国立感染症研究所が今年の「百日咳」にかかった人が、1万110人に達したと発表した。百日咳は、乳児が感染すると死亡する恐れもあります。
そこで8月19日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、百日咳の注意点などについて取り上げました。
★百日咳とは?百日咳は、主に百日咳菌という菌に感染することで引き起こされる気道感染症で、咳やくしゃみなどによる飛沫感染で発症します。また、咳やくしゃみをおさえた手で何かにさわり、そこから接触感染をする場合もあります。鼻・のど・気管・気管支粘膜に侵入し、ゴミやホコリを除外して気道を守っている細かな毛の働きを低下させる毒素を産生して、百日咳特有の発作的な咳を引き起こすと考えられています。
そんな百日咳の症状ですが、感染後の期間で3つに分類されます。
1、軽度の咳症状のカタル期と呼ばれる期間です。
症状が出始めるのは、百日咳菌に感染した後、およそ10日間の潜伏期間を経てからのおよそ2週間です。症状としては、軽い咳、喉の痒み、くしゃみ、鼻水などです。そのほか、頭痛・発熱という風邪とよく似た症状がみられます。一般的な風邪であれば1、2週間で治りますが百日咳の場合、咳がその後も長期間にわたり続く。
2、痙咳という字は、痙攣の「痙」に咳と書いて痙咳と読みますが、その名の通り特徴あるけいれん性の咳になります。これは短い咳が連続的に起こり、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音がでます。特に乳幼児はこの時期が一番注意しなければなりません。
激しい咳が続くので、体力の消耗も激しく、せきこみ過ぎて嘔吐したりするほか、息を詰めて咳をするため、顔がむくんだり、顔が赤くなるなどの症状が出ます。また、咳の発作が激しく、食事や睡眠が困難になることもあります。さらに乳児期の早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作から皮膚や粘膜が青紫色の状態のチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがある。
3、最後の回復期に入ります。
激しい発作は、次第に減って弱まり、2、3週間で症状が落ち着きますが、ここでも注意が必要です。百日咳菌による気道の炎症や激しい咳によって、気道には粘膜の損傷が生じています。そのため、完治するまでは、ホコリや乾燥した風、むせやすい食事など少しの刺激でも、咳が起こりやすい状態が続きます。さらにこの期間は、もっとも咳が出る痙咳期に比べ咳は落ち着いていますが、咳には菌が含まれているため、大人の患者さんがワクチンを接種していない新生児や乳児に対する感染源になることがあるため注意が必要です。
そんな百日咳はこれまで、小児科で百日咳を診断した場合のみ報告する決まりでしたが、去年の1月から全ての医療機関で患者の年齢に関係なく届出、報告することになりました。理由は、患者数が近年増加傾向にあり、対応に遅れが生じる危険性を防ぐことなどがあります。
全ての患者さんの状況を把握することになってから行われた調査結果では、5歳未満が14%にとどまり、5歳以上15歳未満が52%、そしてこれまで少ないと思われていた20歳以上の成人症例が34%であることがわかったのです。
百日咳の治療は?そんな百日咳の治療ですが、主に抗菌薬が使われます。「エリスロマイシン」や「アジスロマイシン」という抗菌薬を初期のカタル期に使用すると、菌の排せつ量が減少し、感染のリスクを下げることができます。再発を考えて、抗菌薬を2週間服用する必要があると考えられています。
もっとも咳が激しい痙咳期に、気道が閉じて息苦しさがある場合は、気管支拡張剤を使います。咳や痰を取り除く場合は、咳を鎮め、痰を喉から喀出しやすくする薬などが用いられます。
重症化した場合は、「ガンマグロブリン」というたんぱく質の一種を大量に投与して、免疫力を高める方法が行われます。このように重症化しないためにも予防が必要となります。
予防方法は?予防となると、百日咳を対象とする定期予防接種があります。 百日咳ワクチンを含む四種混合ワクチン接種か、三種混合ワクチン接種です。
こうしたことで、百日咳を予防しているんですが、2014年以降、百日咳の患者数は増加傾向にあります。
なぜ増加しているのか?理由は明らかになっていませんが、その要因の1つが、ワクチンの効果が長く続かないことが考えられます。1歳半までに予防接種をした人でも、ワクチンの効果は次第に薄れ、小・中学生では、百日咳菌に対する免疫力は低下します。それが、おとなの患者が増えている一つの原因とも考えられています。やはり、ここは欧米諸国のワクチン接種を見習うべきです。
たとえば、アメリカは中学校に入学前の年齢で、ワクチンの追加摂取をしています。さらに、それ以降は10年に1回摂取することを推奨しています。このように欧米では、大人にも接種を勧めています。日本もこのような対応を行わないと、大人の百日咳は減少しないと思われます。
このような日本でいま私たちにできるのは、早目の受診です。咳だけとはいっても、激しい咳が続くと体力が奪われ、ほかの病気にもかかりやすくなります。
▼解説:医学ジャーナリスト松井宏夫
◆8月19日放送分より 番組名:「森本毅郎 スタンバイ!」内「松井宏夫の日本全国8時です」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190801010000