毎週、金曜日の朝8時30分からお送りしているTBSラジオ「金曜ボイスログ」。
パーソナリティ、シンガーソングライターの臼井ミトンがお送りしる音楽コラム、12月11日分の書き起こしです。
電子ピアノと一緒くたにしないで欲しい!エレピ奏者の悲痛な心の叫びを聞け!

今日、10時からの特集テーマが楽器なんですよ。それにちなんで、今回は僕が普段使っている楽器についてのお話をしたいと思います。
僕、普段ライブの時に必ずウーリッツァー(Wurlitzer)と言う楽器を持ち運んでいるんですね。

これって何かというと鍵盤楽器、つまりキーボードです。どんなキーボードかって言うと、電気の力で音が出るエレクトリックピアノ、略してエレピと呼ばれる楽器です。
だいぶ昔の楽器なんですよ。60年代から70年代、80年代の頭くらいまで作られていたんですけど、30kg以上の重さがあります。でも僕は日本全国どこに行くにもこの楽器をエッサホイサと運んでライブをしてるんです。唯一、持っていかなかったのは隠岐の島でライブをやった時くらい。離島だと物理的に持っていけなかったりするんですけど笑、基本的にはツアー回る時もいつもこのウーリッツァーという楽器を持ち運んでるんです。
ライブが終わった後なんかにお客さんからね、「その電子ピアノすごいいい音ですね」とか「その電子オルガンすごい重そう!持ってくるの大変でしょう」とかってお声かけていただいたりするんですけど。僕も大人なんでね、その場では「ありがとうございます」「そうなんですよ。
一つ言わせて欲しいことがあるんですよ。

何が違うかっていう話なんですけど、電気ピアノ、つまりエレクトリックピアノって何かと言うと、、、まずは、アコースティックのピアノの話からしないといけません。
kinokoさんが、昔ピアノ習ってたことがあるって話を先週してましたよね。
その時に弾いてたピアノって、壁にくっついてる黒いやつで、特に電源とかを入れなくてもその鍵盤を押さえたら音が鳴るアコースティックピアノですよね?
それ、壁にくっついてるやつだとアップライトピアノって言い方しますけど、グランドピアノとかアップライトピアノっていうのは鍵盤を指で押すと内部で木製のハンマーが跳ね上がる。動くわけですね。
動いたハンマーが何をするかっていうと、楽器の内部に張ってあるピアノ線を叩く、弾く(はじく)んです。それによって音が出るわけなんですね。で、グランドピアノにせよアップライトピアノにせよ、共鳴板みたいなものが内部にあって、それでピアノの弦の音を増幅させて大きな音にしている。電気の力を借りずに音が出ているんです。
じゃあ、それに対してエレピっていうのは何かと言うと、まずいろんな種類があって、僕がライブで使ってるウーリッツァーとか、あと有名なエレピとしてローズ(Rhodes)とか。あとクラヴィネット(Clavinet)とか、色々種類はあるんですけど。
基本的にはアコースティックピアノと同じように鍵盤を押すと内部でハンマーが跳ね上がります。
そもそもエレピは持ち運びができるように作られた楽器なので、ピアノ線だと弦を張らなきゃならないので、そうすると長さが必要になるんです。つまり楽器が大きくなる。楽器のサイズをコンパクトにするために、エレピのハンマーが何を叩いてるかって言うと、種類によって違うんですけど、ローズだと音叉みたいな金属の棒を叩きます。金属の棒がズラッと鍵盤と同じ数だけ入っていて、それをハンマーが叩く。


僕が使ってるウーリッツァーだと、ハーモニカの中に入っているようなチップというかリードというか、ちっちゃな薄い金属のカケラみたいなのがズラっと並んでいて、それを叩くんですよハンマーで。だから、ライブ中にリードが折れちゃったりもするんです。あんまり分厚いものじゃないんで、ポキッと折れたりするトラブルもあるんですね。

