日本人女性が発症するがんで最も多いのが「乳がん」です。ただ、今では手術も進化し、患者さんの負担も少なくなるなど、早期に発見すれば決して怖がる必要のないがんとなっています。

そこで、9月9日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、乳がんについての最新情報を中心にお伝えしました。

乳がんとは

乳がんの多くは、母乳を乳頭に運ぶための管=乳管から発生する「乳管がん」です。日本では、年間およそ8万人以上が乳がんと診断されています。ここ30年余りで5倍に増え、女性が発症するがんのなかでは、最も患者数が多くなっています。いまでは女性の11人に1人が乳がんを発症する時代です。

そんな乳がんですが、リスクの高い人がわかってきています。「初潮が早く、閉経が遅い人」や「出産していない人」、「お酒を飲む人」や「タバコを吸う人」「肥満の人」、そして「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の人」です。

特に遺伝性乳がんに関しては、普通の方と比べると10倍程度、乳がんの発症リスクが高くなる。乳がんを発症した人の5%から10%は、発症しやすい体質を持っていると考えられます。

遺伝性の乳がんになる可能性のある人は、次の項目に1つでも当てはまる人です。

1、50歳以下で乳がんを発症した血縁者が1人以上いる。

2、卵巣がんを発症した血縁者が1人以上いる。

3、男性で乳がんを発症した血縁者がいる。

4、父方、母方のどちらかの家系内で、乳がんやすい臓がん、前立腺がんを発症した血縁者が3人以上いる。

こうした方は、25歳を過ぎたら乳がん検診を受けるようにしましょう。該当しない方でも乳がんは早期発見が大切。

乳がんを早期に見つけるためには?

乳がんを早期に発見するために重要なのは、セルフチェックと検診です。セルフチェックに関しては、月に1回、乳房にしこりや変形がないかどうかをチェックします。乳がんによるしこりは、多くの場合、くるみのようにゴツゴツして硬くなっています。一方、乳がん以外の病気によるしこりは、グミのように柔らかくて動くケースが多い。どちらなのか自分で判断するのではなく、気になることがあれば医療機関を受診してください。

乳がんの検査ですが、40歳以上の女性は2年に1回、自治体が行なっている乳がん検診を受けることができます。これは通常、マンモグラフィ検査が行われます。マンモグラフィ検査は、乳房用のエックス線検査です。

この検査では、しこりや石灰化を調べることができます。石灰化とは、乳房の中にカルシウムが沈着したもので、細かい白い点のように映っています。多くの場合は良性です。ただし、1箇所に多く集まっている場合はがんを疑う。

その検査では、圧迫板という2枚の板で乳房を挟み、乳房を薄く広げた状態でエックス線撮影を行います。こうする事で、放射線量が少なくてすみます。

さらに、乳腺の重なりを減らすことで、よりがんを写りやすくできるのです。ただ、マンモグラフィの場合、痛みを訴える人も多いことがよく知られています。痛みを減らすために、乳房の張りの少ない月経後のタイミングで受けると痛みを比較的減らすことができます。このタイミングも知っておいてください。

い方はマンモグラフィだけでは不十分なことも

ただ、マンモグラフィだけでは乳がんを発見できないケースもあります。そんな方には超音波検査があります。

これは、マンモグラフィ検査で見つけにくい病変を写し出すことができます。

特に、乳腺の濃度が高い50歳未満の若い女性はマンモグラフィ検査だけでは、画像診断が難しいといわれています。超音波検査の両方を受けると効果的です。自治体によっては、両方の検査を併せて受けることもできるので、早期発見のため、検診を受けることが大切。

手術でも乳房はなくならない!

乳がんの治療は手術が基本となります。手術には「乳房温存術」と「乳房切除術」があります。乳房温存術は乳がんの部分だけを切除し、乳房を残すことができます。ただし、術後は放射線治療を行うことが原則となっています。一方、乳房切除術は、がんのある側の乳房全体を切除する手術になります。

ただ、その手術の考え方が少し前と現在では違ってきています。以前は「乳房が残せるか」「残せないか」の二者択一でした。それが現在では「乳房を左右差のないきれいな状態で残せるか」「乳房を全摘出してきれいに再建する」という二者択一に変わってきました。

乳房温存術であっても、乳房の変形が残らず、左右差がないことが望まれます。この変形が大きい場合は乳房切除術が選択されます。昔は「とにかく残したい」でしたが、今は「きれいに残せないなら切除して再建するほうがいい」という考え方です。

その再建手術ですが、2013年から人工乳房再建術が保険適用になり、乳房切除術を選択する患者さんが増えています。左右差をなるべくなくすようにする手術が基本で、切除するだけの手術は急激に減っている。

リンパ節の手術も進化

そして、乳がんでは腋の下のリンパ節を切除することもあります。そのリンパ節を切除すると「腕がむくむ」「腕が上がりにくい」がありました。それを少しでも減らすための医療も進化しています。

リンパ節のうち、最初に転移が起きるのは「センチネルリンパ節」という部分です。そこでこの部分の生検を、手術の時に行い、リンパ節をとるひつようがあるかどうか、調べます。ここにがんが転移していないと、その先のリンパ節は切除しなくてもいい、ということです。

ただ、最近では、この「センチネルリンパ節」の生検も行わないケースも出てきました。

それは、画像診断で「乳管内にとどまっているがんである」ということが分かる場合です。

放射線治療も進化

また、放射線治療も進化をしています。さきほどお伝えしたように、乳房温存術の術後は、放射線治療を行うことが原則ですが、放射線治療も現在は通院の期間を短くする方法があります。その1つが組織内照射という方法。

特殊なカテーテルを使って、乳房の中から放射線を照射するという方法です。これにより乳房全体ではなく切除した部分のみ=つまり最も再発しやすい部分に放射線を照射することができます。部分的に照射することのメリットは、皮膚や肺に放射線の影響がないことです。

また、放射線治療は従来およそ5週間から6週間程度の期間が必要でしたが、この組織内照射は通常の照射より1回の照射線量が高く、1日2回の照射を行うことで5日間に短縮できます。

この組織内照射は、どこの病院でも受けられるのではありません。医師に相談しましょう。また、治療の考え方も、治療自体も進化しています。この点も医師とよく相談すべきです。

▼ 解説:医学ジャーナリスト松井宏夫

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◆9月9日放送分より 番組名:「森本毅郎 スタンバイ!」内「松井宏夫の日本全国8時です」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190909080130

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