ラッパーにしてラジオDJ、そして映画評論もするライムスター宇多丸が、ランダムに最新映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論するのが、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の人気コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(金曜18時30分から)。ここではその放送書き起こしをノーカットで掲載いたします。
今回は『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年8月3日公開)です。

宇多丸:
ここからは週刊映画時評ムービーウォッチメン。このコーナーでは前の週にランダムに決まった課題映画を私、宇多丸が自腹で映画館にて鑑賞し、その感想を20分以上に渡って語り下ろすという映画評論コーナーです。それでは、今夜評論する映画は、こちら! 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』!

(『ミッション:インポッシブル』のテーマが流れる)

はい、ラロ・シフリン作曲のおなじみのこのテーマ曲でございます。トム・クルーズが凄腕のスパイ、イーサン・ハントを演じるスパイアクションの第6弾。任務に失敗し、テロ組織にプルトニウムを奪われたイーサンたちIMFのメンバーは、世界同時核爆発の危機を回避するため危険な任務に挑む。サイモン・ペッグやビング・レイムス、レベッカ・ファーガソンなど続投するキャストに加え、ヘンリー・カビル、アンジェラ・バセットらが新たに参戦。監督は前作『ローグ・ネイション』のクリストファー・マッカリーがシリーズ初の続投ということでございます。

この番組でもね、レッドカーペットでの日比麻音子さんのトム・クルーズ突撃インタビュー。サイモン・ペッグもありました。クリストファー・マッカリーもありました。その翌日の私の、クリストファー・マッカリーへのインタビュー。

こちらも番組でオンエアいたしましたが。そんなこんなで盛り上げてまいりました『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』、もう見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>のからの監視報告(感想)をメールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、多い! これで少なかったら本当に失望してしまいますが、ドスンと来ております。賛否の比率が褒め(賛)のメールが8割、残りが2割。前作『ローグ・ネイション』と比較する人が多く、そこで好き嫌いが分かれた模様。

主な褒める意見としては「とにかくトム・クルーズすごい!」「間違いなくシリーズ最高傑作」「CGを多用した近年のアクション映画が色あせて見えるほど最高のアクション映画」「傷つきながら全力を尽くすイーサンと現実のトムが重なり、まさかの涙」ということでございます。多かった否定的意見としては、「アクションはたしかにすごいが、あまりにも物語がめちゃくちゃすぎるのでは?」「アクションはたしかにすごいが、あまりにもトム・クルーズのワンマンショーすぎるのでは?」といったところがございました。

■「トム自身が不可能なミッションをこなす超大作ドキュメンタリー映画」(byリスナー)

代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「赤いきつねと緑のゴリラ」さん。「『ミッション:インポッシブル』、いやトム・クルーズ、いったいどこまで進化する気なんだ? このシリーズ、最初は普通の娯楽スパイアクションだったはずなんです。ちゃんとイーサンが不可能なミッションをギリギリで成功させる爽快なアクション映画だったと言えるでしょう。

しかし、いつからでしょうか? もうイーサンではないんです。トムが、トム自身が、不可能なミッションをこなすというある種超大作ドキュメンタリー映画として、私たちは複雑な感情を抱きながら鑑賞する前例のない映画へと進化しました。

『誰かトムを止めてくれ!』『いや、ダメだ。もっと走り続けてくれ!』という矛盾した感想が心の中で何度も行き来する、近年ここまでハラハラドキドキさせてくれた映画は他になかったかもしれません。そして56歳の男性とは思えない、とてつもない身体能力とお約束とも言える恒例のトム走り。特に今作のトム走りは最高のカメラアングルとも相まって、もはや映画云々を超えた激しい感動により、泣きそうになりました」ということでございます。「クリストファー・マッカリーと相性がいい」というようなことも書いていただいております。

一方、ダメだったという方。「映画太郎」さん。「初メールです。脚本の粗が指摘されている今作ですが、私は今作の最大の問題点は『これは映画のアクションになっていない』という点だと思います。映画のアクションというのは物語上の命題にかかわる何かを求めあう攻防です。

ヒロインを助けるために敵を追う、戦う。命題を左右するアイテムを求める等、その過程に発生する障害の数々。敵との攻防。その瞬間的な成否の行方を見守ることがアクションの存在する意味だと考えます」など、いろいろとあって。

