砂漠の街ジャイサルメールで、あるインド人が言いました。「物を売ったら君は僕のことを忘れる。
お金はいいから好きなものを持っていって」と。

「バックパッカーの聖地」と呼ばれるインド。確かにインドは、日本の常識がまったく通用しないワンダーランド。インドで見る風景、インドで起こる出来事、なにもかもが私たちの想像を超えています。

そんなエキサイティングな国、インドは、同時に手ごわい商売人がひしめく国。彼らとの「対決」は、楽しいこともあるけれど、やはりエネルギーを消耗します。しかし、これまでのインドのイメージを覆す街がありました。

インドの砂漠の街、ジャイサルメール
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなもの...の画像はこちら >>


インド・ラジャスターン州西部、パキスタンとの国境までおよそ100キロの砂漠地帯に、ジャイサルメールの街はあります。
砂岩でできた建物が夕陽に輝く様子から、「ゴールデンシティ」の異名をとるジャイサルメールは、「ピンクシティ」と呼ばれるジャイプール、「ブルーシティ」と呼ばれるジョードプルとともに、エキゾチックな風景を求める旅人に人気を集めています。

「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


かつては、インドと中央アジアを結ぶ交易の中継地点として繁栄し、ジャイサルメールの街には莫大な富がもたらされました。旧市街に点在する「ハヴェーリー」と呼ばれる豪華な邸宅の数々が、華やかな歴史を物語っています。

高台にそびえる城塞に今も人々が暮らすジャイサルメールは、生きた城塞都市。
中世そのままの街並みに、きっと感動するはずです。

インドのイメージを覆したジャイサルメール
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


インドの旅はとてもエキサイティングですが、そのぶんエネルギーを要します。街を歩くと飛んでくる視線、オートリクシャー(三輪タクシー)や土産物店の客引き・・・

ジャイサルメールに到着したとき、筆者は少々「インド疲れ」を起こしていました。ところが、ジャイサルメールの駅に着いた瞬間、「なにかが違う」と感じたのです。その感覚は、街を歩くうちに確信に変わりました。

旧市街を歩けば、街の人々が笑顔で「ハロー」と声をかけてくれます。強引な客引きで有名なオートリクシャーと遭遇しても、ドライバーは「ハロー」と挨拶してくれるだけ。「断るぞ」と気合を入れていたのに、拍子抜けです。「なんなんだ、この街は・・・!?」

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無料でチャイをごちそうされることも
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


ジャイサルメールは、筆者が訪れた他のインドの街とはまったく違っていました。トルコのように、通りかかった土産物店やカフェで、無料でチャイをごちそうされることすらあったのです。

聞けば、ジャイサルメールには砂漠の村出身者が多く、儲け史上主義ではなく、旅行者のコミュニケーションや義理人情を大切にしたいと考えている人が多いのだそう。加えて、小さな街なので、強引な商売をすればすぐに悪い噂が広がってしまうという事情もあるのでしょう。


ヨーロッパから来た旅行者も、「インドにこんなに居心地のいい街があるとは思わなかった」と語っていました。ジャイサルメールは、インドに疲れ、固くなっていた筆者の心をたちまち溶かしてしまったのです。

土産物店で働くTanuさんとの出会い
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


ジャイサルメール滞在中、何度も前を通りかかった土産物店で働いていた男性がTanuさんでした。何度か通りがかりに挨拶を交わしていましたが、ある時、彼は「何も買わなくていいから話をしよう」と筆者を店に招き入れました。

普通に考えれば怪しさ満点のこのセリフ。ですが、ジャイサルメールの人々の素朴なあたたかさに触れていたこと、そしてTanuさんが紳士的な雰囲気であったことから、話をしてみようという気になったのです。

彼は、女一人で旅をしていた筆者を父親のように気にかけてくれていたようでした。店内に入ると、以前ジャイサルメールに滞在していた日本人男性から届いたハガキを嬉しそうに見せてくれました。インドには親日的な人が多いですが、Tanuさんも日本や日本人に対し、好意的な感情を持つ一人だったのです。

チャイをごちそうになりながら、これまでの人生や、生きるうえで大切にしたいことを語り合いました。「お金を儲けるより、出会った人と心を通わせることが自分にとっての幸せだ」。そんな彼の言葉が印象に残っています。


「あなたから買わせてほしい」
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


ジャイサルメールを去る前、記念に何かを買うつもりでTanuさんの店を訪れました。しかし、彼はこう言うのです。

「君にはお客さんになってほしくない。物を売って、売り手と買い手の関係になってしまったら、君は僕のことを忘れるだろう。お金はいらないから何でも好きなものを持っていって。商売のほうはいずれ帳尻が合うはずだ」と。

でも、「この人から買いたい」という気持ちになっていた筆者は、「物を買ってもあなたのことは忘れない。だから、あなたから買わせてほしい」と言いました。するとTanuさんは、観念したように「君が好きな値段を付けていいよ」と。

買い物が「想い」の交換に
「物を売ったら君は僕のことを忘れる。お金はいいから好きなものを持っていって」


そのとき筆者がTanuさんに渡したお金には、「ありがとう」という感謝の気持ちと、「この街を去るのが寂しい」という気持ちが詰まっていました。

その買い物は、去りゆく者と、見送る者との間で交わされた、「お別れの儀式」でもあったのです。Tanuさんが売ってくれた品物は、単なるモノではなく、親愛の証。


買い物が、単なるお金とモノとの交換を超えて、「想い」の交換になった瞬間を今も忘れません。

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