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8月18日放送後記

多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。

今週評論した映画は、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(2023年8月4日公開)です。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは日本では8月4日から劇場公開されているこの作品、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』。

車や生き物に変形するロボット生命体トランスフォーマーの戦いを描く、大ヒットSFアクションシリーズ最新作。オプティマスプライム率いるオートボットは、動物に変形するビースト戦士マクシマルたちと力を合わせ、地球を食い潰そうとする巨大な敵ユニクロンたちに立ち向かう。主なキャストは『イン・ザ・ハイツ』などのアンソニー・ラモスと、ドラマ『キラー・ビー』など……『キラー・ビー』は強烈でした、ドミニク・フィッシュバックさん。監督は、『クリード 炎の宿敵』を手がけたスティーブン・ケイプル・Jr.さんが務めました。

ということで、この『トランスフォーマー/ビースト覚醒』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあ、公開規模に対してはちょっと少なめ、という感じなんでしょうか。賛否の比率は、褒める意見が7割弱。主な褒める意見は、「これまでのシリーズも踏襲しつつ、新規ファンも見やすい出来栄え。

これはシリーズ最強最高傑作では?」「日本語吹替もよい」「音楽使いもアガる」などがございました。一方、否定的意見は、「ビーストたちの活躍が少なすぎる」……これ、ちょっと理由があるんですけどね。「トランスフォーマーらしい派手な見せ場がなく、ドラマパートも中途半端」などがございました。

「『ビーストウォーズ』直撃世代としては生涯ベスト級!」(リスナーメール)

というところで、代表的なところをご紹介いたしましょう。まずは褒めている方。ラジオネーム「緑色好きののづ」さん。「今週の課題作品『ビースト覚醒』ですが、池袋グランドシネマサンシャインでの試写会で吹替版4DX、同劇場での字幕版IMAXレーザーGT、通常の吹替版で3回見てまいりました。まだまだ見るつもりです。これだけ見に行ってるのだからおわかりかと思いますが、大変に良かったです。最高です。1997年放送の『ビーストウォーズ』直撃世代としては、もうこんなにやられてしまっては生涯ベスト級なわけです」。これはもうね、やっぱりそこはあるでしょうね。ちなみに私、そのテレビでやっていた方の『トランスフォーマー』のアニメとか、『ビーストウォーズ』も、私は直接的には何の思い入れもございません。

当時K DUB SHINEに、『ビーストウォーズ』のDVD BOXを大量に貸された、っていうことはありますけども(笑)。そういうぐらいの感じでございます。

「なめまわすようなショットでの変形シーン、人間とトランスフォーマーたちの友情という、『トランスフォーマー』に求めていた要素を過不足なく詰め込み、マイケル・ベイ由来の異常なスケールとハイテンションなカーチェイス、とてもじゃないが人間に置き換えられない過激なファイトもしっかり抑える手際の良さ」。非常に……ロボットだからって、めちゃくちゃ残酷なんですよね(笑)。頭をもぎったりする、っていうね。

「これらの点は私のような『ビースト』直撃世代でなくても、『実写シリーズ最高傑作』であることは疑いようがないのではないでしょうか。ファンとしては様々な点で取り入れられたオマージュにキャッキャと3歳児の喜んでしまいましたが、何より日本展開で嬉しいのは、日本版『ビーストウォーズ』でも活躍したベテラン声優、Sexy Zoneの中島健人さんやオリエンタルラジオ藤森慎吾さんらによる非常に上質な吹替版。『ビーストウォーズ』未見の方には字幕版よりデフォルメの効いたキャラ付けがなされた吹替版の方が見やすいかもしれません。マイケル・ベイに足りなかった節操と、トラヴィス・ナイト監督による『バンブルビー』に足りなかったスケール感を両立させ、見事に今後の展開への道を開いてくださったスティーブン・ケイプル・Jr.にはいくら感謝してもしきれません。(ただ『バンブルビー』はこのこぢんまりしたところがまたかわいらしくていいんですけどね)」という緑色好きののづさんです。

