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4月7日(金)放送後記

「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、3月24日から劇場公開されているこの作品、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』。

殺し屋女子2人組の活躍と日常を描き、ロングランヒットとなった2021年の『ベイビーわるきゅーれ』続編。殺しの腕は優れていながらも、日々の生活に苦労しているちさととまひろの前に、2人を殺して正規の殺し屋になろうとする殺しアルバイトの兄弟、ゆうりとまことが現れる。主人公コンビを演じるのは前作に引き続き、高石あかりさんと伊澤彩織さん。2人を狙う兄弟を、『HiGH & LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』などの丞威さん、そして『ウルトラマンジード』などの濱田龍臣さんが演じてます。監督・脚本は前作と同じく、阪元裕吾さんが務めていらっしゃいます。

ということで、この『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」ということですが。賛否の比率は、褒める意見がおよそ「8割」。主な褒める意見は、「またあの2人に会えて嬉しい」「本作の主人公はちさととまひろではなく、ゆうりとまことの兄弟。

2組の対決は燃えるし、切ない」「会話もアクションも、今回もやっぱり面白い!」などございました。また、いつもより女性からのメールが多いのも目立ちました。まあ、ファンダムがすごいできてますからね。一方、否定的な意見は、「会話シーンがちょっとくどい」「前作よりテンポ感が悪かった」などがございました。代表的なところをご紹介しますね。

「もうみんなで仲間になればいいじゃん!と思いながらの終盤でした」

ラジオネーム「りんりんりんご」さん。「前日に配信で1を観てから、名古屋ミッドランドスクエアシネマで鑑賞しました。

めちゃくちゃ面白くて何度も笑いましたし、映画としても最高で、ちさと・まひろに、これからも楽しく暮らしてほしいなー! と思いながら鑑賞しました。続編も、もっと大きな予算で撮り続けて欲しいです。今作では、2人を狙う兄弟も、田坂さんも宮内さんも魅力的で……」。田坂さんと宮内さんっていうのは、死体処理班というかね、現場処理班のキャラクターですね。

「……もうみんなで仲間になればいいじゃん!と思いながらの終盤でした」という。ちゃんと打ち上げシーンもありますからね。

非常に切ない打ち上げシーンがありますけども。「最初のシーンで、「海は青いのに手で掬うと色がないのはなぜ」というラジオの話に、まことが、谷川俊太郎さんの『青は遠い色』になぞらえて答えます」。まあ、谷川俊太郎であることは知らないのかもしれないけど。

「どんなに深く憧れ、どんなに強く求めても、青を手にすることはできない。というのは、この兄弟にとって、殺し屋協会に入れないということでもあるし……」正社員になりたい!っていうね(笑)。「……どんな境遇でここまで来たのかわからないけど、何者にもなれない、と言うことかもしれません。この青に対比して、ちさと・まひろの、前作からの時間を感じさせる生活感あふれる部屋は、ピンク色がメインです」と。まあ、いろいろね、ちょっとネタバレ的なことも書いていただいて。

「……『花束みたいな恋をした』の話からのちさと・まひろの、結婚についての会話も、2人の人生に思いを馳せるようなシーンでした。強盗との格闘シーンや、ふたりの着ぐるみシーン、最後のアクションも最高でした!」というりんりんりんごさんです。あとですね、たとえば「レインウォッチャー」さんとかもいろいろ書いていただきつつ、「実は今作最大の見どころは「ファッション」ではないでしょうか! 前作から比べてまひろ&ちさとの日常パートが増え、私服の外出着が多く見られるのですが、どれもこれもカワ the イイのです。ゆうり&まことのメンズコンビもちょい傾奇&洒落てるし、劇中の季節は夏、ちょうどこれからリアルでも春夏ということで、装いに取り入れてみるのも良いかもしれません」という。

