TBSラジオで平日15時30分から放送中の「ACTION」。木曜パーソナリティは、羽田圭介さん。
9月10日(木)のゲストは、又吉直樹さん。又吉さんと羽田圭介さんは第153回芥川賞を同時受賞されました。あれから5年が経ち、それぞれの変わったことと変わらないことをテーマにたっぷりお話していただきました。
羽田:又吉さんが芥川賞を獲ったこの5年で変わったことはありますか?
又吉:あんまり変わっていないですけど、自分の幸福度を重んじるようになりましたね。昔は小説とかコントライブとかには多少命を削っても頑張る気持ちはあったんですけど、今はできるだけ幸せに長生きしたり、楽しく過ごせる日が増えたらいいなって思ってきてますね。
羽田:又吉さんのコントや小説って自己実現だから、自分の幸せとイコールかなと思うんですが、それとはまた別の幸せということですか?
又吉:自分が幸福を感じる基準が変わってきたのかもしれません。今の目標は「海が見える家に住む」ですから(笑)5年前には想像もつかない目標ができましたね。
羽田:創作ではない、生活の幸せが大きくなってきたということですね。
幸坂:きっかけはありましたか?
又吉:たとえば相方の綾部がニューヨークに行ったことで僕の仕事も大きく変わって。綾部がニューヨークで全然焦ることなく幸せそうに過ごしているのを見ていると、「自分で幸せって見つけられるんだな」と。綾部は僕の3歳年上なので、生き方の見本にしてますね。あの生き方は本当にアメリカですから(笑)
羽田:又吉さんは今年から新潮新人賞の選考委員を務められます。

又吉:僕は今まで、人の作品を審査するような仕事は大小に関わらず全て断ってきました。僕は作る側の自負があったので。この新潮新人賞もお話をもらったときは、「審査の仕事はやってないんですよ」と言いました。でも話していくと僕も芥川賞を受賞をして、賞によって自分の作品も広く読まれて、「次の作品も書こう」という意欲に間違いなくつながったので、そういったものにお世話になった限り、「人の作品の選考はやりません」というのは許されないかなと思って。でも、「役不足だと思います」と一度断りました。僕自身まだ早いかなと。でも審査員が5人だったんですよね。それでいろんなタイプの人が、いろんな文学観を持って読んでいくとなったら、僕は大学で文学の勉強をせず1人で本を読んできたので、独自性という大層なものじゃないですが、あんまり読み方がほかの人と被らないかなと思って引き受けました。
羽田:審査はされましたか?
又吉:先週やりましたね。
羽田:選考会でよく聞くのが、「結局声が大きい人の意見が通る」ということなんですが、そういうときに又吉さんは自分が推したい人は推し通しますか?
又吉:もちろん声を荒げてとか、誰かを説き伏せるみたいなことはないですが、自分の意見は基本言い続けます。

羽田:それを経たあとで、小説に対する考え方が変わったりしますか?
又吉:いろんな人の読みが聞けるのは大きいですよね。自分が小説の中でむちゃくちゃ重要だと思っている箇所と、ほかの人が重要だと思っている部分って多少違ってくるじゃないですか。僕は「誰が言ったか」みたいな視点が気になることが多いんですが、それよりもほかのことを重要視するところもあって。選考会の前日までの6日間、ホテルを取って読み続けましたね。
羽田:それはほかの仕事をされながらですか?
又吉:決まったときから、「この期間は仕事入れないでください」と言ってました。多少仕事は入っちゃったんですが、前の2日間は本当にそれだけやってました。全部3回ずつ読みましたよ。
羽田:それはすごいですね。そんな又吉さんに読んでもらえた人たちは幸福ですね。

羽田:僕の悩み相談なんですけど、5年前と比べると達観しちゃってるんです。
又吉:ちゃんとムカつくことは残したほうがいいですよね。僕も「しゃあないよな~」って思っちゃうんですよ。だから表向きはそうしつつ、ちゃんと適切に怒ったほうがいいですよね。怒りを溜めるというか。でも分かりますよ。芥川賞当時の、僕と羽田さんのインタビューについて書いているのを見ると、「又吉は優等生的で当たり障りがない。羽田はむちゃくちゃで面白い」と書かれていて。僕はそれを見て、「そうやで。こっちもワザとやで」と(笑)僕が一番怒りをぶつけたいのは、そういうことを書いている人間ですね(笑)この感覚を溜めておいて、コントやエッセイにできるのかなと思いますね。
「又吉さんをゲストに迎えて話すって、5年前の僕にとってはパラレルワールドみたい」という羽田さんの感想でした。
◆9月10日放送分より 番組名:「ACTION」
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