今回のイーサンはちょっとうっかりさんすぎて、いままででいちばんドン臭いんじゃないか?と。「物語上大して重要度の高くない命題をこなす姿を延々と見せられるのが今作の特徴です」と。で、まあいろいろと書いてあって。「……本作は映画ではなく、YouTuberの奇行の数々をスクリーンで見てるようなものです。物語上の命題を左右する課題を次々こなしてドラマを形成していた『マッドマックス/怒りのデス・ロード』とは対照的な作品だと思います」という。この方の否定的意見、かなり僕、たしかに理はあるなという風に思って拝読しました。まあ、その上で……ということでお聞きくださいませ。

■前作『ローグ・ネイション』で「『スパイ大作戦』らしさ」と超大作とのバランスを見出した

ということで私、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』、実は監督インタビューのために一足早く試写で拝見をして。

その後バルト9で、まだちょっと2回しか見れていないんですけどね、申し訳ございません、見てまいりました。ということで、元々は1966年から1973年にかけて、日本でも67年から73年にかけて放映されていた、テレビドラマシリーズ『スパイ大作戦』ですね。それを、言わずと知れた現代最高のスーパースター俳優トム・クルーズが、ぶっちゃけ一作目ではかなり強引な方法で(笑)、自らが演じるキャラクター、イーサン・ハント・メインの映画シリーズにグイッと仕立て上げてしまったという。それがこの『ミッション:インポッシブル』の現状の六作、というわけですね。

なので、その元のテレビシリーズ『スパイ大作戦』らしさとか、『スパイ大作戦』ならでは、の要素と、トム・クルーズ主演ならではの、その時点での最新型・最先端アクション巨編という要素……この、微妙に異なる2つの要素。この2つの要素のバランスをどう取るか、というあたりで、毎回模索を重ねてきたシリーズだとは言えると思います。で、それが特に四作目の『ゴースト・プロトコル』、2011年の作品で、ひとつの正解バランスを見つけた、という感じで。それ以降、だいぶシリーズが作りやすくなったんじゃないかなとは思うんだけど。

で、その次の、今回の『フォールアウト』の前作に当たる『ローグ・ネイション』、2015年の作品。これ、もう私は大大大傑作として大評価しましたけども。その『ローグ・ネイション』で、ついに、その『スパイ大作戦』の最大のキモであったはずのポイント……要はこういうことですね。チームプレー、頭脳戦で敵を巧妙な罠にはめる。

もっとはっきり言っちゃえば、「敵を、巧妙などっきりカメラ的罠にはめるカタルシス」。これが『スパイ大作戦』なんですよね。で、映画シリーズでほぼはじめて……つまり実は映画シリーズではそのどっきりカメラ要素をちゃんとやっていなかった。で、ほぼ初めて、そしてこれ以上考えられないほどの見事さで、ストーリーの根幹にそれが組み込まれた、ということですね。

先日番組でオンエアーした、今作の脚本・監督のクリストファー・マッカリーさんのインタビューによれば、(『ローグ・ネイション』は)当初異なる結末だったのを彼の意見で改変した結果、(現状の)これになった、という驚きの事実を話してくださいましたけども。そりゃあトムの信頼も厚いわけだと。めちゃめちゃ良くなっている。どう考えてもこれ(現状の結末)以外、考えられないし。そして、シリーズ初の監督続投もそりゃあさせられるわけだ、という風に、納得の出来でございました。ということでとにかく、『スパイ大作戦』の映画化、そしてなおかつトム・クルーズの主演作、というこの2つの命題を満たす作品として、ひとつの完成形が、前作『ローグ・ネイション』で出来上がった、という風に言えると思います。

■トム・クルーズはバスター・キートン、ジャッキー・チェンをすでに超えている

で、それと並行してですね、トム・クルーズ自身による、身体を張った、映画史でもぶっちぎりトップレベルで危険なスタントアクションも、どんどんエスカレートしていきつつあり……という。まあ、一作目からかなり危険なことはやってるんですけどね。

TGVの列車の上に乗ってアクションするのも、あれは実際に乗っているわけじゃないんだけど、風圧がブワーッとなって……『ミッション:インポッシブル』大ファンの番組ディレクターのミノワダくんによれば、「ゴミがちょっと目に入っただけで失明する危険がある撮影だった」っていう(笑)。まあ、そんなことは前からやってるんだけど、それがさらにどんどんどんどんエスカレートしていきつつもあって。映画史的には完全に……これは私、いつもしつこく言っています。バスター・キートン→ジャッキー・チェン→トム・クルーズ。この系譜がもう、バコンとあるわけですね。