たしかにね、スタイリングも面白いですよね。ということで、いろいろ書いていただいてます。

あと、ちょっとダメだったという方もご紹介しましょう。ラジオネーム「春」さん。「感想としては「とても面白かったです!が……」というところです。代名詞的な、オフビートな会話シーン、命の取り合いの緊張感、圧倒される生身のアクションは健在です! 「そうそう、これこれ!」「ちさと、まひろ、久しぶり!」という、待っていたものを安心して楽しめる作品に、まずは仕上がっていました。が、逆に言えば「わかりやすく抽出しすぎ」な印象もありました。

特に会話シーンです。頻度が多く、1回1回の尺も長く、全体のテンポを損なうレベルに達しているかも?と感じてしまうくらいでした」と。で、いろいろと前作との比較とかも書いていただいて。「……今回はちさと、まひろだけでなく、新キャラの殺し屋兄弟や、前作からの続投メンバーも「会話のあの感じ」に参加していたこともあって、余計に「そればっかり」感が拭いきれません。「好きだし良いけど、ちょっとくどい」というのが個人的な結論です」というような感じでございました。

あと「くさむすび」さんも、「ラストのアクションも見応えはありましたが、コメディ部分が増え過ぎるあまり、緩いパートと激しいパートのメリハリを楽しむことが出来なかったし、とにかく前作と比較して乗れない作品でした」というね。前作と、はっきり意識的にトーンを変えてますからね。まあ、これはこれ、と思えるかどうか?ってところはあるかもしれません。ということで、行ってみましょう。私も『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』、新宿ピカデリーで2回、見てまいりました。

エクストリームな暴力と普通の暮らしがフラットに並列されている。それが阪元裕吾監督作

2021年の7月に1作目が公開されて、ロングヒットとなり。僕も遅ればせながら、(その年の)9月ぐらいになってようやく池袋のシネマ・ロサに観に行ったということで、この番組でも「なるほどこれ、すごい面白かったです!」という風に語りました。で、たとえば昨年の9月23日に取り上げた『ブレット・トレイン』評の中でも、「僕の考えた『ブレット・トレイン』、こうなったらもっと面白かったのに」案(笑)のひとつとして、「劇中の2人組の殺し屋……蜜柑と檸檬っていうのはあれ、『ベイビーわるきゅーれ』の2人でいいじゃん! あの2人が出てきたら、マジでアガったんだけど!」みたいな勝手なことを言ってたりしましたけど。ということで、そんな1作目『ベイビーわるきゅーれ』の、まさに待望の続編です。

脚本・監督の阪元裕吾さん。まだ弱冠27歳なんですね! 自主制作映画時代から、まあ本当に一貫して、ずっとバイオレンスアクション物を作ってきた方で。

ほとんどの作品が、今ならね、U-NEXTで観られるので、ぜひ観ていただきたいですけど。とにかく、狂った登場人物たちが、バンバンバンバン人を殺して、バンバンバンバン殺されていく、という大変暴力的な世界を、ずっと阪本さんは撮られてきてます。ただ、商業映画とかを撮るようになって、だんだんだんだん、そういう意味では最初の露悪的なものが前に出るテイストから、ちゃんとエンタメ化、みたいなところに進化もしてると思いますが。

でですね、非常にバイオレントな作品を作ってますが、同時に、そうしたエクストリームな暴力性が、一見普通の、ごくごくありふれた現代日本の日常生活の中に、ごく当たり前のように織り込まれてる、というか。さも「そういうもの」といった風に、フラットに並列されている。普通の暮らしと暴力がフラットにあったりする……あと、普通に見えた人が、ものすごい暴力を急に振るいだしたりする、みたいな。

そういう、本来非日常的なレベルのバイオレンスが、しかしその作品内では身も蓋もないほど日常的な営みでもある、かのようなバランスが、常になんとも知れないダークなユーモアを醸している、という。それが阪元裕吾さんのバイオレンスアクション作品の、本当に一貫した大きな特徴であり、魅力でもある、というね。

