石井正則(七代目自転車名人)と疋田智(自転車博士)がいろんな角度から自転車の魅力を発信するTBSラジオ「ミラクル・サイクル・ライフ」。今週の「ポイント オブ サイクルトーク」は先週に引き続き、元プロロードレーサーでサイクリングプロモーターの別府史之さんをお迎えしました。

最初の話題はランス・アームストロング選手について。ご存知の方も多いと思いますが、彼は癌を克服してツール・ド・フランスで7連覇という輝かしい成績を収めたものの、その後ドーピングが発覚し、自転車界から永久追放処分を受けた人物です。疋田さんの「気難しい方だったといわれていますが?」という質問に対し、「それはメディアに対してだけで、チームメイトにはクリスマスカードを送ってくれるなど、良き兄貴分でした」と、別府さんならではのエピソードを語ってくださいました。

続いて「現役時代、どのようにメンタルを保っていましたか?」という石井さんの質問に対し、別府さんは「この競技ではメンタルが最も重要で、フィジカルが30%に対し、メンタルは70%を占める」と答えられました。この比率には、石井さんも疋田さんも驚きを隠せない様子。現在ではメンタルトレーニングも進化していますが、同時にSNSの発達により、そのコントロールも重要になっていると別府さんは語ります。自転車レースはスポンサーが支える競技。やんちゃな行動がSNSで拡散されるとスポンサーのイメージダウンにつながるというわけです。そのため、競技だけでなく、日常の振る舞いを含めてバランス良く行動することがプロフェッショナルであるというのが別府さんのお考え。また、メンタルコーチやトレーナーなどのスタッフがチーム体制として選手を支える環境も整っているとのこと。選手は各自で計りを持ち歩き、炭水化物の量を測るなど、日常にも気を遣わなければなりません。プライベートもほとんどなく、睡眠に関しても専用の機器で記録・管理されており、精神的にも非常に厳しい環境。

そうした状況に耐えられず、若くして競技から離れてしまう選手も少なくないそうです。現在、別府さんはそうした若い選手たちを「守る側」。実は、ロードレースの選手寿命は4~5年ともいわれており、これにも石井さんと疋田さんは驚かれていました。別府さんは17年間もの間、現役を続けてこられた、非常にレアな存在。その経験を活かし、若い選手たちにアドバイスを送り、選手として真っ当な選手生活を歩んでほしいと願っているそうです。

次の話題はオリンピック。別府さんは2008年の北京、2012年のロンドン大会に出場されています。「自転車競技が第1回オリンピック(1896年)から行われていたのをご存知ですか?」という別府さんの問いに、石井さんも疋田さんも「知らなかった」と驚いていました。別府さんによれば、日本ではほとんど知られていない事実。別府さんにとってオリンピックは「通過点」。自転車ロードレースは年間を通じてレースが続くこともあって、他の競技のようにオリンピックが一つのゴールという意識はあまりないとのことでした。北京大会については「調整に失敗して惨敗だった」と振り返ります。

一方、ロンドン大会では、大会数日前にお世話になった自転車店の方が亡くなり、その方のためにも頑張ろうと奮起して結果は21位。メダルには届きませんでしたが、過去の成績の中では最も良い結果で、「ベストは尽くせた」と感じているそうです。

トップアスリートによる貴重なお話をお伺いできました。

(TBSラジオ『ミラクル・サイクル・ライフ』より抜粋)

編集部おすすめ