これってどういうことかというと、つまり電源を入れなくても実は音が鳴るんですよ、エレクトリックピアノって。
音叉みたいな金属のバーだったり、金属製のちっちゃなリードだったりを内部のハンマーが物理的に叩くんで、電源を入れなくても鍵盤弾くと音がちっちゃく聞こえるんですよ。
その小さな生音を大きくする、ドラムとかベースとかエレキギターとか他の楽器に対抗するために、ギターアンプとかを使って電気の力で大きな音量に変えてるよ、ってのがエレクトリックピアノなんですよ。
例えばエレキギターってあるじゃないですか。
それと同じように、エレクトリックピアノもちっちゃい音だけど鳴る。でも、これが実はすんごい重要なところで。
実際にその場で何かが振動し、そして空気を震わせてるからこそ音が出るっていう意味では、エレキギターやエレクトリックピアノも、アコースティック楽器と言って差し支えないと僕は思ってるんですよ。ただ音量を稼ぐために電気で増幅してるよっていうだけの話で。
一方で電子ピアノ、デジタルピアノって呼ばれるものはじゃあ何なのかこれは簡単に言うと、中にパソコンみたいなものが入ってるんです。そのパソコンの中に何が入ってるかと言うと、例えばピアノの音色だったり、僕がさっき言ったウーリッツァーだとかローズとかのエレクトリックピアノの音だったり、ありとあらゆる楽器の音のデータがその中に入ってるんですよ。
例えば電子ピアノで「グランドピアノ」っていうボタンを押してドの音弾くじゃないですか。ドの鍵盤を押すと、内部にあるパソコンが「今グランドピアノっていう音色が選ばれた状態でドの鍵盤が押されてます。じゃあグランドピアノのドの音を録音したデータを再生します」っていう処理をする。要は再生装置なんですよね。指で鍵盤を押したタイミングで、あらかじめ録音され保存されている音源データがそのタイミングで再生される。
だからその場で何かが物理的に振動して空気が震えるっていう現象は発生していないわけです。
今の時代、サンプリングの技術が、つまり一音一音録っていく、音を録音するっていう技術が発達し過ぎて、パソコンとかも保存できる容量がどんどん大きくなってるじゃないですか。すごい高品質な音源を電子ピアノの中にしまっておけるようになってるんで、ぶっちゃけその今の電子ピアノで、例えばローズの音を選んでローズの音を弾くのと、隣で本物のローズを置いて弾いても、聴いてる側としては音の違いはもうほとんどわからないです。正直、区別つかない。
でも、じゃあなんでわざわざ本物の楽器を使う人が、この2020年の今の時代でもいるのかって言うと、これは、弾いてる側のプレイヤーにとっての感触が全然違うからなんですよ。

なんでかって言ったらやっぱり、コレ何度も言いますけど、自分の指で鍵盤を押さえた時に、それに対して物体が振動しているっていうその感覚。
でも電子ピアノだとそれがないんです。
自分が、今、空気の振動を生み出し、その空気の振動が聞いてる人の耳の鼓膜を振動させてるっていう。そこになんかこうロマンがやっぱりあるんですよね。
弾いてる時の気持ちの入り方が、本物の楽器を弾く行為とデジタルでサンプリングされたものをボタンを押して再生するっていう行為とでは、やっぱり根本的に違うっていうのが、演奏者側としてはあるんですよね。
でもまぁ言ってしまえば、楽器っていうのは道具でしかないんで、上手い人が弾けばデジタル楽器でもほんとにびっくりするくらい良い音がするんですよ。しかも電子ピアノって、1台あったらローズの音も出る、ウーリッツァーの音も出る、ティンパニの音も出ます、グランドピアノの音も出ます、バイオリンの音も、って単純にすごい便利なんですよね。まぁ使いようかなっていう風には思うんですけど、やっぱり楽器奏者として、空気そのものを震わせるロマンみたいなね、そういうロマンをこう、大切にし過ぎちゃうからこそミュージシャン稼業っていうのを生業に選んでしまった部分もあると思うんですけど笑
なので本物のエレピが聞きたいっていう方は是非、コロナが落ち着いたら僕のライブに来てください。本物のエレピでライブをやってますから。生でそのサウンドを聴いていただけるんで。
でもローズとかウーリッツァーとかクラヴィネットとか、エレピが使われてる大名曲ってもうほんとたくさんあるんですよ。このコラムでもそういった楽器ごとの特集みたいなこともやっていきたいなって思ってるんですけど、今日は僕がライブで毎日毎日エッサホイサと運んでいるウーリッツァーという楽器の「旨味」が一番よくわかるこの曲を聴いていただきたいと思います。
ソウルミュージックの歴史に燦然と輝く大名盤ですね。1972年、ダニー・ハサウェイの「Live」というライブアルバムから1曲お届けします。ウーリッツァーっていうのはこんな音です、「The Ghetto」
◆12月11日放送分より 番組名:「金曜ボイスログ」
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