『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ&『最強殺し屋伝説国岡』シリーズが坂元監督の二大巨頭

また、今言ったその、エクストリームなバイオレンス、なんだけど、異常に地に足がついた、なんならまったりした、日常系的味わいすらあるリアルさ、というバランスとも、完全に通じる話なんだけど……阪元裕吾作品、特にやはり、キャリアを通しての盟友と言ってもいいんでしょうかね、常連俳優の、伊能昌幸さんという人がいる。この方、前作の『ベイビーわるきゅーれ』でいうと、クライマックス、「こっちの方が早いんで」っつって、自信満々でステゴロで臨んで、瞬殺されるという(笑)。「なんなの、こいつ?」って言われている、あの人いますけど。あの人が、伊能昌幸さん。

この伊能昌幸さんのマーシャルアーツスキルがですね、もう最初から、とんでもなく高いため。

アクションシーン、格闘シーンのクオリティーが、そもそもちょっと日本映画離れしたレベルですごい、っていうところも大きいんですよね。自主制作で作ってる、もう明らかにビデオ撮りのチープな画の中なんだけど、アクションはすげえな!みたいな。最初からレベルが高い、みたいなのがある。特にその伊能昌幸さんが主演、一応モキュメンタリー形式という感じになっている、フェイクドキュメンタリー形式という感じになっている、『最強殺し屋伝説国岡』シリーズっていうのが、2作ありまして。

殺し屋業界を、あくまで「ひとつの職種」として、つまりフツーの人が、フツーのテンションで、フツーに愚痴など言いながらやる、「お仕事」のひとつとして描いてみせる……ということから来る、そこはかとないダークなユーモアなどなど、『ベイビーわるきゅーれ』と完全に同一線上にある作品、まあ、なん双璧というかな、二大巨頭的な作品と言えると思います。『国岡』シリーズ。で、伊能さんは、その『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの世界観の中だと、1作目でもう一応出てきて、死んじゃっているけど。いつかは改めて、ちゃんと「国岡」役で──あの1作目の役はちょっと役名も違うみたいなんで──国岡役で、ちゃんといつかはクロスオーバーをしてほしい。というか、阪元裕吾さん、言うまでもなくそのカードは、ここ一番!にとってあるということなんでしょう。

今回も、たとえば名前だけ出てきて姿は出てこない、「粛清さん」と呼ばれる、めちゃくちゃ強いらしい人、みたいなね。それって、「ブギーマン」っていうことじゃないですか、『ジョン・ウィック』で言えばね。だから、まあそれが国岡さんだったりするのかな、とかね。あとはね、(今回の2作目に出てくる)渡辺哲さんかな、とかね(笑)。いろんなことを考えちゃいますけども。

『ある用務員』(2020)の中のコンビが世界的にもオリジナルなアクションで一躍カルトムービーに

で、とにかく1作目『ベイビーわるきゅーれ』。元々は2020年の『ある用務員』という作品の中で、複数出てくる刺客チームの中のひとつ、一組だったんですね。高石あかりさんと伊澤彩織さんの殺し屋コンビ。今の『ベイビーわるきゅーれ』とはちょっと、微妙かつ、でも決定的にキャラのバランスも違うし、あとガンアクションとかは正直、今と比べるとまだちょっとかなり雑めではあるんだけど。あと何よりすぐ死んじゃう役ではあるんだけども。それでもこの2人のですね、ワチャワチャした掛け合いと、様々な作品のスタントとして活躍してきた伊澤さんの、アクションスキルの本当に、異様な高さ。そのギャップというのは、やっぱり『ある用務員』の中でも、一際突出したもので。要は、この2人がもっと見たい!という感じだったんでしょう。見事スピンオフというか、独り立ちしたのが前作の『ベイビーわるきゅーれ』、ということですね。

わかりやすく言えば、さっきも言いましたけど、『ジョン・ウィック』ですね。『ジョン・ウィック』的な殺し屋業界っていうのが実はあって……という設定。ただ、それがですね、さっき言った『国岡』シリーズ同様、あくまで普通のお仕事のように描かれるダークコメディ。