一方、ダメだったという方。ラジオネーム「財団DX」さん。

「結論から言えば今年ワーストどころか、シリーズ歴代ワーストの一作だと思います」。もう、分かれてますね。「一番の欠点は、サブタイ詐欺かと言いたくなるぐらい“ビースト(マクシマル)”たちの活躍シーンが少ないことです。特にロボット形態の活躍シーンは最後の最後に一瞬あるだけで、ろくに全身を見せてくれません」。これ、理由があるんですよね。「そのくせ、人間側やオートボットの新キャラをこれでもかと出してくるので序盤からずっとイライラしたまま、それが解消されることなく終映してしまいました。あえて厳しいことを言いますが、監督は“『トランスフォーマー』を観に来る客が何を求めているか”を、全くわかっていなかったのだと思います」。これ、監督の責任ではちょっとないんだけどな、っていうね。

「たとえ脚本がずさんでも最新鋭の映像技術を駆使してド派手な戦闘シーンを見せてくれるのが、シリーズ最大の魅力と思っています。そのマイケル・ベイ節が極地に達したため、キャラやストーリーラインをすっきりと整理して新境地を切り開いたのが前作『バンブルビー』でしたが、今作はド派手な見せ場もなければ、ぐだぐだと中途半端なヒューマンドラマを見せられ……」。ヒューマンドラマ、あったかな?(笑) 「最終的に斜め上のサプライズ……」。まあ、ちょっとこれはショナイにしますね。

「……を延々と展開され、ずっとツボを外れた気分でした。他に拙い点を挙げれば枚挙にいとまがなく、せっかく仕切り直したシリーズがまたボンクラ映画シリーズに戻ってしまったと失望を隠しきれない一作でした」。

ちなみに、私がさっきから言ってる事情っていうのは、サクッと言ってしまいますけど、序盤の、最初のマクシマルたちが出てくるあの惑星のところと、クライマックスのところのCGIを、結構ギリになって丸ごと作り直したっていう、結構ドタバタなあれがあって。それゆえに、出てくるビーストとかも、結構減らしたらしいんですね。種類とかね。で、当然見せ場とかも減らしてるし。で、それははっきり言って、スティーブン・ケイプル・Jr.さんがたぶん担当してないところというか、あんまりどうにもできなかったところだと思うんで。まあ監督の手柄でもなければ、責任でもない、みたいなところがひょっとしたらあるかもしれない。

ただ、スティーブン・ケイプル・Jr.さんのその持ち味とどう絡んでくるか、というところは後ほど、私もお話したいと思います。というところで、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』、皆さんメールありがとうございます。私も、鹿児島ミッテ10のIMAX字幕3D、そしてバルト9の吹替で観てまいりました。

ミラージュの「90年代ラッパー感」、吹替に最適任なのは……?

まず、鹿児島の方はね、土曜日だったんだけど、入りはボチボチって感じで……ただ、IMAXスクリーンが、ちょっと小さめでですね。あと、それに合わせてなのか、偏光眼鏡も、なんか品川とかでもらうやつよりちょっと小さめで。

なので、「眼鏡オン眼鏡」派にはちょっと、観づらいセッティングではあったんですけども。

ただこの映画、やっぱり3Dは、すごい合ってます! オートボットたちがガチャガチャ変形する見せ場の、その物質感……はっきり言っちゃえば、元がそうであるように、「オモチャ感」ですね。なんか目の前でカチャカチャカチャカチャやってる感じっていうか、それがより強調されて、いちいちワクワクさせられますし。全体の画作り的にもですね、3Dが生きる奥行きとかレイヤーが、おそらくは意図的に組み込まれた画が、非常に、平場の画でもそれがすごく多くてですね。たぶん、元々『トランスフォーマー』シリーズが大好きだったというこのスティーブン・ケイプル・Jr.さん、すごく楽しみながら撮ったんじゃないかな、というのが伝わってくる3D版でございました。

一方、吹替版。これ、バルト9は、平日昼、子供連れ中心に、めちゃくちゃ埋まっていました。ほとんど満席に近いぐらい。基本、みんなすごくおとなしく観てたのが印象的でございましたが。もちろんこれ、吹替版といっても、90年代末のね、テレビで放送された『ビーストウォーズ』日本語吹替版の、無法地帯ぶり(笑)というのとは、今回は全然関係なくて。基本的に日本で放送されたあれは、ネーミングとかも結構違ったりするんで、まあ、だいぶ違うは違うんですけどね、このシリーズはね。