ただ、その三者の中でもトム・クルーズは、56歳にしてさらにその無茶がエスカレートしてるという件。そしてですね、たとえば乗り物の運転技術など、アクションの引き出しの多さなどを含め、やっぱり僕、バスター・キートンやジャッキー・チェンと比べても、トム・クルーズは頭1個抜け出ている、と思うんですよね。で、ポイントとしては、これは町山智浩さんも『たまむすび』で指摘されてましたけども、普通、主演俳優・スター俳優が、「自分で危険なスタントをやりたい!」って言い出しても、ハリウッド映画では、プロデューサー、そして契約がそれを許さないわけですね。

映画の撮影が止まっちゃったりしたら大変なことになるから。なんだけど、トムの場合は、いちばん力のあるプロデューサーが、本人!っていうね。つまり、誰も止める人がいない(笑)っていう状況。なのでつまり、今の彼のこの稀有な立場……スーパースターで、自分でプロデュースもできるという稀有な立場と、もちろんいろんなアクションがこなせる稀有なスキルと、そしてわざわざそんなことに挑む稀有な意思。その3つが揃ってこそ成り立つ、本当に奇跡的な存在なわけですよ、いまのトム・クルーズっていうのは。特にこの、今の『ミッション:インポッシブル』シリーズっていうのは、それ自体、映画史を更新する存在、っていうことになってると思うんですね。アクション映画史、ひいては映画史を。

■クリストファー・マッカリー、やっぱりわかってる!

とは言え、でもトムも現在56歳ですから。遠からず、体力的な限界は間違いなく訪れるんですから。これマジでみんな、「拝んで見ろよ!」って僕は思っているぐらいですね。拝んで見ろよ! クマス(熊崎風斗アナウンサー)的に言えば、「トム・クルーズがここまでやってくれた! 感謝です!」っていうことだと思うんですけどね。ということで、脚本・監督のクリストファー・マッカリーが、シリーズではじめて続投しての本作『フォールアウト』、ということなんですけども。まず僕的な激アゲポイントはですね、タイトルが出る前の、いわゆるアバンタイトル・シークエンス。前の『ローグ・ネイション』は非常に超ド派手なつかみから始まりましたけど、今回はそれとは対照的に、全体に非常に重苦しいムードで幕を開けますよね。

暗闇での銃撃戦とか……なるほど、監督がいろんなインタビューとかで「これを意識した」って言っている、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』っていうね、ジョン・ブアマン監督の怪作があるんですけども、これ風の非常にダークな画作りとかも含めて、重苦しいトーンで幕を開けるなぁ、と、思いきや……! さっきね、『ローグ・ネイション』がついに、その映画シリーズとしてはほとんどはじめて、かつほとんど理想的に、テレビシリーズ『スパイ大作戦』本来のイズム……身も蓋もない言い方をすれば、「チームでどっきりに引っ掛けて『ざまあ!』イズム」(笑)、これを実現してくれたって言いましたけど。今回の『フォールアウト』アバンタイトルでは、さらにその方向性を一歩押し進めて、やはりついにやってくれた! ついにやってくれた! もう今回は、ほとんどテレビシリーズそのまんまって感じの、これぞ『スパイ大作戦』!っていう感じのトリックを、きっちりと、もうやってくれました。ありがとう!っていうね。

実は96年の一作目のオープニングでも近いことをやっているんだけど、あちらは実は、ちょっと惜しいんですよね。大事なキモを1個外しちゃっていて、「ざまあ!」度が弱いんですよね。だから、そこに行くと今回はもう、あの敵の憎々しさ……「この野郎! 憎らしいな!」っていう。あと、絶望感。「うわっ、もうダメだ……」っていうところからの、一瞬で大逆転!っていう、まさにその『スパイ大作戦』という題材ならではの快感が、完璧に構築されている。やっぱりクリストファー・マッカリー、わかっている!っていう、ガン上がりするしかないくだりでございました。最高のアバンですね。