たとえば主人公たちも、普段は本当にただのフリーターっていうか……まあフリーターにもなり損ねてるだけの、とにかくダラダラ暮らしてる女の子2人にしか見えない、という。その2人のダラダラがまたですね、この上なく、すごく楽しいわけなんですけども。ここはやっぱり、高石あかりさんの芸達者ぶりというか、面白さが光りますよね。彼女がね。あとその、たとえば殺し屋業界の窓口でもある、ラバーガールの飛永翼さん演じる……なんていうかな、本当に普通の、いろんな仕事の、窓口(笑)。どこにでもいる感じの人が殺し屋の窓口として、「困るんですよね。こういうの……」みたいなことを言ってるみたいな、そのおかしさ。芸達者がこのあたり揃っていて、面白かったりするんだけど。

ともあれ、殺し屋が本職の2人が……だから彼女たち2人にとっては、殺し屋こそが「普通にできる、普通の仕事」で。「いや、でもちゃんと社会のことを学んでください」ってバイトをするんだけど、バイトとかの方がよっぽど彼女たちにとっては四苦八苦する、異常な仕事なわけなんですよ。よりによってやるのがメイドカフェだったりするんで(笑)。そうするとやっぱり「えっ、おかしくない? この仕事」みたいな感じになって。そこもおかしみがあるという。

で、そうやってバイトしながら四苦八苦しているうちに、これはギンティ小林さん命名、「ナメてた相手が殺人マシーンでした」案件が勃発して……という。で、いざアクションが始まると、なにしろこれ、伊澤彩織さんの動きのキレがですね、すさまじすぎる! 特にクライマックス、ラストファイト。三元雅芸さんというね、やはり殺陣ができる俳優さんとの一騎打ち。これ、2人とも動きが速すぎて、僕、最初にこの番組で話した時にも言ったと思うけど、動きが速すぎて、見えないんですよ、もう、手とかが。

またですね、体格面では不利な女性というのが、超手練の男性にどう勝つか、というロジックが、きちんと盛り込まれたアクションなのも素晴らしかったですね。たとえば、壁にこうやって追い込まれた時は、両足を使って全身で弾き返す、みたいな。ああいうのもね、本当に女性が男性に勝つロジックがちゃんとあるアクションとしては、本当に『アトミック・ブロンド』級、と言ってもいいと思います。

『ある用務員』の時は結構、ヘロヘロとデフォルメされた動きだった高石あかりさんのキャラクターも、しっかりコンビとして見えるところまで、動きのキレ、見せるところはビシッと見せる……2人で銃を構える瞬間になると急にビシッ!となる。異常にそこはもう、「あっ、プロだ!」っていう感じに見せるようになっている。あれもよかったですしね。

まあ結果、私は放送内でも言いましたけど、この『ジョン・ウィック』の時代、87elevenの時代にですね、世界レベルでの最新マーシャルアーツ・アクションの数々と比べても、ちょっとこれは見たことがないレベル、というぐらいのすさまじくフレッシュなアクション……それが、まったりした日常系的シスターフッド物と同居する、強烈にオリジナルな魅力を放つ一作になっていて。それがどんどんどんどん、事実上カルトムービー化していった、ファンダムを形成していったという。これがその、前作の『ベイビーわるきゅーれ』なわけですね。

「よっ! 待ってました!」な主人公コンビともう一組。ズッコケ兄弟コンビ!

で、この間ですね、伊澤彩織さんは、ハリウッドで『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』という2021年の作品とか、そしてなんと、本丸です、『ジョン・ウィック4』ですね! 今年公開される……もうアメリカでは公開されてますけど、『ジョン・ウィック4』にスタントで参加していたりもする。なんか、「メインキャラクターのスタントダブル」ということなんで、ひょっとしたら、リナ・サワヤマのスタントダブルじゃないかな?と思うと、もう……もう、もう! 胸がときめく!という感じですが。

ということで、そんな感じでついにやってきた、待望の続編たるこの『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』。ちなみにこの『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』っていう続編のタイトルは、当然『Bad Boys II』の日本語タイトルであるところの、『バッドボーイズ2バッド』が、もちろん元になってるわけですが。

とにかくその『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』で、ついに……もう、待望の続編じゃないですか。で、アバンタイトル。結構ね、十数分ぐらいのアバンタイトル、2人が全く出ないアバンタイトルが、延々続く……たっぷりと、溜めに溜めて、ついに満を持して、あの2人の姿がスクリーンに映された時の、「よっ! 待ってました!」っていう、「千両役者!」っていう感じが、半端じゃないわけですね。