ポイントは、原語だと、『サタデー・ナイト・ライブ』でおなじみのピート・デイヴィッドソンさんが演じている、ミラージュ。

これ、90年代ネタをちょいちょい挟みつつ、なんとほぼ全編をアドリブでやったという、このミラージュのセリフ回しですね。すごくいっぱいしゃべるんだけど。これは何でも、本国からのリクエストで、「この役は日本でも著名なコメディアンをキャスティングしてほしい」と要望があり、オリエンタルラジオの藤森慎吾さん……まあ声優とか吹替の経験も多数やられてますから。このコーナーだと、『かがみの孤城』のね、あの男性教師役で。「あっ、こいつ、わかってねえ」感が一発で出ていて(笑)。あれはすごいよかったですよね、藤森さんね。で、今回のミラージュ、もちろん、「今風のチャラい感じ」という意味では、藤森さん、普通にハマってると思います。よくやられていると思います。

ただですね、元のピート・デイヴィッドソンの、ちょっとやっぱり……ピート・デイヴィッドソンって、ヒップホップコントとかもよくやるんで。ちょっとやっぱりラッパーっぽいダミ声感とか、リズム感とかを含めて考えると、本当は……こんなこと言ってもしょうがないんだけど、(声優の)木村昴さんが一番合っていた、間違いなく。もちろん、藤森さんも藤森さんで全然いいんですけども、本当は木村昴さんが一番よかったのかな、と。

というのも、後ほど言いますが、先ほどのメールでもちょっと書いてありましたけども、今回の『トランスフォーマー』は、90年代ニューヨークのラップ、ヒップホップ要素が非常に多く、強めなので。というか、ほとんどそこが最大のキモ、っていう風に私的には思えるような作品なので……ということですね。

ちなみに今日の時評は、こんな風にですね、『ブレット・トレイン』評以来のですね、「もっとこうすれば完璧だったのに……!」みたいな、「オレの考えた“もっとこうすればよかったのに『ビースト覚醒』”」っていうのを、後ほど、ちょっとやりますんでね(笑)。うざいかもしれませんが、お付き合いください。

実質上の仕切り直しにして意外な傑作だった前作『バンブルビー』

ということで実写版……というか、「実写とCGI掛け合わせ版」ですよね。「実写」って言うには抵抗があるな。『トランスフォーマー』シリーズ。改めて言っておけば、2007年の1作目から、2017年の5作目『最後の騎士王』まで、監督マイケル・ベイがその作家性たる、テストステロン過多な、ほとんど露悪的ですらある、過剰さというのを徹底させて、まあ、ひとつのジャンル的様式にまで持っていたという。今、振り返ってみれば、かなり異形のブロックバスターシリーズですね。異様だよね、あんな……子供が絶対描けないような、グチャグチャしたヒーローとかさ(笑)。グチャグチャなのよ、もう! みたいなね。

僕のこの映画時評の中では、2011年8月6日に3作目の『ダークサイド・ムーン』、そして2014年8月16日に4作目『ロストエイジ』を取り上げております。この頃はまだ公式書き起こしがなかったんで、まあネットに転がっているやつでも聴いてください(笑)。でですね、それが2018年の『バンブルビー』から、ちょっとシフトチェンジして。要はマイケル・ベイではない監督、クリエイターたちに、シリーズのバトンが渡され。しかもその『バンブルビー』は、1作目の20年前、1987年に再設定された前日譚……というか、私個人的には、実質リブートだろう!という風に思ってますけど。

というのは、今回の『ビースト覚醒』もまさにそうなんだけど、前のシリーズと厳密にすり合わせてみるとですね、「えっ? っていうことは、前に言ってたあれって、何だったの?」とか、「えっ? ってことはなんであの人はあの時、ああいう言い方をしたの?」とかですね、いろいろと辻褄が合わないところが結構出てきてですね(笑)。これ、『THE RIVER』でのプロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナベンチュラさんのインタビューによればですね、「自分的には矛盾しているとは感じない」みたいなことをおっしゃりつつも、「何本も映画を作ってれば、時に少し食い違いが起こることもありますよ」と正直なこともおっしゃっていて(笑)。なので、やはりですね、私個人的には、前作『バンブルビー』から、実質的にやんわりリブート、みたいな感じで観るのが一番すっきりしてるかな、と思います。はい。

