三重県・四日市の地下駐車場で、数百台の車が水没したニュース。国土交通省が立ち入り調査を行う事態となっていますが、現場には水の侵入を防ぐ「止水板」が設置されていなかったとも言われてます。

止水板とは、水をせきとめる板状のバリケードのようなもの。では止水板があればどうだったのか?四日市とは別のケースですが、先日の大雨で、都内の地下店舗では止水板を設置していたことで浸水を免れた例があったようです。製造しているメーカー、株式会社KTXの、樋口 幸司さんに伺いました。

地下1階の病院を守った「止水板」

まずは2年前から福岡県で始まった取り組みについて。企画地域振興部の木下 創さんに聞きました。

株式会社KTX 樋口 幸司さん

世田谷区のテナントビル。その病院は地下1階にあると伺っています。地下1階に、地上階から階段越しに水がどんどん入ってきて、病院まで浸水してしまう、ということが過去にもあった。ただ、今回は「止水板」をエントランスにつけることで、エントランスより中=医院の中に水が入ることを防げたという声を聞きました。

結構、水が来てしまうと、例えば「土のう」を積んでる時間もないぐらいの時間で、すぐ水っていうのは来てしまうみたいなんです。止水板の場合はそれを1枚で設置できますので、誰でも簡単に取り付けられる仕様になっています。地下駐車場や、立体駐車場の前に取り付けている事例もあります。

止水板で防げる?車の水没 被害と対策の画像はこちら >>
<KTXが開発した「スーパー止水番2」。
こちらの会社は自動車部品の金型を製造する会社です>
止水板で防げる?車の水没 被害と対策
<ドア側に、マグネットでワンタッチで貼り付けられます>
止水板で防げる?車の水没 被害と対策
<バチン、とくっつきます>
止水板で防げる?車の水没 被害と対策
<KTXの樋口さん>

あくまでも四日市とは別の話ですが、こちらは、止水板を活用して被害を防げた例。

これまでの浸水対策といえば「土のう」ですが、とにかく大変です。20キロ以上ある袋を何十個も積み上げて、汗だくで重労働。しかも土袋は劣化しやすく、いざという時に使えないことも。

そこで最近増えているのが「止水板」。

形や素材は各社さまざまですが、今回の会社ではアルミ製の板を採用。ドアのサイズに合わせてオーダーメイドで
作れるので、あとからでも設置できます。使うときは、端についているマグネットを、扉に「パチン」と貼り付けて、ドアをふさぐように密着。水が押し寄せても、しっかりせき止めてくれる仕組みなんです。

ただし設置には数十万円かかる場合もあります。そのため都内でも、足立区や板橋区などの一部で、費用の半額を補助する制度も始まっていて、こうした助成金を利用して取り付けるケースも増えているようです。

水が引いてもエンジンを自分でかけない。
触らず待つのが鉄則

ここまで聞くと「止水板さえあれば安心」と思ってしまいますが、実際にはそうとも言い切れません。想定よりも水位が高くなると乗り越えくるし、今回の四日市のケースでは「取り付ける間がなかった」と言う声も出ているようです。では、もし自分の車が水に浸かってしまったらどうすればいいのか。ロードサービスのJAFに聞きました。東京支部・杉本 実さんのお話です。

JAF 東京支部・杉本 実さん

水が引いた後でもですね、エンジンはかけないようにしてください。

水が完全に引いても、エンジンルームの中、あるいは「空気の取り入れ口」に水が入っていると、そこでエンジンをかけることによって、その瞬間に、エンジンの中に水を吸い込む可能性がありますし、電気系統に水が入っている可能性がありますので、ショートしてしまって、電気系統の破損ということにもつながりますので。まずは鍵を回したり、スタートボタンを押したりすることは避けていただきたい。

自宅の駐車場が「半地下の駐車場」か何かになっていて、そこに水が溜まってしまって、(車に)入っちゃったという依頼はありますね。

まず緊急時として、運転している最中に水位がみるみる上がってくる場合。水が深くなるとドアは水圧で開かなくなるので、そんな時は、脱出用のハンマーで窓を割って、できるだけ早く車の外へ逃げることが大事です。

そしてもうひとつ、無人のうちに車が水没してしまった場合。

水が引いて「もう動かせそう」と思っても、エンジンをかけるのは絶対にNG。中に水が残っていると、その瞬間に「ガシャッ」っと部品が壊れてしまうので、電気自動車やハイブリッド車も含めて必ずJAFなど専門の業者に、レッカーを頼む必要があります。

さらに、焦って水で波々の道路をそのまま走ろうとする人もいますが、これも危険。車の床面を乗り越えるとリスクが高まるそうなので、「原則、冠水路は走らないで」とのことでした。

保険は半分だけ?水没車の現実

では、ここで気になるのが、「保険はどうなるのか?」という点です。実際に全国から水没車を引き取っている、株式会社タウの及川 賢二さんに、伺いました。

株式会社タウ 及川 賢二さん

だいたい今、保険に入られてて「車両保険」にも入っている車っていうのは、全体の「半数近く」にとどまっていると思いますので。車両保険に加入していないケースは、それ(保険金の給付)に該当しませんので、その場合は残念なことに、保険会社から保険金を受け取ることはできなませんので、お客様・所有者の自己負担という形になります。

もちろん、水に浸かってしまった深さによっては、修理できることもございますし、我々のように車を買い取りしている業者もございますので、頼っていただければ、お力になれると思っています。

ものによると、もともとの中古車としての価値の7割くらいの金額で買い取りできるケースもありますし、中には残念ながら、1割に満たない金額になってしまうケースもありますね。

車の保険というと、自賠責はみんな必ず入っています。でも水没の補償までカバーしてくれる「車両保険」は任意で、実際に入っている人は半分ほど。

半分近くの人は補償を受けられないのが現実。一方で、被害の数は膨大で、タウでは、2018年の台風でおよそ8900台、翌年の台風では1万4000台もの水没車を引き取っていて、まだ使える部品があれば買い取って、再利用につなげる動きも増えているそうですが、やっぱり保険に入っていないと、いざと言うときは本当に辛いものです。

車の水没は、誰にでも起こりうる身近なリスクと考えて、万が一のときにどう行動するか、改めて考えておく必要がありそうです。

(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)

編集部おすすめ