そのアバンタイトル、今回のもう一組の主人公と言っていい……丞威さんという、ハイローとかにも出ている非常にアクションができる方、あと濱田龍臣さん。子役からずっと活躍されてますからね。でも今、すごくガタイがよくて。だから体がデカいベビーフェイスっていうね。なんか、その不気味さというか、なんていうか……ちょっと僕、「日本のポール・ダノ」って言っていいような雰囲気があるな、と思ったんですけどね。丞威さんと濱田龍臣さん演じるズッコケ兄弟コンビによる、アパート強襲シーンという。

監督はこれ、僕が読んだのはティロワ・デュ・キネマというところのインタビューで、韓国映画『新しき世界』の中のアクションシーンを参考にした、とおっしゃってます。なるほど、『新しき世界』。私、2014年2月15日に、この番組でもウォッチしてますけども。なるほどあの狭い場所での、文字通りくんずほぐれつの……大人数が狭い場所に押し込められてる中での、ものすごい、全くスタイリッシュじゃないくんずほぐれつの殺し合い。個人的にはですね、もうひとつ、トム・クルーズ、クリストファー・マッカリーの『アウトロー』の、やはりあのバスルームでのドタバタ格闘シーン。あれをちょっと連想したりもしました。まあいずれにせよ、このアバンタイトルのところだけでもですね、アイディアとガッツで、世界レベルに面白いアクションを見せてやるぞ!っていう、気概にあふれているわけですね。

で、そこからね、タイトルが出て。おなじみちさととまひろの、部屋でまったりしているシーンもですね、これ、1作目と見比べれば一目瞭然。部屋の中の美術の密度が、もう段違いで濃くなってるんですね。これはもちろんそのまま、1作目ではまだ探り探りの状態でもあった2人の関係、距離感が、ぐっと「密」になったという、その視覚的表現にもなっている。

1作目の「スケールアップ」ではなく独自の「シフトチェンジ」へ

とまあ、いろいろパワーアップしてるこの2作目なんですが。ただしですね。単純に1作目のグレードアップ版、スケールアップ版という方向……普通はそういう風にするのが大半ですよね、続編ってね。たとえば、評判だったから予算も増えたんで、同じ形式をスケールアップします、というのが、だいたい普通なんですが。(本作は)そっちには行かず。

つまり、たとえばそれによってですね、敵の強さ……すなわちそれはこっち(主人公側)の強さでもあるんだけども、強さのインフレ合戦みたいな、ありがちなところにハマるのも、巧みに避けて。あるいは、続き物であることを重視するあまり、主人公キャラクターの成長インフレ……「もう、成長しきっちゃってるんですけど?」みたいな。なのに無理やり、なんかまた成長……「これ、同じことやってない?」みたいな。あとはその、シリーズとしてのお約束が重なることによって、鑑賞ハードルが上がったりとか。そういう諸々も避けて。

言ってみれば、「2作目独自のシフトチェンジをする」というやり方をとってるのが、面白いし、なるほどクレバーだな、と思えたあたりでした。つまり、3作目以降もまた、作品ごとにシフトチェンジしても、全然アリなわけですね。もっとシリアスに振ってもいいし……実際、いろんな計画が阪本さんにはおありのようですが。なので、「1作目と違う」っていうのは意図的なものであって、それだから気に入らない、っていう人がいるのはしょうがないけど、まあ、「これはこれ」っていう作りにしてるわけですよね。

具体的に言いますとですね、1作目のリアルでダークでビターな色の部分を押さえて、どっちかといえばポップで、楽しくて、なんなら爽やかな、言っちゃえば青春映画的な面を前に押し出した作りになっている、ということですよね。特にやっぱり男子チームですよね。完全に部活ノリだし、あとは「正社員を目指すバイト」ノリ(笑)っていうことですよね。ということで、最終的な対決も、ほとんどスポーツマンシップさえ感じさせるような戦いになっている、ってことですよね。