で、とにかくその2018年の『バンブルビー』。このコーナーではガチャが結局当たらなかったんですけど。これね、これは私の評ですけど、さすが、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の……こちら、2017年11月25日に(評論を)やりました。の、トラヴィス・ナイト監督。そして『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』、こちらは2020年6月17日(の評論)かな、そして『ザ・フラッシュ』、2023年6月30日(に評論)の、脚本クリスティーナ・ホドソンさん、といった感じ。さすがこの二人がやってるだけあって、『バンブルビー』に関して言えば、はっきり言って、あらゆる意味で僕はめちゃくちゃよくできた、傑作だ、と思ってます。はっきり言って、シリーズの他の作品とはちょっと良さの方向が違うんで比べるのは野暮なんだけど──大傑作だ!というぐらいに思ってます。とにかく全てが、上手い! 本当にもう全カット、上手い!っていう感じだと思います。

シリーズ定番「オートボットとの出会い回」の構造を1994年NYにシフト

で、本当はその『バンブルビー』の続編を作るという予定だったんだけども、トラヴィス・ナイトさんがですね、ストップモーションアニメーション目下の最大手のライカ、元々そこのCEOですからね。トラヴィス・ナイトさんは、「俺、ちょっといい加減、ライカに戻らなきゃ」みたいな感じになって。そうこうするうちに、コロナ禍が始まっちゃったりしてですね。で、結局新たな『トランスフォーマー』三部作だかの1作目となっているこの企画の、監督として白羽の矢が立ったのは、『クリード 炎の宿敵(クリード2)』、このコーナーでは2019年1月18日にやったあの作品で、見事ライアン・クーグラーの後を引き継いだ、スティーブン・ケイプル・Jr.さんだった。

で、スティーブン・ケイプル・Jr.さん。その前に撮ったインディペンデント映画、長編デビュー作『The Land』というのは、ラッパーNASの会社で作った、言ってみれば新世代フッドムービーで。ちなみにNASは、今回の『ビースト覚醒』でも、お付き合いがやはり、引き続きありますよね。新曲で参加したりしてますから。あと、昔の名曲も出てきますから。

あとはスティーブン・ケイプル・Jr.さんは、Netflixの『Rapture』という、ヒップホップドキュメンタリーを撮ってたりとかしていて。とにかく、そんなゴリゴリにヒップポップな風土というか、畑の中から出てきた方なんですね、スティーブン・ケイプル・Jr.さん。なので、脚本こそ、『オビ=ワン・ケノービ』とか『アーミー・オブ・ザ・デッド』とか、あとは『ザ・フラッシュ』とかにもちょっと関わっていたジョビー・ハロルドさんなどを中心とした、他の何人かで書かれている。なので、お話面の不備は、はっきり言ってスティーブン・ケイプル・Jr.さんのせいじゃないんですけど、というね。で、ぶっちゃけこの脚本にこそ、非常に僕は難点があると思っておりますが。

映画としてのテイスト……お話はお話として置いておいて、映画としてのテイストは、かなりスティーブン・ケイプル・Jr.さんならではの、ラップ/ヒップホップ色、なんならフッドムービー感という、場所によってはそれが非常に強い作りになっている。なにしろ物語のスタートは、1994年、ニューヨーク。いわゆる東海岸ヒップホップの、黄金期とも呼ばれる時代なわけです。

構造としては『バンブルビー』、というか『トランスフォーマー』シリーズにおける、「主人公が初めてオートボットたちと出会う回」の構造です。そのフォーマットですよね。要は、実生活、実人生ではあまりぱっとしないことになっている日陰者的な主人公が、オートボットたちとの出会いと冒険を通じて、自信を取り戻してゆくまで、という話という。1作目からそうですよね。

で、『バンブルビー』ではそこにさらに、1987年という舞台設定、なおかつ、バンブルビーが声帯機能を失って、ラジオ音声のパッチワーク……言ってみればサンプリングで会話する、という1作目からの設定、こちらも相まって、まあ1987年なんでちょっとヒップホップも染み出してはいるけども、基本80'sポップ大炸裂!というような感じになっていたわけです。本当によくできている。あの、映画『ブレックファスト・クラブ』の主題歌でもあるシンプル・マインズ「Don't You (Forget About Me)」の引用の仕方とか……あれは『E.T.』ともちょっとシンクロしてますよね。要するに「テレビで見たことを(子どものようなエイリアンが)自分でもやる」みたいな。それも含めてですね、本当に、完璧!という感じですね。最後「Don't You (Forget About Me)」が流れだしたところとか、「うわっ、マジ上手い!」みたいな感じだと思いましたね。

とにかく今回の『ビースト覚醒』は、その主人公の自信回復というストーリーの型と、時代に合わせたポップチューン選曲、というのを、1994年ニューヨークに丸ごと置き換えた、という形ですね。これからいろいろ曲をかけていきますけども、ヒップホップクラシックス。非常に有名曲ばかりです。はっきり言って。なんですけども……という感じ。

90年代NYヒップホップ・クラシックス連発&曲のツボを押さえた編集!

