九州でまた一つ、新しい鉄道プロジェクトがスタートします。

コロナ前のデータで年間350万人近くが利用していた熊本空港(愛称名・阿蘇くまもと空港)、JR熊本駅発着のリムジンバスは渋滞が発生すると所要1時間超というアクセス面が課題でしたが、定時性、大量輸送性、速達性の3条件を満たす鉄道アクセスは、空港の国際競争力強化につながります。県によると、開業予定は2034年度末。若干の紆余曲折もあった、ルート選定経過などをたどります。
アクセスが課題
熊本市の北東約20キロに位置する熊本空港は、3000メートル滑走路1本。1971年に開港、当初の国内線に続き、1983年に国際線ターミナルビルが供用開始しました。国が進める空港民営化で、2020年には九州電力、九州産業交通ホールディングスなどが出資する熊本国際空港(企業名)に移管されました。
熊本空港最大の課題がアクセス。今後、2027年度に486万人、2051年度には622万人が利用するとの需要予測(熊本国際空港のマスタープランから)もある中、75万都市・熊本市との確実なアクセス手段が求められました。
「鉄道延伸」を選択
熊本県は2004年度から空港アクセス改善策の検討をはじめましたが、採算性確保が困難とされたことからいったんは計画を凍結。その後、空港周辺を取り巻く環境が変わり、再検討が行われました。①鉄道(JR豊肥線から空港に分岐する新線整備)、②モノレール(熊本市内からの新線整備)、③熊本市電延伸、④BRT(バス高速輸送システム)――を比較検討した結果、定時性などの条件を満たし、事業費(建設費)を抑えられる点を主な理由に、「鉄道延伸」を選択しました。
ここまで比較的すんなり決まったのですが、問題はルート。熊本空港は熊本―大分間のJR豊肥線沿線にあり、空港新線の分岐駅は熊本側から三里木、原水(いずれも菊陽町)、肥後大津(大津町)の3駅が考えられます。
三里木での乗り換えを見直し肥後大津からの直行ルートに

当初有力だったのが一番熊本寄りの三里木で、理由は沿線に熊本県民総合運動公園(熊本市東区)があるからです。サッカーJ2・ロアッソ熊本のホームスタジアムで、収容人員3万2000人。三里木と空港の間に中間駅を開設すれば、空港旅客にも観戦客にも対応できて一石二鳥。JR九州と熊本県は2019年2月、いったんは三里木からの分離ルートで合意しました。
しかし、三里木ルートには問題があります。豊肥線は熊本―肥後大津間(22.6キロ)が熊本都市圏。この区間は1999年の熊本国体(くまもと未来国体)を機に電化しており、肥後大津で運行系統が分かれます。豊肥線は全線が単線で、現状以上の列車増発は難しいのが実態です。仮に三里木で空港アクセス鉄道を分岐して、空港―三里木間を区間運転にすると、空港利用客は三里木での乗り換えが必要。また、熊本―三里木―空港間を直通運転にすると、三里木―肥後大津間の輸送力低下が懸念されます。
三里木ルートは同一ホーム対面乗り換えで考えられたのですが、スーツケースを持っての列車移動は同じホームとはいえ不便。
台湾の半導体メーカーが沿線進出
もう一つ、肥後大津ルートに追い風を吹かせたのが、経済ニュースで大きな話題になった、台湾の半導体大手・TSMCの熊本進出。2022年4月、菊陽町に着工された工場は2024年末の出荷開始を予定します。
約1700人の雇用を予定する工場へは、熊本空港経由の人事交流も盛んになるはずです。工場は原水駅北側。空港からの移動を考えれば、乗り換え不要な肥後大津ルートが有利になります。
熊本空港アクセス鉄道を走るのはどんな列車!?

合意に際して交わされた確認書では、空港アクセス線と豊肥線が直通運転をすることや、運営方式を「JRへの委託」または「上下分離でJRが運行」とすることが記されたようです。
熊本空港アクセス鉄道をめぐっては、熊本県からの発表がほぼすべてで、JR九州のスタンスについて正式な発表はありません。
本コラム執筆に当たりJR九州にお尋ねしたところ、「熊本空港アクセス鉄道は熊本県の事業で、現在は県での検討段階。県は今回の確認書を受け、ルートや事業費の詳細を精査した上で、当社との協議がスタートすると思われます」の回答をいただきました。
最初に紹介した「2034年度末開業」は、2022年12月県議会での蒲島郁夫知事の発言。
記事:上里夏生