たとえばですね、前作で実は僕がちょっと気になっていた部分でもあるんだけど、ちょっと、いくらなんでも人の死が軽すぎないか? みたいな件。本作ではですね、物語上も描写上も、(殺人などの暴力描写は)必要最小に抑えられていて。なんて言うかな、観る人によっては倫理的ノイズが生じてしまうというのを、非常に抑えているわけです。で、これは非常にですね、エンタメ作品としては実に的確なチューニングだと思います。これでレーティングがムダに高くなって、若い子が観られなくなったりするとまた元も子もないっていうか。そもそもある意味、設定として、遊戯的な……「殺人」とは言いますが、遊戯的なバトルを描く作品なのだから、これはひとつの、非常に的確なチューニングだと思う。

「ありがとう! 面白い映画を見せてくれて……!(泣)」

で、それが最高の形で結実しているのが……今回の2作目で。ずっとアバンはね、(主人公の)2人じゃない人が、男子チームが活動する。で、アバンからしばらくは、2人が部屋でダラダラしてるところで。なんか「払い込みが遅い」みたいな……もう、本当にだらしない連中なわけです。見ていて若干イライラするんですが。「イライラするわ、こいつら!」みたいな(笑)。

その2人が、ついに能力を発揮する、銀行でのアクションシークエンスがあるわけです。その、払い込みギリギリの時に、たまたま銀行強盗が来てしまって。「うわっ、ウザ……」みたいになっていると。ここね、銀行オフィス内の空間や小道具などを、リズミカル、かつ連鎖的に利用していく……引き出しであるとか、ノートパソコンであるとか、あとあの、受話器ですね! コード付きの受話器。あのコード付きの受話器を振り回し出した時に……僕はあれ、感激しました。「ありがとう! 面白い映画を見せてくれて……!(泣)」っていうね。

次々にそういうものを利用していく、まあズバリ言って、ジャッキー・チェン型アクションですよね。先ほど、(番組内の)ちょっと前の時間でも言いましたけど、ジャッキー・チェン型アクション、最近でも、アメリカ映画……もっと予算がかかったアメリカ映画、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』とか、『ブレット・トレイン』であるとかで、ジャッキー型アクションってのはやっていましたが。「いやいや、こっち全然負けてない……っていうか、勝ってない?」級の質の高さ。「こっち、カット割ってないし。こっちの勝ちじゃね?」みたいな。

あと、ここの場面だけ、基本的には音楽、ロックテイストが強いこのシリーズ……というか阪本さん作品としては珍しく、音楽がここだけ、ジャズ調になるので。非常に軽快さを増していたりする。で、最後は、クエンティン・タランティーノ最高傑作『デス・プルーフ』オマージュでキメッ!っていう感じですよね。僕はここを観ていてですね、あまりの楽しさに、先ほど(番組内で)チラッと言いました。先週(このコーナーで時評を)やりました『シン・仮面ライダー』と、NHKの(同作の)メイキングドキュメンタリーを観た直後だったのもあって。なんか、ちょっと……泣いてしまいました。「日本のアクション、やっぱりやればここまでできるじゃん! 面白れえじゃん(泣)!」みたいな感じで。

かと思えば、その後ですね、なんとかその払い込みを3時までに済ませたいその2人と、あの銀行員の女性……あの銀行員の女性の、リアクション、表情ともに、5億点です! もう本当に、思い出しただけで笑っちゃうんだけども。「ひゅあああああ!」みたいな。あのやり取りで僕はもう、映画館で久々に声出して笑っちゃいました。こことかね。

ラストのタイマンバトル。ボロボロになった2人の「おはよう」で涙……

一方、兄弟チームとそのちさととまひろがですね、最初に遭遇するくだり。手前のところをちさととまひろが歩いていて、そのずっと続いてる縦の道の奥から、ずっと兄弟が来てる。ここ、ちさととまひろが通り過ぎたところで、そのままカメラが後ろに行って……つまり、長回しで実は(兄弟が)つけてる(のが分かる)んですね。で、兄弟のやり取りに行って、兄弟が銃を構えて前進するところまでを、ひとつのカットで撮っているんですが。これ、要するにあんまりわざとらしくない長回しなんだけども。非常に計算されていて、効果的な長回しショットであるとか。