ただですね、これね、主人公の役割を二人に分けたことで、両者ともちょっとキャラとして薄くなった、という面はありますが。それはちょっと後ほど言おう。

とにかくアンソニー・ラモスさん、『イン・ザ・ハイツ』でおなじみアンソニー・ラモスさん演じる、主人公のノア。1994年ニューヨーク、ブルックリンの自室で流れるのは、ウータン・クラン「C.R.E.A.M.」です。ちょっとかけてください。「♪Cash rules everything around me C.R.E.A.M. get the money Dollar dollar bill, y'all」と。つまり、とにかく金、金、金の世界で稼いできて、つまりストリートハスリング、ちょっと違法なことをしてでも稼がなきゃなんない、というこのテーマに乗せて、ノアさんは、自作のケーブルテレビコンバーターで……それで画面に映るのは、2パック主演のフッドムービー、1992年の『ジュース』ですよね。で、ノアの部屋にはもちろん、ヒップホップ系のカセットやポスターだらけ、ということで。まあ、僕はすぐ友達になれる男ですね(笑)。で、これでもうすぐに94年感が出ている。

一方、もう一人の主人公。『ユダ&ブラック・メシア』とか、あとは僕はなんと言ってもテレビシリーズ『キラー・ビー』! これが鮮烈でしたけども。ドミニク・フィッシュバックさん演じる、エレーナ。登場シーンに流れるのはこちら、SWVの「Anything」、さらにそれの「Old Skool Mix」ですね。つまり、やっぱりウータン・クランつながり。これ、(フィーチャリング・ラップの)入りが有名ですね、オール・ダーティー・バスタードの。「♪ウォウウォウウォ~、ウォッ」って(笑)。有名でございます。

あと、ノアが弟を連れて出かけるところでかかるのは、ア・トライブ・コールド・クエストの「Check The Rhime」です。すいませんね。慌ただしくてね。ちなみにここで出てくる、ノアの悪友リークを演じているのは、トベ・ンウィーグウェっていうね。彼もまた素晴らしいラッパーで。今回、NASと一緒に新曲に参加していたりします、ということですね。あとはね、もう言っていくとキリがない。NASの「Represent」とかも流れますよ、とか。あとは、エレーナが不安な時に歌うのは、TLCの「Waterfalls」、あれを歌ってますよとか、ありますけれども。

ちょっとさらに印象的なところ。ノアとエレーナ、それぞれがイリーガルな侵入をするシーンで流れるのは、ディガブル・プラネッツの代表曲「Rebirth of Slick (Cool Like Dat)」っていうやつですね。これの使い方……わざとイントロをちょっと伸ばして、伸ばして伸ばして伸ばして使って。で、そのミラージュであるポルシェ……これはマイケル・ベイの『バッドボーイズ』オマージュだっていうんですけども。そのポルシェがバーンと出てくるところで、満を持して!という感じで、後ほど出てくる「Cool Like Dat」っていうね、要するに「かっこいいだろう?」みたいなサビが来る。ポルシェが出てきたので「かっこいいだろう?」っていうのが来る、みたいな、とにかく編集が、すごくうまくできています。ここのところね。(編集は)ウィリアム・ゴールドバーグさんとジョエル・ネグロンさんという方……たぶん今っぽい編集感という意味では、ジョエル・ネグロンさんの味なのかな?という気もしますが。ここ、非常に上手い使い方、印象深い使い方でしたね。

あと一番、本作でやっぱり印象的なのは、その後ミラージュとパトカーが、カーチェイスをするわけです。ここで鳴り響くのは、90年代を代表するフロアアンセム、ブラックシープの「The Choice Is Yours(Revisited)」!っていうね、こちらでございます。今、これ流れてますね。

