チェルシーは石油王であるロマン・アブラモビッチ(ロシア人)が長くオーナーを務めていたが、ロシアのウクライナ侵攻による制裁を受けて2022年にクラブを譲渡。新たなオーナーとなったのは、LAドジャースの共同オーナーでもあるトッド・ボーリーの投資家グループとベハダ・エグバリ氏を中心としたクリアレイク・キャピタルのコンソーシアムである『BlueCo』だ。


 以降、エンソ・フェルナンデス、モイセス・カイセドなどビッグネームを積極的に補強してきた。結果=成績につながらないことで批判もあったが、昨季はUEFAカンファレンスリーグを制し、クラブW杯も制して世界一にもなった。今オフも大量に即戦力を補強し、より戦力を充実させている。選手の質と量、さらにはエンツォ・マレスカ監督の柔軟な戦術でチェルシーはプレミア&CL制覇を目指す。
 

J・ペドロにエステバン 強力補強で攻撃力アップ

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主将E・フェルナンデスと新加入のJ・ペドロ。新加入組がいかにフィットするかが序盤の鍵となる Photo/Getty Images

 昨季からチームを率いるエンツォ・マレスカ監督は可変システムを駆使したポジショナルスタイルを志向するなか、選手の能力を見極めて短期間でチームのなかに昇華してきた。就任1年目でプレミアリーグ4位となってCL出場権を獲得し、さらにはUECLとクラブW杯に優勝している。

 今季は2016-17以来となるプレミアリーグ制覇、2020-21以来となるCL制覇を視野に入れて戦うシーズンになるが、潤沢な資金をベースに例年どおり積極的な補強を行っている。一方で、手放した選手も多いので、まずはインアウトの整理が必要だろう。

 目立つ退団はおもに攻撃陣で、昨季10得点のニコラス・ジャクソン(→バイエルン)、7得点のノニ・マドゥエケ(→アーセナル)、どちらも3得点のクリストファー・エンクンク(→ミラン)、ジェイドン・サンチョ(→アストン・ヴィラ)などがチームを去った。

 いずれも「個」の力で突破できる選手たちで、単純に得点数だけをみても23点のマイナスである。4人を合わせたアシストも14あり、こうした数字をカバーできて、なおかつマレスカ監督のスタイルを遂行できる選手の補強が必要だった。加入した選手をみると、どうやら心配はいらない。

むしろ、よりスタイルにあった選手たちが補強されている。

 ジョアン・ペドロ(←ブライトン)はニューカッスルなどと争奪戦になっていたが、移籍金5500万ポンド+ボーナス500万ポンドの合計約110億円でチェルシーが獲得した。トップや2列目、左サイドのウィングでの起用が可能で、昨季はブライトンで10得点6アシストだった。得点にからむことができるマルチなストライカーで、チェルシーに加入してすぐに参加したクラブW杯でも3試合3得点という驚異的な数字を残している。

 右サイドからキレキレの突破をみせるエステバン・ウィリアン(←パルメイラス)はクラブW杯ではチェルシーからゴールを奪った18歳で、3400万ユーロ(約58億円)で獲得された。そのドリブルは一見の価値があり、巧みなボールコントロール、スピードですでにサポーターの心をつかんでいる。

 開幕のクリスタル・パレス戦に途中出場し相手を混乱に陥らせると、2節ウェストハム戦にはスタメン出場。34分に中央やや右寄りから縦に勢いよくドリブルで突き進み、アッという間にゴールライン付近まで侵入。ここから冷静に折り返し、エンソ・フェルナンデスのゴールにつなげている。エステバンのプレミアリーグ初アシストであり、前を向いてドリブルしたときの“怖さ”を示したシーンだった。

 身長186センチのリアム・デラップ(←イプスウィッチ)は昨季12得点2アシストと覚醒した22歳のストライカーで、前線でポストプレイができる昨季いなかったタイプの点取り屋。期待が大きく3節フラム戦まで連続出場していたが(開幕戦は途中出場)、そのフラム戦でハムストリングを痛めてしまった。
復帰まで約10週間とされていて、11月ころに練習再開、年内に復帰となりそうだ。

