アメリカの大学テニスを経験した選手を調査
ジュニアの頃からテニスがうまく、高校卒業とともにプロ転向する…そうしたケースは多いが、トッププロの中には大学でプレーすることを選択した後プロになった選手がいる。今回は、大学テニスを経験した選手と、大学でテニスをするメリットを紹介する。
【表】トップ100におけるアメリカ人選手と大学テニスを経験あるいは検討した選手一覧
男子トップ50で大学テニスを経験した選手は5人!
現在、男子世界ランキングの50位内にランクインしている選手の中で、大学テニスを経験したことのある選手は5人いる。各選手について紹介する。
※世界ランキングは2002年8月15日付のもの
●11位:キャメロン・ノリー(イギリス)26歳
先月開催されたウィンブルドンの準決勝で、優勝したノバク・ジョコビッチ(セルビア/同1位)を相手に善戦し、自国のファンを大喜びさせたノリー。彼も大学テニスを経験した選手の一人で、テキサス・クリスチャン大学において社会学を修めた。
同じくイギリスの女子トップ選手であるケイティー・ボールター(同129位)と仲良しで、ボールターのボーイフレンドであるアレックス・デミノー(オーストラリア/同20位)が育ったスペインにおいて、みんなでトレーニングをしていたのが目撃されている。ニュージーランド育ちのノリーは、オーストラリアにルーツのあるデミノーと気が合うのかもしれない。
●27位:フランシスコ・セルンドロ(アルゼンチン)24歳
両親がテニスアカデミーを運営しているセルンドロ。兄弟もテニスプレーヤーであり、ジュニアの後そのままプロになってしまいそうな環境だが、アメリカのサウスカロライナ大学でカレッジテニスを経験している。その後ブエノスアイレス大学のオンライン講座を受講する(※要確認)ほど勉強好きなようだ。
現在はパレルモ大学において経営学の学位を取得するために、オンライン講座を利用して引き続き勉強を続けている努力家だ。
●32位:マキシム・クレッシー(アメリカ)25歳
UCLAで数学を専攻していたクレッシー。母が南カリフォルニア大学のバレーボール選手だったことも、大学入学へのサポートとなった可能性が高い。
ITFジュニアの世界ランキングは2013年(16歳になる年)の1618位 が最高だ。その後2016年にUCLAに入学している。大学ではシングルスよりダブルスで成功しており、4年生時にダブルスで26勝0敗をマーク。大学最後のランキングはダブルス1位だった。クレッシーは大学テニスに力を注ぎ、卒業後にプロに転身して成功したいい例だと言えるだろう。
アメリカの俳優トム・クルーズをヒーローと呼び、『トップガン』が一番好きな映画と語る“ザ・アメリカン”なクレッシーだが、ヨガや瞑想も好むなど幅広い趣味があるようだ。
●43位:ジェンソン・ブルックスビー(ケガによりプレーせずそのままプロに)21歳
ブルックスビーも大学テニスに魅力を感じた一人だ。2019年にベイラー大学においてプレーをする予定だったが、ケガにより1年プレーできず、そのままプロに転身したため大学テニスは経験していない。
とはいえ大学テニスに魅力を感じ、入学しようとしていたことに間違いはない。ブルックスビーの2018年におけるITFジュニア世界ランキング最高位は54位。高いレベルでプレーしていたジュニアにとっても、大学テニスの魅力は明らかだったようだ。
●50位:ジョン・イズナー(アメリカ)37歳
ビッグサーバーとして知られるイズナーは、ジョージア大学で大活躍した。
ちなみに14歳までバスケットボールもプレーしていたようで、現在でも趣味でバスケットボールを楽しんでいるという。
51位から100位ではほとんどのアメリカ人選手が大学テニスを経験している
51位から100位の選手について調べてみると、セバスチャン・コルダ(同52位)とデニス・クドラ(同95位)以外のアメリカ人選手全員が大学テニスを経験していた(上記リンクより表参照)。クドラについては、プロになる前に大学テニスを検討していたという。
アメリカでは、大学テニスを経てプロになる、という選択肢が広く認識され、実際に成功していると言えそうだ。
大学テニスを経験したトップ選手が増えている!?
