TBSラジオで長年親しまれた名物企画「全国こども電話相談室」(1964年~2008年)のコンセプトを受け継いだコーナーです。パンサーの向井慧が「電話のおにいさん」となって、毎回、様々な質問に合わせた頼もしい先生をお呼びしています。

今回の質問は・・・

Q. 野球の中継で、ヒーローインタビューのときに最初に「放送席、放送席」って2回言うのはどうしてですか?(千葉県 ふみのちゃん 10歳 小学4年生)

(回答した先生)土井敏之さん/TBSアナウンサー

向井おにいさん:おおー、確かに2回言うね。

― はい。なんで2回言うのかなって気になりました。

向井おにいさん:1回でもいいもんね。

― うん(笑)。

向井おにいさん:あははは。

ふみのちゃん、野球はよく見るの?

― そうですね。

向井おにいさん:実際に野球場に見に行ったりもする?

― します。

向井おにいさん:そうか、実際にヒーローインタビューを見て疑問に思ったことなんですね。

― はい。

土井先生:ふみのちゃん、よく気づいたね。すごい! 実はアナウンサーはすごくこだわってるところもあるんです。

まず、「放送席」って呼びかける理由の一つは、音声さんのためということがあります。

― なるほど。

土井先生:放送では実況するアナウンサー、それから解説者がいるよね。そのみんなのマイクのボリュームを音声さんがうまく調節します。例えば、私が実況してるときに普段の声の大きさで話していて、いい当たりが出たときに、いきなり「打ったー! 山口、大きーい!」って、急に大きな声で言ったら・・・

向井おにいさん:びっくりしました(笑)。

土井先生:ごめんなさい向井さん、ははは(笑)。

向井おにいさん:目の前にいるぼくがすごいびっくりしましたけど(笑)。

土井先生:大きな声で言うときに、普段の音声のボリュームのまんまだと音がうわーって割れたようになったりするので、音声さんが音を下げたり、聞きやすくしてくれるんですね。

― ほーう。

土井先生:それでね、ふみのちゃん。野球場の放送席って、ものすごく狭いの。

― へえ!

土井先生:実況するアナウンサーと解説者と、その隣にもう一人ぐらいしか座れないのね。

音声さんはその後ろにいるの。そうすると、実は音声さんって、野球場にいるのにグラウンドが見えないんだよね。

― へえーっ。

土井先生:そうすると、ヒーローインタビューでいきなり「佐々木朗希投手、ナイスピッチングでした!」って言われると、音声さんはグラウンドでインタビューが始まるところが見えていないから、音声のボリュームの調節が間に合わなくて、インタビューの最初の音が拾えないっていうことがあるの。だから、まず「放送席」って呼びかけると、音声さんも「あ、インタビューが始まるな」っていうのがわかる。

― おおー。

土井先生:ここまでなんとなくわかる?

― わかります。

土井先生:ありがとう。それでね、ふみのちゃんは野球の放送をテレビで見ていたかもしれないけど、ほかにもラジオでやったり、あるいは最近はインターネットの配信もあったり、ひとつの放送局だけじゃなくてたくさん中継するところがあります。そのどの放送局も全部同じヒーローインタビューが使われます。だからひとりのインタビュアーが代表して質問しているんだよね。

― なるほど。

土井先生:だから、たくさんの放送局のためにも、「放送席」って呼びかけると「あ、ここからインタビューが始まるな」ってわかる。例えば、実況が土井で解説・向井慧さんだとしましょう。・・・いやあ、向井さん。今日のピッチャーは非常に継投がうまくいきましたよねえ。

向井おにいさん:そうですねえ。非常にいいピッチングをして・・・

土井先生:佐々木朗希投手~!

向井おにいさん:わっ、びっくりした!

土井先生:こうなっちゃうと、急に割り込んできちゃうことになるじゃない。でも「放送席」って言われたら・・・。例えばもう一回やってみましょうか。向井さん、今日は継投がすごくはまりましたね。

向井おにいさん:そうですねえ。非常にいいピッチングしてましたね・・・

土井先生:放送席、放送席~。・・・こう言われると、実況してる人も解説している人もすっと黙ってインタビューを聞かせることができる。

― なるほど。

土井先生:そして、ふみのちゃんが気になってたことがあったよね。「放送席、放送席」って、なんで2回言うのか。1回でもいいかもね。でもね、2回言ったほうが、今みたいに話している途中でも「あ、ここでインタビューが始まるな」っていうのがわかりやすい。

― はい。

土井先生:それと、今回、TBSラジオでずっとスポーツ中継の音声さんをやっていた江口さんという人にも聞いてみました。そうしたらね、1回目の「放送席~」のときからヒーローインタビューの音量をすごく高く上げておくと、インタビュアーの人がまだ自分の声は放送に出ていないと思って「これ、3分聞ける? 5分いけるかな?」って相談している声が入っちゃうかもしれない。あるいは、マイクを握ったりする音がぐちゃぐちゃって入るかもしれない。だから音声さんは、最初はいろんな音が混ざらないようにボリュームをすごく低くしておいて、1回目の「放送席~」が聞こえたらボリュームを上げて、2回目の「放送席~」からちゃんとした音で拾えるようにするんですって。

― なるほどお。

土井先生:「放送席、放送席」って2回言うと、こういうふうにいいことがあるっていうことなの。

向井おにいさん:ふうーん! ふみのちゃんどうですか、2回言う理由はわかりました?

― わかりました!

向井おにいさん:非常にわかりやすい説明でしたね。土井さんも過去にヒーローインタビューを代表してやったことは何度もあるんですか?

土井先生:ヒーローインタビューは何度もやってますから、もしかしたらふみのちゃんが聞いていたヒーローインタビューは私がやっていたかもしれないですよ。

― ああー。

向井おにいさん:でも代表してインタビューするとなると、やっぱり責任ありますよね。

土井先生:そうなんですよ。自分たちの放送のためだけというよりは、みんなのためにヒーローインタビューをやっている。見に来ているお客さんが喜ぶように、選手が話しやすいように、放送がさらに深みが増すように、そういうふうに考えています。

― へえー! すごい大変そう。

土井先生:あははは!

向井おにいさん:そうだね(笑)。

ヒーローインタビュー「放送席、放送席」なぜ2回言うの?の画像はこちら >>

(回答者プロフィール)土井敏之さん。TBSアナウンサー。オリンピック中継を見てアナウンサーを志望し、1994年にNHKに入局、1996年にTBSに移りました。サッカーや野球など主にスポーツ中継を担当し、オリンピックやサッカーのワールドカップでも実況中継しています。