TBSラジオ「ACTION」水曜パーソナリティは、Creepy NutsのDJ松永さん。
3月11日(水)のゲストは、作家で日本語ラップのパイオニアであるいとうせいこうさん。
松永:震災当時、DOMMUNEに出られてたラリー・ハードさんのDJで音楽に助けられたとの記事を見たのですが。
いとう:あの当時は皆そうだったと思うけど、事態があまりに凄まじいので、明日というものを考えられなくなったんですよ。当然10年後も考えられないし。人って未来を考えられなくなると、翻って今のアイデンティティがなくなっちゃうんだよね。どうしていいか分からない。皆、言葉を失っちゃったし。作家たちも言葉を失ってて。だからミュージシャンたちは早かったんだけど、演奏しに行ってたよね。僕なんかはどうも生きていくためのエネルギーが沸かないと思っていたら、DOMMUNEでラリー・ハードというシカゴ・ハウスのDJが日本に来てくれて。
いとう:当時、アメリカ人は皆、帰ってたんだよ。
そこで「DJ SEIKO」というTwitterのアカウントを作って。当時って東北でも音楽が聴けないんだよ。で、Twitterだけ生きていたから、「俺がDJだ!どんな曲でもリクエストしてくれたらかけるぞ!」と嘘をついたの。そうしたら全国各地からいろんなリクエストが来て。それは本当にある曲じゃなくても、「10年後の丘の上で聴く小鳥の声が聞きたい」とリクエストが来たらオンエアするんだよ。それはラリー・ハードのお陰なんだよ。DJが先にあってMCがあるんだよ。先に音楽があって、自分が励まされて、そういうグルーブの中で自分のできることを見つけた感じだね。

松永:『想像ラジオ』は主人公のDJアークを中心にいくつかのエピソードが展開される構成ですが、この小説の設定にラジオを選んだのは2011年の「DJ SEIKO」があったからですか?
いとう:と言う人もあとからいて、俺もなるほどなと。当時は2年後ぐらいに実際に東北に行って。何にもなくなった瓦礫だらけのところで、皆でタクシーで被災地の人がやっている飲み屋に行ったの。でね、意味もなく信号だけ残ってるの。何もないのに。タクシーが信号で停まるの。
で、自分の町が流された女性も一緒にいたのね。彼女のいる町の前で信号でぷっと停まって。で、真っ暗なの。それで一緒にいた園芸家の柳生真吾さんと一緒にいたのね。もう亡くなっちゃったんだけど。それで柳生さんと、「これ、皆喋ってるよね」って言ったの。

いとう:僕も確かに「わ~」と皆が言っている気がしたの。しかもその近くの杉の木の上に、誰かが引っかかっていて、なかなかその遺体を下ろすことができなかったということを、その土地の人が本当悔やみながら言っていて。それはその土地の人だけじゃなく、いろんなところでいろんな人が言ってたの。僕は「その人がDJかもな」って。「この人が何も言わないでただただ亡くなったと思っちゃいけないよな」って思ったのは確かなんだよ。もしかしたらタクシーからそのラジオが聞こえたのかもね。それで僕はここから、当事者じゃない自分が書く苦しみが始まります。
松永:書き上がったあとはどうですか?

いとう:小説を書いてから、2回ほど大学のシンポジウムに呼ばれて東北に行ったんですね。そのときも「勝手に書いてすみませんでした」と謝ろうと思ってね。そうしたら、あるお父さんを大震災で亡くされた女性の人がいて。行方不明になって何日も経ってからお父さんが違う形で帰ってきちゃったと。
松永:なるほど、そうですね…。
いとう:しかもこの女性は、3.11に一緒にいた男性と結婚して、子供が生まれたのよ。それが3月10日に生まれてるんだよ。生まれ変わりみたいに生まれちゃって。その子の名前を「湊」ってつけたのかな。海の名前をつけたの。なんてすごいことなんだと思って。
松永:避けちゃいますよね。
いとう:避けちゃうじゃん。でもそこと出会って、お父さんはいないから、この子に海を愛してもらうと思って。もう小説なんて形無しだよね。本当のことのほうがよっぽど素晴らしいなと僕は思いました。
いとうさんの東日本大震災のお話は尽きません。
◆3月11日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200311153000