トップ50の選手の中で、30歳以上の選手が13人。そのうち大学テニスを経験しているのはイズナー1人だ。一方、30歳未満の37人のうち大学テニスを経験しているのは4人。このデータだけで一概に大学テニスを選択する選手が増えているとは言えないが、大学でテニスをする時間を経ることがプロへの障壁になるわけではない、ということは言えそうだ。また、上記で紹介したように、アメリカにおいては大学テニスという選択肢を魅力的だと感じる選手の割合が多いと言えそうだ。
大学テニスのメリットを紹介
●豊富な予算があり、よいコーチがいる
大学によってはプライベートジェットが利用できるほど予算がある大学テニス。当然いいコーチを雇う費用も豊富であり、ジュニアからプロに移行する時期に素晴らしい環境を整えてくれる。テニスコーチだけでなく、理学療法士やメンタルコーチも備えていることがほとんどだ。食事もアスリートに必要な栄養素をしっかりととれるよう配慮されている。
●仲間ができる
基本的に一人で戦うことの多いテニスだが、大学テニスになると一人で戦う時期とチームで戦う時期があるため、チームスポーツの側面が出てくる。ツラいことはみんなで分かち合い、喜びは何倍にもなるチームスポーツのよさを享受することは、それまで孤独な戦いを強いられてきた選手たちにとって思い出深いものとなるだろう。大学を代表して戦うのも一つの魅力だ。
●テニス後のキャリアを広げる
元世界No.1のマリア・シャラポワがキャリアの途中でハーバードビジネススクールの短期講座に通ったように、多くのスポンサーとビジネス契約を結ぶテニス選手にとって、学業を修めることは重要だ。プロになる前に大学でテニスをしながら将来に役立つ勉強ができるのであれば、魅力的な選択肢であると言える。
選手としてのキャリアが終了した後も人生は続く。シャラポワは、引退後もさまざまなビジネスに携わりながら別の道での成功を実現させた、いい例と言えるだろう。
大学でテニスをするために必要なこと
●ITFでのランキング
進学する大学にもよるが、ITFでのランキングは当然重要となる。
●英語力
アメリカの大学では、授業についていける英語力がない選手はプレーすることができない。そのため英語力は必須となる。ただし英語は必ずしもネイティブである必要はない。テニス選手のインタビューを聞けば分かるが、多くの選手の英語に独特のイントネーションがあるし、かつて英語が苦手だったが今は問題なくコミュニケーションをとれているという選手も少なくない。
英語はコミュニケーション手段であり、伝われば問題ない。今はオンラインでネイティブスピーカーと話せるサービスや、しっかりとしたカリキュラムに則ったレッスンを提供するサービスが多数用意されているので、高い意識を持って早いうちから準備するようにしたい。
●その大学でプレーしたいという気持ち
NCAAに選手を紹介するエージェントによれば、“どこでもいいから大学でテニスをしたい”という選手より、“絶対にこの大学でテニスをしたい”という強い思いを持った選手のほうが大学側から好まれるそうだ。当然と言えば当然だが、自分が一番行きたい大学については強い思いを言葉にできるようにしておきたい。
ある選手は、一番行きたい大学でのトライアウトに参加した後、その思いを大声で語った動画をSNSに投稿した。
プロへの道は一つじゃない
幼い頃から才能を開花させ、プロになるまで突き進む選手もいる。小学生最後の大会で3冠を達成することが日本からプロになるための指標となっているような話も聞いたことがある。
だが、テニスでプロになる道は決して一つではない。長いキャリアとキャリア後の人生を考えた時に自分がどんな人生を歩みたいのか、そのためには何が必要なのかを早いうちからしっかり考えることが大切だ。大学テニスは、ジュニアからプロになっていく時に選手の成熟度を高めるいい選択肢の一つだと言えるだろう。