 序盤戦はデラップを欠くことになるが、攻撃陣にはアレハンドロ・ガルナチョ(←マンチェスター・ユナイテッド)、ファクンド・ブオナノッテ(←ブライトン)、ジェイミー・ギッテンス(←ドルトムント)なども獲得している。ガルナチョ、ギッテンスは両サイドでプレイできるし、ブオナノッテもトップ下や右サイドができる。既存の選手にこうした新戦力を加えれば、十分に戦っていけるだろう。

 守備陣では19歳のヨレル・ハト(←アヤックス)の獲得に成功している。足元の技術力が高いモダンサッカーに適した左利きのサイドバックで、センターバックもできる。4バック、3バックに対応できる順応性があり、ハトが加わったことで可変システムに幅が生まれるかもしれない。

戦力がより充実したことでさまざまな組み合わせが可能

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アヤックスから獲得した守備の新鋭ハト。フィットすればさらに戦術の幅は広がるだろう Photo/Getty Images

 各選手のスタートポジションは[4-3-2-1]で、これを基本としてマイボールのときにサイドバックがあがって[3-4-2-1][3-2-4-1]のようになるなど流動的にプレイする。守備のときは中盤の両サイドが低いポジションを取ることで[4-4-2]で受けるときも。マレスカ監督は短期間でこうしたスタイルをチェルシーに植え付けており、今季加入した選手たちもすでに違和感なくプレイしている。

 GKロベルト・サンチェス、DFマルク・ククレジャ、トレヴォ・チャロバー、トシン・アダラビオヨ、マロ・グスト、MFエンソ・フェルナンデス、モイセス・カイセド、コール・パルマー、FWペドロ・ネト、エステバン、ジョアン・ペドロ。わかりやすくこのメンバーで考えると、マイボールのときは両サイドのククレジャ、グストのどちらかが攻撃参加し、どちらかが最終ラインに入ることで3バックとなる(場合によっては両名とも上がり、2バックになることも)。



 今季は最終ラインにこうした流動性のあるスタイルに対応できるハトを獲得している。左サイドバック、もしくはセンターバックでハトが出場したときに、どんな変化が生まれるか。動きやポジショニングの質、足元の技術力の高さ、パスの精度。こうした部分でハトが“違い”をみせたなら、チームとしても昨季より進化したことになる。

 E・フェルナンデス、カイセドのダブルボランチは守備ではボール回収能力が高く、攻撃では推進力、展開力がある。お互いのポジショニングが確認するまでもなく頭に入っていて、任せる、勝負するという動きに迷いがない。とくにE・フェルナンデスは高いポジションを取ることが多く、昨季は6得点7アシストだ。攻撃参加することで空いた後方のスペースはおもにサイドバックのどちらかカバーすることになるが、こうした連係は昨季よりも今季のほうがスムーズにいくと考えられる。

 トップ下、セカンドストライカーのポジションはパルマーを軸に、J・ペドロ、ブオナノッテなどが務めるか。ブオナノッテはCLのリーグフェーズを戦う登録メンバーから外れているので、しばらくは国内のコンペティションでプレイすることになる。ケガで出遅れた2人、新加入のダリオ・エスーゴ(←ラス・パルマス)と期待値の高いロメオ・ラヴィアなどがボランチで台頭してくると、カイセドとエスーゴorラヴィアのダブルボランチにしてE・フェルナンデスをトップ下に起用する選択肢も出てくる。

 運動量が多く疲労が溜まりがちな両サイドウイングの人材は豊富だ。
エステバン、P・ネト、ガルナチョ、ギッテンス、ブオナノッテ、ラヒーム・スターリング(CLリーグフェーズの登録なし)がいる。さらには、パルマーやJ・ペドロもサイドでプレイできる。ミハイロ・ムドリク(ドーピング違反で出場停止中)の復帰は見込めないが、間違いなく選手は揃っている。