でね、これを流しながらカーチェイスをするんですけど。元々、すごくアガる曲だっていうのもありますけども、途中、有名な……すごいパンチラインがたくさんある曲なんですけども、「Mista Lawnge, Dres, Black Sheep slam... Now」っていうところで、その「Now」のところで、ビートが抜けるんですけど。その抜けたところで、後ろのバンパーにボン!と追突されたりとか。そこもやっぱり編集テンポが、めちゃくちゃこの「The Choice Is Yours」に合わせていて。あるいは、3番の頭。「Engine, engine, number nine On the New York transit line」っていうライン。そこでビートがまたやっぱり抜けて、そこでもうフロアでこうやって、次に飛び上がる準備をして、めっちゃ盛り上がるんですけど。その瞬間に、初めてミラージュが変形する!っていう。だから曲の構造、一番美味しいところが、すごくわかった編集をしてるんですよね。めちゃくちゃこれは気持ちいいあたりでございましたね。はい。

ただラップの歌詞は、よく聴いてると一部、ちょっと省略されていて。ちょっと気持ち悪い瞬間もあったりしましたが。はい。(「The Choice Is Yours」で歌われている)「どっちも選べるよ。何でも選べるよ」みたいなのは、「どうとでも変形できるトランスフォーマー」みたいなものとも合っているかもしれませんよね。

でですね、ペルーへ出陣するぞ!っていうところではね、ノトーリアス・B.I.G.の「Hypnotize」が流れたり。あとエンドクレジットも、「Hypnotize」が流れます。これはたぶん「ブルックリン出身のイケてるやつが行ってやるぜ!」みたいな、そういう感じだと思います。僕は一瞬ね、「だったら『Brooklyn's Finest』とかもいいんじゃない? ジェイ・Zとノトーリアス・B.I.G.でさ……」とか思ったんですけども、でも「Brooklyn's Finest」は、96年なんですよ! なーんて、みたいな(笑)。

最高のタイミングで投下されるあのド名曲! なんだけど……ないものねだりさせてくれ!(笑)

で、はい、ありがとうございました。舞台がペルーに移ってからは、このヒップホップクラシックスつるべ打ち!みたいなのはちょっと、落ち着くんだけど。クライマックスの大決戦シーンで、一番美味しいところ、満を持して!という感じで、もうヒップホップ好きで知らない者はいない、どころか、ヒップホップ好きで歌えない者はいないという、もう本当にとあるド名曲、ドヒップホップクラシックスが、満を持して!という感じで、文字通り、「投下」されるんですよ。もう超最高!みたいな。メールでも「ここでもう1億点!」みたいに書いてる人もいたんですけど。

ただですね……ちょっと待ってください。この曲を聴いてもらう前に、ちょっといいですか? ちょっと苦言ね。僕、ここからすごく、うるさいことを言いますよ?(笑) ないものねだりしますよ? ちょっとその曲をこれから聴いてもらいますね。言わずと知れた、1990年、LL・クール・J、4枚目のアルバム、タイトルチューン。クール・モー・ディーとの長年のビーフに圧倒的決着をつけたともいわれる、バトルライムの最高峰。いいですか? ちょっと僕がキューを出したら出してね。「Mama Said Knock You Out」という曲なんですが、よく聴いてくださいよ? よく聴いてください。これ、劇中では流れないイントロから流しますからね。こんな感じの曲なんです。どうぞ!

(イントロを聞き、ラップ冒頭に合わせて)「Don't call it a comeback!」。あのね、実際の映画だと、こうやって飛行機がブーン!って飛んできて、で、飛行機のハッチが開いて、バンブルビーがいて。蘇ったバンブルビーがいて。で、「Don't call it a comeback!」からドン!って入るんですよ。まあ、それもアガるんだけど……。

俺、その「Mama Said Knock You Out」を使うなら、なんでさっきの「♪Ah Ah Ah Ah~」のイントロを、2枚使い風に……さっきの「Rebirth of Slick (Cool Like Dat)」と同じで、イントロを伸ばして。飛行機が飛んでくるところから「♪Ah Ah Ah Ah~」って流れだして、流れだして。で、もう元よりも引っ張って、2枚使いで、「♪Ah Ah…… ♪Ah Ah…… (スクラッチ音)♪Ah Ah……」ぐらいやって。で、ハッチが開ききったところで、「Don't call it a comeback!」だったらもう、立ち上がりですよ!(笑) そしたら500億点!だったのにさ。これね、ヒップホップの現場、クラブに遊びに行っている人だったら、絶対に思いつくようなことなんだよ。スティーブン・ケイプル・Jr.さん、ちょっと若いんじゃないか、君?(笑) ということでですね、まあ現状でも1億点ぐらいは出てるんだけど、本当は500億点出ている!という場面でございます。うるさくてすいませんね。本当にね(笑)。

