につく。一見するとパンダのようなクマのような……。よく見ると顔がハート型で、斜めにかぶった野球帽には「a」の文字が。そう、このキャラクターこそ、松山市民ならだれでも(?)知っている「レスQちゃん」だ。
レスQちゃんは、松山市の不動産会社日本エイジェントが運営する「レスQおたすけ倶楽部」のキャラクター。レスQおたすけ倶楽部とは、同社が管理する賃貸住宅で「蛇口から水が出ない」とか「鍵をなくした」など“お困りごと”が発生したときに、24時間365日駆けつけて解決してくれるサービスだ。
同様のサービスは専門会社に頼めば利用できるが、簡単な修理だけでもそれなりの料金がかかる。だがレスQおたすけ倶楽部では年会費1万2000円(税別)を払えば、それ以外にかかるのは修理の材料費のみで出動費や作業費は基本的に無料だという。さらに入居する賃貸住宅が会員物件なら、入居者の年会費負担はゼロ円というありがたさだ。
【画像1】レスQちゃんは着ぐるみが松山名物の土曜夜市にも登場するなど、地元では大人気(写真撮影:筆者)
騒音トラブルや不審者にも対応する点が女性にも好評松山市内にある「レスQセンター」を訪ねてみると、建物には巨大なレスQちゃんが! さらに店内では大きなレスQちゃんのぬいぐるみが出迎えてくれた。センターは昼間15名、夜間3名の24時間体制となっている。

【画像2】松山市のレスQセンターは巨大なレスQちゃんが目印。2006年の開設以来、24時間365日休みなく稼働し続けている(写真撮影:筆者)
センターの壁には、利用者からのメッセージがたくさん貼られていた。「電話対応の丁寧さ、スピーディな対応にびっくりです」「夜中にもかかわらず、親しみのある対応に満足しました」など、感謝の言葉が並ぶ。「設備のトラブルだけでなく、騒音や不審者などにも対応する点が、特に女性に喜ばれているようです。学生の親御さんが、自分の子どもに『レスQおたすけ倶楽部の使える部屋がいいわよ』とお薦めしていただけることも」(藤田さん)
入居者の困りごとには物件をよくするヒントがある日本エイジェントはこのほかにも無人店舗で部屋探しができる「スタッフレスショップ(http://suumo.jp/journal/2013/07/22/48552/)」や、入居者が好みの壁紙や床材などを選べる「リクエストマンション(http://suumo.jp/journal/2013/08/21/50318/)」など、独自の仕組みを手がけており、全国の同業者からも注目されている。このレスQおたすけ倶楽部も、さぞかし全国から問い合わせが殺到しているのでは、と思ったのだが、「問い合わせはあるが、実際に導入する不動産会社は少ない」のだと、同社経営企画推進室室長の乃万春樹さんは打ち明けてくれた。なんでも、「手間がかかるわりに儲からない」からだという。
では、あまり儲からないサービスをなぜ提供し続けるのか。その理由を、乃万さんは次のように話す。「お困りごとはいわば入居者の“悲鳴”です。

【画像3】水まわりなど設備のトラブルは入居者が帰宅後の夜間に発生することも多く、24時間駆けつけサービスは安心感が高い(写真提供:日本エイジェント)
住む人に「安心・快適な暮らし」を提供することが最大の目的日本エイジェントは1981年の創業以来、それまで不動産会社があまり公開したがらなかった物件情報をすべて店頭に並べ、顧客自身が自由に選べるセレクトコーナーを開設。また物件をビデオで紹介するVTRシステムを開発するなど、全国的にもユニークな取り組みをいち早く手がけ、今では愛媛県で1番目に管理物件数の多い賃貸管理会社に成長した。その原点には、創業者である乃万恭一社長の不動産業への思いがある。
「例えばレストランに食事に行ったとき、店の内装やウエイターのサービスがどんなに素晴らしくても、肝心の料理がまずければ台無しです。賃貸住宅を借りる人にとっても、部屋を借りる目的は安心・快適に暮らすことでしょう。その本当に大事にすべきところで、お客様にとって良いと思われるサービスを提供していきたいと考えています。そのサービスの中には、レスQおたすけ倶楽部のように大きな利益が上がらないものがあってもいいのです」(乃万社長)
同社がこれまで手がけてきた独自サービスは、乃万社長をはじめ社員のアイデアから生まれたものばかりだという。社内でさまざまなアイデアが提案され、いいと思われるものはすぐに実行する風土があるそうだ。
「新しいことを始めるときに、マイナス要因ばかり考えているとブレーキがかかってしまいますが、当社ではまずプラス要因から考えます。計画段階で100点満点はあり得ませんが、60点ぐらいならまず始めてみて、走りながら改善していけばいい。
常に部屋を借りる人のメリットを優先し、「いい」と思ったものは結果が出るまで実行する。そんな社風が、これからも賃貸管理業界に新しい風を送り続けてくれるに違いない。

【画像4】「どんなにIT技術が進んでも、居住者の困りごとへの対応は人間しかできない。だから大事なんです」と話す乃万恭一社長(写真撮影:筆者)
●レスQおたすけ倶楽部HP:http://www.nihon-agent.co.jp/anshinclub.htm