■画一発で驚くアクションシーンのつるべ打ち

ということで今回……前々作、前作の撮影監督ロバート・エルスウィットさんから、わりと新し目の人、ロブ・ハーディさんに撮影監督が変わっての本作。ものすごーく大雑把に言えば、前作がちょっと60年代調だったっていうかね、豊かさ、エレガンスさなんかも感じさせるような画作りだったのに対して、今回は、諸々含めてどっちかっていうと70年代風味。ギラギラした色使いとかも所々あるし、あとはやっぱり、ゴリついたアクションだけが突出している感じとかが、70年代風味だと思うんですけど。で、それはあえてはっきりと、意図的にテイストを変えているわけですね。

さっきから言っている本来の『スパイ大作戦』イズムっていうのは、そのアバンタイトルと、あと中盤のある展開ぐらいに集約されている……これもね、インタビューで(クリストファー・マッカリーが)言ってましたね。「トムが骨折して休んでいる間に考えていって、ブラッシュアップしたのがその中盤の展開だ」というようなことをインタビューで話していて。本当に驚きでした。本当にクリストファー・マッカリーは「災い転じて福となす」の達人ですね。でも、それって映画制作っていうものの、ひとつの大きな本質でもあると思うので。これはまさに、映画監督として優れている、っていうことだと思うんですけども。で、『スパイ大作戦』的な要素は、アバンタイトルと中盤のある展開に集約されていて。

今回はむしろ、もうひとつの要素……つまり、年々エスカレートするトム・クルーズの命がけスタントアクション、っていう部分が、ゴリッゴリに押し出された作りになっている。これは間違いないと思いますね。とにかく、やっていることそのものは、「スカイダイビング」とか「バイクチェイス」とか「ヘリチェイス」とか、あるいはそれこそ「爆弾を止める」とかね。そんなの、だって『ゴースト・プロトコル』でもやっているわけですけどね。あと、他の映画でも無数にやっているようなことなんだけど、その1個1個が、見たこともないレベルで、口あんぐり、のことをいっぱいしているというね。

僕、まずその、画一発で驚かせることができている、っていうだけで、その映画はもう十分評価に値する、と思っていますけどね。特にこの時代にね。たとえば、スカイダイビング。これまでもスカイダイビングシーンのサスペンスっていうのは、スパイ映画の華で。たとえば、『007 ムーンレイカー』。そして、それのある種ちょっとパロディ的でもあるけど、さらに発展させた『ゲットスマート』。あれも素晴らしかった。あと、スパイ映画じゃないけど、『アイアンマン3』。あれの降下シーンも素晴らしかった。名シーンがいっぱいあるんだけど、今回はですね、まああちこちでも言われていますね。

■こんなアクション見たことない! でもお話上の必然は……

「HALOジャンプ」っていう特殊部隊の技術で、空気もないような超高高度から降下して。で、すごい低高度でパラシュートを開くという、まあレーダーに引っかからないための特殊技術なんですけど。それを、トム自らがトレーニングして習得して。さらに、この映画用に装備も開発したりして……あの、顔がはっきり見えるヘルメットとかを開発したりして、実際にやってるという。で、100何回も飛んで撮影したというこのシーン。これね、すごいんです。要はこのシーン、100何回も撮って、それがどういう場面になっているか?っていうと、こういう場面ですね。

飛行機のハッチから、これから飛び降りようと思ってイーサン・ハントが下をのぞくと、雲が広がっていて。「ああ、これじゃダメだな」っていうので1回引き返す。からの、怒涛のような降下が始まって。で、途中でアクシデントが起こって、そこからいろいろとすったもんだがあって着地するまでを、これはどうやって作っているのかちょっと正確にはメイキング見ないとわかんないんですけど、おそらく、その複数のテイクをデジタル的につないで、擬似的なワンショットにしているんだと思うんだけど、とにかく、ひとつながりのショットで見せるわけですよ。

だから、100何回撮ったっていうのは、天候の様子が同じじゃないとつながらないから、同じ時間帯に何度も飛んだっていうんですけど。とにかくひとつながりのショットで見せる、間違いなく、こんなの見たことない!っていう画になっているわけですね。ただ、もちろんですね、これも町山さんも突っ込んでいたようにっていうか、見れば誰もが突っ込むところだと思いますけど、こんなド派手な方法で侵入する必要、結果全くないよね(笑)、っていう流れにはなっちゃっている。今回の映画は、たしかにそういう部分がいつもより目立つ。いつももあるんだけど、いつもよりも目立つ作りなのはたしかだけどね。だだまあ、全く見たことがないような画ではある。