脚本には大いに難あり! 演出にもあと少し「タメ」が欲しい

スティーブン・ケイプル・Jr.さん、『クリード2』の時もちょっとそのきらいがあったけども、タメとかケレンがちょっと薄いっていうか……特にクライマックスの決戦、あのマクシマルたち、ビーストたちが、「マキシマイズ!」って変身するところは、もっと、なんていうかな、ためて、もっと間を取って、「見栄を切る」べきところだと思うんですよね。だと思います。

まあ、それ以前にちょっと、脚本の問題として、本作ですね、非常にきめ細やかなキャラクター描写が素晴らしかった『バンブルビー』とは対照的に、さっき言ったように主人公の役割を二人分に分けたためにですね、どちらも薄いというか、行動の動機みたいなものが、しっかり描かれきっていない。

例えばノアはなぜ、あそこまでいきなりヒロイックな行動をとるのか? 「弟のため」って言ってるけど……いや、病気の弟を放って、帰らないかもしれない戦いに行くとか言っていて。それを、最初から言ってるじゃないですか。途中からそういう使命感に目覚めるならいいけど、最初から「俺、行ってくるわ」って、それは無責任でしょう?

で、一方エレーナの方には、考古学者としての動機はあるはずなんです。で、いろんなことを解決していくのは実際、彼女の方なんです。彼女の方がヒーローなんだけど。途中から、彼女に関する話っていうのが、あんまり掘り下げられなくなって、なんかおまけみたいなキャラクターにどんどんなっていっちゃって、本当にもったいないと思いますね。あと、「ブルックリンのピザ屋トニーズ」の話をするんだったら、そこで二人が再会するとか、みたいな、なんかそういうので活かさないと……っていう気がするんですよね。ちょっともったいなかった。

マイケル・ベイの大混乱クライマックスに比べて(笑)、何が争点なのかが比較的わかりやすい構造のクライマックスなのは、まあいいとして。まあ「宇宙に何かを発信して呼び寄せようとする敵を阻止しようとする」ってこれ、毎回やってない?って感じだし(笑)、解除パスワード装置、あんなところにむき出しであって……しかも壊してもあんまり関係ないんだったら、じゃあなんでそんな装置をそこにむき出しで作った?みたいな(笑)、よくわかんねえな、みたいなのはあるんですけどね。でも、とにかくさっき言ったように、オープニングとクライマックスのCGI、結構丸ごとギリで作り直したりしたみたいなんで。そのせいなんだと思います。なので、たとえばオートボットの変形の体積感がですね、ちょっと今回アバウトすぎないか?とかね、そういうのもあったりしますね。という感じだと思います。それにしてはよくやった方かもしれません。

もちろん、ミラージュとの「あの形」でのコラボ、非常に少年心をくすぐる展開で、アガるはアガりました。ペルー、クスコ遺跡ロケも、非常に新鮮でもありました……ただ、あそこを出すんだったら、ああいう風に人間との絡みを出すんだったら、だったら古代文明の何かを受け継いだ、「現地の戦士」も絡むべき、とかね。いろんなことを思ってしまいましたけどね。あと、敵チームの変形車が『激突!』オマージュだったりとか、そういうのはなかなかいいな、と思ったりしましたが。

ということで、私個人は、ヒップホップ要素でだいぶプラスされたところがある……特にやはり、前半のニューヨーク編。90年代フッドムービー、もしくは『バッドボーイズ』風のところ……プラス『ジュラシック・パーク』、みたいなところで、十分楽しみはしました。ただし前述した「Mama Said Knock You Out」は、僕が言う通り、イントロが先に流れ出して、2枚使いで伸ばしてる、っていうのを想像しながら観れば、かなりいい感じじゃないでしょうか?(笑) ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

ちなみに『ビースト覚醒』、でもやっぱりヒップホップ50周年タイミングでのこの作り、って考えると、やっぱり最高のタイミングかもしれないね。ヒップホップ50周年のこの夏に観るのに、最高の一作ではないでしょうか?

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