年賀状は素晴らしい日本の風習のひとつですが、時には年賀状を出すメリットとコストを冷静に比較してみることも重要だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。



■年賀状を出す目的は挨拶、近況報告、連絡先交換、義理



正月に年賀状を受け取って、懐かしい人のことを思い出した読者も多いでしょう。

日本の風習として、正月を感じる、良いものだと思います。しかし、時には年賀状のメリットをコストと比較してみてはいかがでしょうか。年賀状をやめる、あるいは大幅に減らす、という選択肢も検討してみましょう。



本人の置かれた状況によって事情は大きく異なるでしょうから、本稿では、中高年のサラリーマンおよび元サラリーマンを念頭に、メリットとコストについて考えてみたいと思います。



筆者は2年前に、還暦を迎えたことを契機として年賀状を出すのをやめました。終活の第一歩、ということでもありますが、コストとパフォーマンスを比較して、やめることにしたのです。



筆者は若い時から、比較的多くの年賀状を出していました。友人や知人に挨拶をする、という本来の目的もありますが、若い時は人事異動や結婚など、近況報告を行なったり受け取ったりする事項も多かったからです。



「現役時代は忙しくて会えないけれど、定年になって暇になったら一緒に飲もう。それまでお互いに連絡先を交換し続けよう。住所等が変更になっても、毎年年賀状を出して入れば、行方不明にはならないだろうから」という意味もありました。



もちろん、義理もありました。

「年賀状をもらったから出した。そうしたら、翌年も来たから、また出した」という繰り返しです。これは、職場の上司と部下の関係に多いので、部署が変わるたびに増えていきます。「30年前の上司に毎年年賀状を出し、先方からも律儀に毎年お送りいただく」といった関係が増えていくわけです。



■義理を続けると相手にも迷惑



年賀状をやめるか否かの検討に際しては、当然ながらやめるメリットとデメリットを比較するわけですが、その際に結構重要だったのが「相手にも迷惑になっているのではないか」ということです。



30年前の上司の中にも、私に年賀状を出したいと考えている方がいらっしゃるかもしれませんが、多くは「もらったから返事を書いている」という方でしょう。

そうした方々に手間と金を毎年「強要」しているのは申し訳ありません。



もちろん、利他的な理由だけではなく、当方も義理で出している年賀状が多いので、それをやめたい、という利己的な理由も大きいわけですが、多くの場合は当方と先方の利害が一致しているはずです。



■出さないデメリットが減りつつある



年賀状を出す理由として、連絡先の交換と近況報告を挙げましたが、この二つは年齢を重ねるごとに重要度が落ちていきます。筆者も年賀状相手の多くも、転勤も結婚もしなければ、転居もしないので、連絡先は変わりません。近況報告も、多くの場合は「あいかわらず元気にしています」だけです。



したがって、還暦前にやりとりしていた年賀状を保存しておけば、特に問題は生じません。



次に変わるのは老人ホームに入る時でしょうから、その時に古い年賀状を見ながら挨拶状の宛名書きをすれば良いのです。



SNS等のインターネットも、連絡先の交換の必要性を減らしてくれます。古い友人に連絡したくなったら、インターネットでフルネームを入れて検索すると何らかの情報が得られる場合も多いでしょうし、SNSで「高校時代の同級生A君の連絡先を知りたい」と記入すると、結構な確率でA君にたどり着けると思います。



■挨拶は、昔の年賀状を見ながら心の中で



還暦前に受け取った年賀状は、毎年正月に眺めることにしています。「年賀状を出すのをやめていなければ、これと概ね同じ物が今年も来ていたはずだ」と思えば良いのですから(笑)。



年賀状をくれた人には、一人ずつ心の中で新年の挨拶をするのです。

それが相手にも伝わることを祈りながら。



■定年後、「たまには会おう」の年賀状はメリット大



上記は、筆者の場合です。筆者は、銀行を退職して大学に転職し、還暦を迎えても現役で、銀行時代と異なる人間関係を築いています。したがって、孤独に悩むことも、やることが見当たらずに時間を持て余すこともありません。むしろ、忙しく働いていて年賀状を書く時間を惜しみたいほどです。



しかし、サラリーマンを定年退職して、仕事をせずに時間を持て余している人も多いようです。

そうした人にとっては、年賀状を書くメリットは大きいでしょう。「することがある」だけで人生の張りになりますから。



昔のことを思い出しながら年賀状を書き、「たまには会おう」とでも書いておけば、外出して昔懐かしい知人と会う機会に恵まれるかもしれません。相手も時間を持て余している場合も多いでしょうから。



筆者自身に関しても、大学を定年で去った後は、時間を持て余すようになるかもしれません。その時には、古い年賀状で住所を確認し、懐かしい友人たちに「たまには会おう」という「暑中見舞い」を出すことにしましょう。年賀状やめました宣言をしてしまったので、今更撤回するわけにも行きませんから(笑)。



本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。



<<筆者のこれまでの記事はこちらから( http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9 )>>