そこからの、ディスコの中にある真っ白なトイレの中での格闘シーン。特に、殴り合いが始まるまでの、緊張感あふれる空間の見せ方。非常にたまらないものがありますし。で、そこから、一作目に出ていたマックスっていう謎の存在の娘という、ホワイト・ウィドウっていう女性とペアになっての、ダンスをするように刺客を撃退していくくだり。これは、本当に『007』的な王道スパイアクションっていう感じで、非常に楽しいですし。その後には、ちょっと潜入刑事的なというか、板挟み状態サスペンス。これも楽しめるわけですよね。で、その板挟み状態サスペンスの解決というか、それをどう乗り切るかに、イーサン・ハントというキャラクターの行動原理……それが後に、どういう風に動いていくのか? とにかく、「イーサン・ハントというキャラクターは、こういう風に動くからこそヒーローだし、世界を救うんだ」っていうキモの部分が、ここでちゃんと描かれていたりするわけですね。

■思わず劇場で漏らした一言。「えっ、バカなの?」

で、そこからさらに、バイクでの逃走チェイスシーン。もちろん、ノーヘルはもはやデフォルト(笑)という、バイクでの逃走シーンが始まる。前作でもバイクチェイスはやっていましたけど、今回はやはり、監督インタビューでも言ってました。クロード・ルルーシュの『ランデヴー』という1976年の短編を参考にしたと話していた通り、パリの街を駆け抜けるからこそのフレッシュさ、というのを狙っている。特にですね、僕は「ああ、これは見たことがない!」って思ったのは、凱旋門周辺の、いわゆるラウンドアバウトっていう仕組みになってる、周りをぐるぐる回ってる交差点を、逆走する画の新鮮さ、っていうことですね。

バイクと凱旋門、それぞれは普通なんだけど、合わせると……ウーン! こんなにフレッシュなんてー!(笑)っていう効果になっているっていうことですよね。で、その後さらにパリで、その(アクション満載な見せ場の)合間に、イーサンとエルサの、追いつ追われつな、ちょっと距離のあるデートというかね、あの感じ。あれはアラン・レネ風の画作りっていうんですかね、そんな感じの美しさがあって。さらにそこから、伝家の宝刀「トム走り」が堪能できる、ロンドンでの屋根マラソン……螺旋状の階段を上るっていう上から見たショットであるとか、屋根から屋根へのジャンプ、そして最終的に「塔のてっぺんで立ち尽くす男」のシルエット、っていうあたりが、(前作に引き続き)今回のヒッチコックオマージュ、今回のこれは『めまい』感だな、っていう風に思って見ていましたけども。

とにかくですね、先ほどメールにもありましたけど、まっすぐ伸びた屋根の、白い線になっているその上を、延々とトムが走っていくのをグーッと捉え続けるそのショットだけで、僕は涙があふれてくる。「これが映画だ! なんかわからんが、トム、ありがとう!」ってなる。と、いうことだと思いますね。そんでもって最後に控えしは、今回の目玉中の目玉、ヘリコプター・チェイスという。もうね、これもあちこちで言われている通りですね。トム自身が、2000時間ですか? 訓練を重ねて習得した、操縦技術のすさまじさ。きりもみ落下をコントロールするって……それはもう完璧に、イーサン・ハントを超えてますからね、技術的に。

それもたしかにすごいんですけど、僕、個人的にはこの『フォールアウト』全体のハイライトは、ここだと思ってます。エルサっていう女性キャラクターが、イーサン・ハントが猛然とヘリの方に走ってくのを見て、「えっ、何をしようとしているの?」って言う。そしたら、サイモン・ペッグ演じるベンジーが「見るな!」っていう。見事なセリフですね。「これから起こることは(見ないほうがいいほど)恐ろしいことですよ」という……しかもこれは、監督インタビューによれば、当日トムがアドリブ的に付け加えたセリフ。見事ですね。これがあるからこそ、その後の恐ろしさも際立つ。そこからの、ヘリコプター下部、イーサン・ハントがロープをよじ登って。で、足をヘリコプターに引っかけようとするが……これは一作目のクライマックスでも同じ動きをしているけど、今回はガチですから。引っかけようとするが……からの、まさかのストーン! 落下。これ、予告でも出ている映像ですけど、流れで見ると、僕、思わず初見時は「えっ、バカなの?」って(笑)。褒めているんですけど、「えっ、バカなの?」って、思わず声に出して言っちゃったぐらい、とんでもないショットになっている。