 トップのポジションはプレミアリーグ2節、3節ではデラップが務め、負傷交代した3節フラム戦ではタイリーク・ジョージが交代出場している。このポジションはJ・ペドロやP・ネト、19歳のマルク・ギウが候補になる。中盤も含めて、あとはマレスカ監督がどう組み合わせるかだ。

CL含む過密日程を控えてパルマーの状態が心配される

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充実のスカッドを手にしたマレスカ監督。いよいよ優勝を目指さなければならないシーズンに挑む Photo/Getty Images

 プレミアリーグは3節を消化し、チェルシーは2勝1分けのスタートとなった。開幕戦はコミュニティ・シールドを制した状態の良いクリスタル・パレスの堅守を崩せず、ホームで引き分けた。ただ、ボールポゼッションが71%対29%。シュート数19対11という完全にボールを支配していた一戦だった。

 2節ウェストハム戦は早い時間帯に難易度の高いミドルシュートを叩き込まれて先制されたが、追いつくのも早かった。

15分にCKからJ・ペドロがヘディングで決めて同点。23分にはハイプレスでボールを奪い、J・ペドロのクロスにP・ネトが合わせて逆転。34分には前述したエステバンの突破からゴール前に攻撃参加したE・フェルナンデスが決めて3-1とした。勢いに乗ったチェルシーの攻撃は止まらず、後半にはいずれもCKからカイセド、チャロバーが押し込んで2点を追加して5-1で大勝した。

 3節フラム戦は開始14分にデラップが負傷交代するトラブルがあったが、J・ペドロ、E・フェルナンデス(PK)の得点で2-0の勝利を収め、着実に勝ち点を積み上げている。おそらく、今季もプレミアリーグはリヴァプール、アーセナルといった得点力のあるチームが上位に来ると予想できる。勝ち点を取りこぼしていると、これらのチームと争うことはできない。

 昨季をみても、優勝したリヴァプールと2位アーセナルの負け数は同じだった。差が付いたのは勝ち数で、リヴァプール25勝に対して、アーセナルは20勝だった。引分けによる勝ち点1で満足することなく、あくまでも攻め抜いて勝ち点3を積み重ねることが大事。現に、チェルシーは開幕戦に引分けたぶんだけすでにリヴァプールの後塵を拝している。

 9月17日からはCLのリーグフェーズがスタートし、いきなりバイエルンとアウェイゲームが組まれている。
その後、中二日でアウェイのマンU戦となる。さらに、9月30日、10月4日にはホームでベンフィカ、リヴァプールと戦う。こうした過密日程のなか、マレスカ監督がどうチームをマネジメントしていくか。試合の重要度に差はないが、プレミアリーグ制覇を見越すとホームでのリヴァプール戦では勝ち点3がほしい。そうなると、直前のベンフィカ戦はこういうメンバーでいくなど、各試合の編成でチームとしての狙いや各選手の序列がみえてくるはずである。

 早くもデラップが離脱し、十字じん帯を断裂したレヴィ・コルウィルの復帰もまだまだ先になる。気になるのはパルマーで、鼠径部の捻挫で3節ウェストハム戦ではプレイしなかった。パルマーがいなくてもこの試合では5得点したが、いよいよはじまる過密日程、シーズン全体を見越して考えると短期間で復帰してほしい攻撃の主軸である。

 強者であればあるほど、多くの試合を戦わなければならない。数名の離脱者が出ても、今季のチェルシーはシーズンを戦い抜くだけの選手を質・量の両面で揃えている。マレスカ監督の戦術も浸透していて、ブレないベースのもと流動性あるサッカーをみせる。最高の結果=プレミアリーグ&CL制覇でシーズンを終えても不思議はない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD309号、9月15日配信の記事より転載

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