もうすぐクリスマス。小さな子どもを持つご家庭では、クリスマスプレゼントをねだられたり「サンタさんは本当にいるの?」という質問に答えたりしているでしょう。

子どもにサンタクロースの存在をどう伝えるかで悩んでいる人も多いかもしれません。



筆者は生まれた時から親に「サンタはいない」とキッパリ存在を否定されて育ちました。しかし、そういわれてきたことで結果的によかったと思うことがたくさんあります。今回は、幼少期から「サンタなんて絶対にいない」と親から言われ続けた筆者の経験についてご紹介します。



■「サンタは物理的に存在しえないし、クリスマスプレゼントは親が買うもの」



それは筆者が幼稚園の年中くらいの時。時期は忘れましたが、父と一緒にお風呂に入って幼稚園で読んだサンタクロースの絵本について話していたときのことです。



筆者が「サンタは煙突から入ってくるんだって。お父さん、知ってた?」と何気なく質問したところ、父は「サンタなんて、この世にいるわけがないんだよ」と即答します。「明日の天気は?」と聞かれたかのような、ものすごく自然に何の躊躇や悪気もなく答えたのです。



その後、父はトナカイに乗って空を飛び、サンタがたくさんの子ともたちにプレゼントを届けることがいかに物理的に不可能であるかを、そしてクリスマスプレゼントに子ども向け商品がたくさん売れるようにおもちゃメーカーや広告会社が仕掛けていることなどを、懇々と説明し始めました。



子どもにとっては難しすぎるサンタを取り巻く物理や経済について前のめりになって話す父の姿を見て、筆者は当時幼稚園児ながら「すごく大事な話をされている」と感じたことを覚えています。



最後に、「幼稚園では先生や友達から、本当はいないのに『サンタはいる』と言われるかもしれない。

そう信じている人には『それはウソだよ』と言わず、『そうなんだね』と返しておきなさい。そしてクリスマスプレゼントは、お父さんとお母さんが一生懸命働いて買うものなんだから。予算内でしっかり選びなさい」と念を押されました。



そして次の日のお風呂ではキリスト教について話し出した父。数日後、「サンタよりも、この人のことを勉強しなさい」とイエス・キリストの半生を描いた伝記漫画を買ってきてくれたのを覚えています。



■なぜ両親は、子どもに「サンタ」という夢を見させなかったか



小さな子どもがいると、クリスマスの夜にサンタの仮装をするお父さんもいますが、もちろん筆者宅ではそんなものはありません。

クリスマスの夜には、事前に一緒に選んで買ったクリスマスプレゼントを筆者たちきょうだいは両親から直接渡してもらっていました。



「サンタの存在」という夢は見させなくとも、プレゼントは買ってくれた筆者の両親。早くから子どもたちに親の働く姿やお金や物の大切さなどを教えたかったという理由もあるでしょう。しかし一番は、「世の中の現実」のようなものを、いかに早くから教えるかに注力していたのだと思います。



実際に、小学校3年生くらいになると学校の保健体育で教わるより先に、母から性について聞かされていました。子どもはどこから生まれてくるのか、人はどうやったら妊娠するのか、中絶するとはどういうことか。

筆者の生まれる前に流産経験が二度あることも、母から小学生の時にすでに聞かされていました。



そして、世の中で起きている妊娠や出産を取り巻く問題も話をされ、「男の子と恋愛すると、こんなことが起こる可能性があるんだよ」と小学生の時からしばしば注意を受けていました。



さらに、中学校で高校や大学の進路を考え始める頃になると、私立と公立の学費の違いや「うちにはいくら借金がある」といったリアルなお金の話をされるように。食卓ではニュース番組を見ながら、その時の政治や政治家の話、痛ましい事件、世界の宗教問題などについて家族みんなで話していました。



要するに、両親の教育方針において「サンタの存在を肯定する」「子どもにサンタの夢を見させてあげること」は、全く必要ではなかったのです。サンタの存在を信じる大切さよりも、一人の人間として自立する大切さを説くことに力を入れていたのだろうと、今になると思います。



■ファンタジーを見ない人格のおかげで結婚生活もうまくいっている?



また、仏壇屋を生業としている父は、常に歴史や哲学、宗教について関心を持っていました。そんな父はきっと、サンタの存在のようなファンタジーも含めて、人間を救済してきた宗教や培われてきた歴史、人間の業とは何かを、決して子ども扱いせず筆者に説明してくれていたのかもしれません。



「1年間、いい子にしていたらサンタさんがプレゼントをくれる」というクリスマスプレゼントの“お決まり”も、「プレゼントのためにいい子にするの? じゃあ、その“いい子”って誰にとってのどんないい子なの?」と、今となっては笑えるほど哲学的な問いかけをまだ幼い筆者にしてくることもありました。



幼少期にサンタのファンタジーを壊された筆者でしたが、確かに大人になると「あらゆる物事にファンタジーを見ない」という人格に成長したと思います。たとえば結婚についても、「理想の結婚生活」や「夫はこうあるべき」といった夢もないので、ある意味ではファンタジーを見ない人格に育ったおかげでうまくいっていると感じることもあります。



サンタの存在をどのように伝えるかは、その家庭によってさまざま。

しかし、筆者のようにそもそも「サンタなんていない」と親から言われてきたことで、結果としてよかったと感じる場合もあります。「子どもにサンタの正体をバラすことで、夢を壊してしまうのではないか」と不安になっている人に、筆者の経験が少しでも参考になれば幸いです。