で、よじ登るところを、ずーっと前方にいるヘリ内のヘンリー・カヴィル越しに、後ろで(ヘリに)よじ登っているっていうショットを……否定的なメールでは、「あんなの何の意味もない」って言っているけど、僕はあのショットに、逆に度肝を抜かれましたけども。「本当に登ってるよ……」っていう。距離感も含めて。で、そこからさらに、たとえば『M:i-3』の序盤のヘリアクションと比べても、本物ゆえの緊迫感、ケタが何個も違うようなそのヘリチェイスがあってからの、崖っぷちに落ちてから、今度はタイマン勝負。要するに、延々延々見せ場が続いていって、なかなか許してくれない(笑)っていうのも今回の特徴だと思いますね。「まだ? まだ許してくれない? まだ許してくれない?」っていう感じで。

■確かに『ローグ・ネイション』よりは力押しな一作ではある

しかも、ここですね。僕がすごい感心したのは、この『ミッション:インポッシブル』というシリーズ中でもちょっと語り草の、「あそこ、すげえ迫力あるけど、物語的には何の意味もないよね」っていう風に語り草になってた過去作のあるシーンが、ちゃんとイーサン・ハントというキャラクターの伏線として、今回生かされている! 「うわっ! 生きたじゃん、あれ!」って。僕はちょっと感心、感激してしまいました。プラス、要は「爆弾を止める/止めない」、それそのものは、それこそ『ゴースト・プロトコル』でもやったばっかりのことだし、まあ、超ありがちな展開なんですけど、今回はそこに、どうやって爆弾を止めるかというと、チームワークがなきゃ止められない爆弾だ、っていうのがあるから。チームワークがあってこそ、今回は解決ができる。

そしてそれは、イーサン・ハントという人の、「1人も見捨てない」精神ゆえに成り立ったものだという、物語的ロジックがちゃんとあるわけですよ。要するに、序盤であの彼を見捨てていたら、この爆弾は解除できてないわけですしね。あるいは、奥さんを守り抜こうと思ってなければこうはなっていない、っていうことなんですよね。ということでやっぱり、クリストファー・マッカリーのまとめ力、半端なし!っていうのも痛感させられる。実はちゃんと物語ロジックもあるクライマックスになっていて、見事だなと思います。まあ、もちろん前作『ローグ・ネイション』の完成度に比べれば間違いなく力押しな一作ではあるのですが。

■映画史の最先端に屹立する傑作。ありがとう!

そしてなにより、やっぱり話はたしかにデコボコしているので、好みが分かれるところもあるでしょう。否定的メールにも理はあると思います。ただその、アクションだけが延々と突出してしまうっていうのがじゃあ、かならずしも映画の魅力にとってマイナスだけか?って言うと、そうではないでしょう、というのがこの『フォールアウト』の……映画の面白さって、こういうところもやっぱりあるよな、っていうかね。そういう風に私は改めて思いました。ということで間違いなく……まあたとえば、それこそさっきバスター・キートンって言いましたけども。バスター・キートンの映画、ただ延々とバスター・キートンが走って、さまざまな障害を乗り越えてゆくだけでも、映画的な快楽はありますよね。それはやっぱりね。

だから、そういう域に達しているんですよね、やっぱりトム・クルーズは。ということで、間違いなくアクション映画史、つまるところ映画史の最先端、エッジに立っている一作なのは間違いないと思いますし、やはり何度も言いますが、トムが元気なうちにありがたく見とくべき! 手を合わせて見るべき! 感謝するべき!っていうね。トム・クルーズがまたここまでやってくれた、感謝です!っていうね。ということで、トム・クルーズ、そしてクリストファー・マッカリー、さまざまなスタッフさんにも、最後「♪ジャッ、ジャッ、ジャージャーー(スパイ大作戦のテーマ)」って始まった途端に、僕は毎回思います。「今回も最っ高に面白い映画、ありがとう!!」って。ということでぜひ、劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ウィンド・リバー』に決定!)

宇多丸『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を語る

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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