TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』毎週月曜日~金曜日 朝6時30分から放送中!
7月19日(火)放送後記
7時30分過ぎからは素朴な疑問、気になる現場にせまるコーナー「現場にアタック」
7月12日に埼玉県西部、15日から宮城県で記録的な大雨が降るなど自然災害が多発する中、高齢者や障害者など「災害弱者」への対策が急務です。国は2021年5月に災害対策基本法を一部改正し、災害弱者がどういうタイミングで、どこへ、誰と、どうやって逃げるかを予め決めておく「個別避難計画」の作成を各市区町村の努力義務としたのですが、内閣府と消防庁によると、対象となる全住民の計画を作成し終えた自治体は今年1月時点で1割程度となっています。
災害弱者の避難を誰が支援するのか?
個別避難計画の作成が進まない背景とは。福祉防災に詳しい跡見学園女子大学教授、鍵屋一さんのお話です。
跡見学園女子大学教授 鍵屋一さん:
誰と避難するのかが一番最大の課題でして、今までは「特定の個人」ということで進めてきたんですけど「責任を持ってあなたが避難誘導してください」って言われると、ちょっと待ってくださいよとなりがちですよね。そのタイミングで(災害弱者の近くに)いるかどうかもわからないし。支援者が決まらないという問題が大きいので、「組織でいいじゃないか」というような動きになっています。自治会、町内会、自主防災組織、消防団、あるいは福祉事業者。実際に訓練を重ねていく中で、何人かが毎回交代で支援しているので、当日はそのうちの誰かがちゃんと動けるでしょうと。
個別避難計画は、対象となる人に自治体側から郵送で書面が送られ、名前や住所、どんな障害があるのかといった必要事項を記入して返送するという手順が主なのですが、ある自治体の例を見ますと「支援者情報」という欄に「災害時の避難を支援してくれる近隣の方がいれば、その方の同意を得て記入してください」とあります。地域のつながりが希薄になっている中で、この欄を埋めるのがなかなか難しいというのが現状です。こうした背景から、個人ではなく、組織単位で避難を手伝おうという考えが生まれているということです。
福祉専門職と町内会が協議、支援体制を構築
個別避難計画作成の取り組みが先進的に進められている、大分県別府市。地震による津波からの避難を想定した訓練が行われた際のエピソードについて、鍵屋教授に聞きました。
跡見学園女子大学教授 鍵屋一さん:
別府市では障害当事者、知的の障害があるお嬢さんとお母さんがいるんですけれども、なかなか自分たちではすぐに避難できない、時間的に非常に時間がかかってしまう。そこで福祉専門職の方が間に入って、市の職員も入って、地域住民と話し合いの場を設けました。
やはり「誰が助けるか」という、手伝う側の担い手の問題が難しいようです。町内会側は最初「なぜ自分たちが助けなきゃいけないのか」という雰囲気もあったそうですが、間に入った福祉専門職の方が、町内会の方々を丁寧に説得して、協力できる仕組みを作っていきました。福祉専門職の方は、知的障害のある女性と日頃から接していて事情をよく分かっていて「普段乗っている車いすで坂道を上るのは難しい」ということも把握でき、その上で町内会の一人から「うちにあるリヤカーが使える」というアイデアが出たといいます。ただ、これはあくまでも地震による津波から避難する場合。豪雨の際は、徒歩での避難は非現実的なので車で避難するのが望ましいということです。
災害時の支援者の行動を決めておく「サポート・タイムライン」
別府市では、専門職と地域住民が協力することで避難計画作成がうまくいきましたが、東京都大田区も独自の取り組みを行っています。災害弱者とその家族、そして介護事業所などで働く支援者を対象に、避難計画を立てるための講習会を年4回のペースで実施。
大田区役所 福祉部 青木文さん:
災害時において、要配慮者をどのようにサポートしていくか、講習会を実施する中で、新たに支援者側の避難計画である「サポート・タイムライン」という考え方が生まれました。例えばですが、台風が来る3~5日前には事前に災害が来ることが分かっているので、連絡手段の確認をしたり、必需品の買い出しなどの準備をしたりといったことが、サポートタイムラインに書かれていきます。それから希望の避難先や避難手段などを聞き取って確認しておくといったこともサポート・タイムラインの欄に書かれていく内容となります。
大田区独自の「要配慮者のためのマイ・タイムライン」の使い方などを学ぶ去年のオンライン講座には災害弱者の支援にあたる介護事業所、有料老人ホーム、医療機関など約90団体が参加。「サポート・タイムライン」にある支援者側がとる行動の例としては、川の水位上昇などで警戒レベル3「高齢者等避難」をメール等で受診したら、支援者は必需品をもって避難者の自宅に集合、避難先までサポートするといったことが書かれています。講習会の参加者からは「施設職員として、災害発生時のシミュレーションができるので、マイ・タイムラインは有効だと感じた」「他の方にも受講を勧めて地域全体で防災意識を高めたい」といった声があり、災害弱者の支援体制の構築にしっかりつながっている模様です。