前作でも笑いをさらっていたあの現場処理班チーム、水石亜飛夢さん演じる田坂さんとですね、この同僚の中井友望さん演じる宮内さんのですね、めちゃくちゃこれ、いろんな職場でありそうで笑える、この関係性、掛け合いのところ……なんだけど、そこで「ああ、面白いな」って気を取られていると、その向こう側では、さっき言ったその兄弟が、今度は脱走を図っていて……というような。

要は、面白みとか見せ場の複合的な盛り込み方……非常にレイヤーが重なっているので、飽きさせない、とかを含めてですね、阪本監督。シンプルに、どんどん上手くなっている!と思います。あとたとえば、「微妙ズーム」使い。それとわからない程度にカメラが寄っている、みたいなのの使い方……笑わせどころも、あと不気味な緊張感を高めるところも、両方上手い。あの、プリンを食べるところでムダにそれを使う(笑)ところとか、上手いんですよね。

そして、さっき言ったように、基本前作よりはかなりポップなタッチで進んでいく本作。まさかね、あの田坂で「燃える」展開みたいなのがあるとは思いませんでしたが。「やっちゃってください~」みたいな(笑)。からの、満を持して、これは阪元裕吾作品ならではの、タイマンバトル! だいたい阪元裕吾作品にはタイマンがありますんでね。ここはやっぱり、ひたすらガチ!っていうところも、やっぱり阪本作品に期待される展開というか……ここまでポップに来てるからこそ、最後の格闘は、生身の、本当にもう上級者同士の戦いを、そのまま見せます!みたいな。

伊澤彩織さんvs丞威さん。途中、丞威さん側がちょっと有利になりかけたところの、あのフェイント使いとかを入れてくるあたりも、非常にかっこいいっていうか、印象に残りますし。バトル途中、あっと驚く仕掛け……あんなの、ちょっと見たことないですよね。驚いちゃった(※宇多丸補足:放送後、構成作家古川耕さんから「漫画『グラップラー刃牙』シリーズに類似のシーンが頻出するのでそのオマージュでもあるんじゃないか、という指摘がありました。番組プロデューサー&ディレクター蓑和田くんがソラで思い出しただけでも、「床を壁と勘違い」は『グラップラー刃牙』5巻刃牙vsマウント斗羽戦や『バキ』26巻モハメド・アライJr.vs範海王戦など、「幻想の勝利」は『バキ』7巻加藤清澄vs死刑囚ドリアン戦や『範馬刃牙』7巻ゲバルvsビスケット・オリバ戦など……他にもあるかも、ということでした)。しかも、あっと驚くその仕掛けの後、ボロボロになった2人が言う、「おはよう」。あそこでまた僕はちょっと、不意に涙を……「ああ、この2人、出会い方が悪いだけだった……!」っていう感じがね、「おはよう」っていう(言葉の交わし合いから伝わってきて)。いいんだよなー! 青い顔しちゃってさ。

あ、時間が! ということで、永久シリーズ化希望!

まあ他にも、もちろん格闘シーンのみならずですね、ドラマパートというか、2人のまったりパートというのを引っ張っていく、高石あかりさんの芸達者ぶり。顔芸、さらにすごいことになってますし(笑)。一方で、そのミット打ちのキレ。あれもさらにね、多少早回しとか使ってるかもしれないけども、それにしても……あっ、ヤバい! 時間が!(※宇多丸補足:ただただ楽しく話しているうち、久しぶりにタイムリミットを完全に失念しておりました!)。ということで、もちろん永久シリーズ化希望! めちゃくちゃ面白いです。ぜひリアルタイムでウォッチしてください!

(次回の課題映画はムービーガチャマシンにて決定。1回目のガチャは、『わたしの見ている世界が全て』。1万円を自腹で支払って回した2回目のガチャは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』。よって次回の課題映画は『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』に決定! 支払った1万円はウクライナ難民支援に寄付します)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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