明日16日、ギリシャで、パリオリンピックの聖火リレーの採火式が行われますが、今回の聖火リレーのトーチの、炎を生み出す燃焼部とボンベという心臓部を手掛けているのは、日本の燃焼器具メーカーで、新富士バーナー株式会社という会社なんです。

トーチのデザインが、バーナー屋泣かせ!?

新富士バーナーは、東京大会のトーチも手掛けており、その技術力を見込まれて、声がかかったようなのですが、パリ大会のトーチはなかなか大変なことが多かったそうです。

まずは、一つ目の大変を、新富士バーナー開発部の山本潤さんに聞きました。

新富士バーナー株式会社開発部 山本潤さん
「正直今回の聖火リレーのトーチの筐体なんですけれど、少しバーナー屋泣かせ、というかですね、なにか火を燃やすには少し難しい構造でしたので、最初、その筐体の形を見た時は大変驚きました。そうですね、私たちであれば、まず考えない形というか、選ばない形と思いました。

パリのトーチなんですけれど、実はその、上下から真ん中に向けて太くなっていく形状になっておりまして、実際燃える『燃焼部』というのは中心部少し上くらいに付いているんですけれど、ちょうどその燃焼部が外気に晒されるというよりかは、筐体に囲われたような状態になっておりましたので、酸素の供給も難しくて、そういったところがとても大変だったと思います。」

東京大会の時のトーチは、上に向かって開いたような形だったので、上部の広い部分に燃焼部を入れられたし、外気にも近いので酸素を取り込みやすかった。

しかし、パリ大会のトーチは、ワインボトル2本の、底と底を合わせたような形で、これの真ん中よりちょっと上に燃焼部があるので、狭い場所に燃焼部を組み込まなくてはならない上に、しっかりと胴体に囲まれていて酸素の供給も難しいと、火を燃やすには難しい構造だったんです。火を燃やし続けることが、聖火リレーのトーチには大事な役目なのに・・・。

炎までデザインした、こだわりの聖火トーチ!

しかし、難題はそれだけではなかったのです。再び山本さんのお話です。

新富士バーナー株式会社開発部 山本潤さん
「今回デザイナーさんからは、炎の色や形もデザインをしたい、二通りの炎を出したいと言われておりまして、一つはトーチを持った時に、上から真上に上がっていく炎。あとは、走っているとき、もしくは風を受けた時に、何て言うんでしょう、トーチの上の辺りから旗がたなびくように火が出したいと、言われておりました。

当社だとそういう炎を作るっていうのは今まで無かったので、イメージの形にするためには、やっぱり何度も何度も試作テストを繰り返しながら、やっとたどり着いたというところですね。

10センチくらいの縦の隙間から火がこう出ていく形になるんですけど、燃料が出る小さな穴があるんですが、そこの大きさ一つで炎の長さが変わってきたりですとか、横の隙間というか穴が、大きいか小さいか、幅が何ミリかでも炎の出方が変わりますので、底の調整は苦労した点だと思います。」

聖火リレーのトーチのデザインというと、持つ部分、ボディのデザインと思いますが、今回は炎もこだわっているんです。みなさんがイメージする、いわゆるトーチのてっぺんから上に向かって出る炎と、走ったり風に吹かれたときにはトーチの上部に旗がたなびくように出る炎、と二種類の炎が出せるトーチにしなければならなかったんです。これは難題でした。

上部の細い部分に、縦に10センチほどの隙間を作り、そこから炎を出して、旗の形を作りますが、この隙間の幅は広すぎても狭すぎても、たなびく旗の長さが出なかったり、燃料を送る穴の大きさ一つでも炎の大きさが変わってしまい、非常に苦労しました。

さらに、炎の色にも注文が出ていて、これも酸素が入り過ぎると青白くなってしまうし、少ないと炎の大きさが不十分になったりと、色の調整にもだいぶ時間がかかりました。

開会式で聖火台に火が灯るまでが、我々の仕事!

今回2000本のトーチを任された新富士バーナーですが、デザインを受け取った去年の2月から、たったの11か月これらの難題をクリアして製造しました。

通常の商品なら一日数千台くらい作れるのですが、トーチは一日50本のペース。締め切りのある仕事で、そこも大変でしたが、なんとか9割がた完了したと聞き、やっとほっとできますね、と山本さんに聞いてみました。

新富士バーナー株式会社開発部 山本潤さん
「製造自体は4月で完了するんですけど、16日に採火式がありまして、パリの国内のリレーは5月の8日からスタートしていくんですが、やっぱり本当にほっとできるのは、聖火リレーがちゃんと役目を終えた時かなと思いますので、それまでの間もですね、作って終わりではなくて、その聖火リレートーチの持ち方ですとか、こういう環境だとどうなのか、どんなリスクがあるのかっていうのは日々検証しながら、何かリスクが見えてきた時には、それはすぐに対応していくっていう体制は取っていこうと思ってます。

はい、やっぱり私たち想定しないことも起きると思いますので、走り出してみないと分からないところも多いと思います。

あの・・・聖火リレーを、もしご覧いただけることがあったら、その旗がたなびくようなところにも注目して見ていただければと思います。」

7月25日の開会式で、聖火台に火が灯るまでが我々の仕事ということで、まだまだホッとはできません。社内で様々な状況を想定して検証しながら聖火リレーを見守ることになります。まさに職人の仕事、という感じがしました。

最後の最後に、本当に控えめに、もし聖火リレーを見ることがあれば、旗がたなびくような炎にも注目していただければと、とおっしゃっていましたが、これだけの難題をクリアした日本の技術がパリを駆け抜けるわけですから!私が代わりに、声を大にして言いたいと思います!ぜひ、ご注目ください!