ゲストは、日本水難救済会・常務理事の江口圭三さん。
夏休みに入り、海や川、プールでの事故のニュースが今年も連日、報道されています。
水難事故は年々増えていて、警察庁の資料によると去年は過去10年で最多の発生件数に。江口さんによると増えている要因として考えられるのが、海や川に行く際の安全意識が低いことと、水に対する知識や基本技能が身についていないこと。特に、「水に対する基本技能」に関しては、学校や社会での水難事故防止の教育が十分でないことやコロナ禍で海川での経験がすっぽりと抜けていることなどが関係していると考えられるそうです。
事故や災害は「起きてからどうする」では遅い。大切なのは「どうやって起きないようにするか」。
起こす前の「そなえ」が重要。最近はその「そなえ」ができていないということが多いと思います。ただ、海や川は子どもたちにとっても、貴重な体験できる場所なので、身を守る最低限の術を身につけて楽しんでほしい。そんあ江口さんの願いのもと、今回は、『元・海上保安学校長・江口さん直伝 水の護身術』を教えていただきました。
「よく食べて、よく寝る!情報確認も必須!」
水辺に行く前に最も重要なのが「情報確認」です。
①天気
台風が近づいていたり、警報・注意報が出ているとき、風の強い日に海や川に行くのははっきり言ってやめるべき
②場所
風向きを考えて穏やかな場所、水上オートバイなどのマリンレジャーと遊泳区域が区分けされているなど、活動に応じた安全な場所を選ぶ必要があります。
③体調
そして、海や川などに行く前の準備として、体調を整えることをおろそかにしがちな人が多いです。水遊びに行くというので楽しみで寝られない・・・という人もいるかもしれませんが前日によく寝て、ご飯をしっかり食べて体調を整えておくだけでも、水辺の事故というは、かなり防ぐことができます。
④通報先
いざという時のために通報先も覚えておきましょう。海での事故は海上保安庁につながる 118番。川や湖での事故は消防 へつながる119番へ。江口さんによると「実際はどちらも情報共有されているので、どちらに電話しても大丈夫」とのことですが、原則を知っておくことが重要です。
〈水辺に行く際の準備〉
*ライフジャケット
*マリンシューズ
*手袋
*ラッシュガード
などの安全グッズを準備することをお勧めします。浮き輪やフロートなど、遊びに応じて選ぶといいですが、最も安全を確保できるのは、やはりライフジャケットです。また、防水パックなどに入れてスマートフォンを身につけておけば、もしもの時、すぐに通報することができるので必需品となります。また、もし川などでおぼれた人がいた際にしようできる、スローロープの準備などもおすすめです。
Q.子どもと一緒に海や川に行くという保護者の方も多いと思いますが、保護者として覚えておいた方が良いことはありますか?
江口:「ママパパポジション」を覚えておいてほしいです。まず、大前提として、水の中でも子どもの近くにいること!その上で、海では、子どもよりも沖側の深い方に、川では、流れの下の方にいるようにして、何かあったらすぐに手を握れるようにしておきましょう。
もしも・・・溺れそうになってしまった場合は
「覚えておきたい!いざという時のイカ泳ぎ」
まず、水の中で想定外のことが起きてしまった場合、いかに動揺を抑え、平常心を保てるかが大切で、そのカギとなるのが「浮き身」と「呼吸」です。オススメしたいのが「イカ泳ぎ」。
イカ泳ぎは、速く進むのではなく、ゆっくりと進み、長く浮くことが目的の泳ぎ方。
①手足を使ってお腹と顔を上に向ける
=仰向けの状態で顔が上がっている様な状態。

②手と足を引き上げる
=腕は、肩より少し低いところまで上げる、足は、がに股で膝を軽くお腹に近づけるように

③手と足でゆっくり動かす
=手と足で水を押し返す感じで、腕と足を一緒に伸ばす。手は水面とほぼ平行に動かします。
=この時、足の動きは、仰向けで平泳ぎしているような感じ。バタ足でも構いません。

④この縮んで伸ばすような動きを繰り返すと、まるでイカが泳いでいるように浮くことができる。
イカ泳ぎの最大のメリットは、頭と顔がしっかり海面の上に出ること。
顔に波がかかりにくいので、「呼吸がしやすい」「周りが見える」「音が聞こえる」「声を出しやすい」など多くの利点があります。
加えて、疲れにくいという利点と、肩や股関節の大きな関節をあまり使わないので、ライフジャケット着用時でも着衣状態でも負担なくでき、Gパン、ポロシャツ姿でもあまり体力を使わずに長い時間浮いていることが可能です。さらに、ただ浮くだけでなくゆっくり進み続けられるため、陸に上がれる場所や、つかまる場所をめざすこともできます。
もし、溺れている人を見つけたら・・・
溺れている人を見つけた場合、まず最初にやるべきことは「自分の安全を確保する」ことだと江口さんは強く言います。「近くで溺れている人がいるということは、自分もそういう状況になる可能性があります。自分が安全でないと何も支援ができないので、まず自分の安全を確保することが大切です」
~具体的な行動として~
1. 自分の安全を確保する
2. 声をかけて溺れている人を落ち着かせる
3. 上がれるところ、掴まれるところがあれば誘導する
4. 支援する人たちを呼んで通報してもらう
5. ロープやクーラーボックスなど、投げ込んで役立つものがあれば投げ入れる
「水に入って助けるというのはプロの仕事です。訓練をしていない人がやるのは非常に危険な行為です。溺れている人を見かけたら、まず自分の身の安全を確保した上で陸からできることをしてあげる。これが大原則です」(江口さん)
『元・海上保安学校長・江口さん直伝 水の護身術』まとめると・・・
まず、第一に気持ちを落ち着けること!
浮き身を取って呼吸を確保すれば、落ち着くことができます。「落ちたらイカ」「流されたらイカ」です。これは得意な泳ぎでも構いません。
第二に、周りを見て、自分の状況を把握して「イカ泳ぎ」で流れや波に逆らわずゆっくり泳いで「さっさと上がる」こと! または、何かにつかまること!
第三に、浮力のあるものを確保すること。最善策はライフジャケット!備えあれば患いなし! あらかじめ着用しておくことを強くお勧めします。
⇨ただし、小さいお子さんはライフジャケットを着けた状態でお腹が下になると息ができない状態になることがあります。
そして、第四に、誰かに知らせること。頑張って泳いで、声を出す、笛を吹く、片手を上げて振る、防水パックに入れた携帯を持っていれば通報するなどの手段が考えられます。
一番大切なことは、溺れそうにならないようにしっかり備えをすることです。
そのための知識、行動、技能を身に付けて、つまり、危ないことを知り、それを避けて、しっかり備えて、楽しく安全に海や川を楽しんでほしいと思います。
夏の楽しいレジャーでもある水遊び。出かける前にしっかりと備えておきましょう。
江口圭三さん(日本水難救済会・常務理事)
海上保安大学校訓練部教官などを務め、2020年からは海上保安学校長に就任。
現在は、海で事故に遭遇した方々の救助を行うボランティアを支えるための団体「日本水難救済会」で常務理事を務め、日々、水難事故を防ぐための活動を行なっています。
(TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』より抜粋)