アメリカで今最もブラックな機関は大学かもしれません。学費を吊り上げ学生をローン地獄へ。
パートタイムの講師達は使い捨て。英ガーディアン紙のウェブUS版によると、ある調査でアメリカの大学に務めるパートタイム講師の約1/4は何かしらの公的援助を受けていることがわかったといいます。同紙は数人のパートタイム講師にインタビューを行ったところ、家賃が払えず、車の中で生活する人や、中には売春をする女性講師までいたといいます(※1)。
多くの大学が一部の管理職だけが潤うビジネス重視となり、学問という本来の目的が薄れつつあるようです。
■教授職が減る一方で増える高給の管理職
サンフランシスコ市立大学で政治学を教えるパートタイム講師のリック・バウム氏は「New Politics」という政治関連のオピニオンサイトに、大学に搾取されるパートタイム講師の現状について記事を掲載しました。
バウム氏は大学はパートタイム講師を安く都合よく利用することで授業の経費を減らし、管理職の給料を上げたり、人数を増やしているのだといいます。
州立大学側はパートタイム講師の低賃金や学費高騰の理由について、「州の補助が少なくなっているので仕方ない」というのが定番の言い訳のようです。
しかし補助が少なくなったと言いながら、アドミニストレーターと言われる行政管理職、つまり学長・学部長などの給料は年々高くなり、何をしているのか分からない、高給の管理職のポジションがやたらに増えているのは理解できません。
ニューヨーク・タイムズによれば、米教育省の調べでは、1993年から2009年の間に管理職のポジションが60%も増えているとのこと。またカリフォルニアポリテクニック大学のポモナ教授の統計分析では、カリフォルニアの州立大学システムでは1975年~2008年の間にフルタイム教員は1万1,614人から1万2,019人にしか増えていないのに対して、管理職は3,800人から1万2,183人と221%増加していることが明らかになっていると、同紙は指摘します(※3) 。
■学長の年収は億単位
基本的にアメリカの大学の教員の雇用形態は大きく分けて3カテゴリーに分かれています。
テニュアド/テニュアトラック(フルタイム―終身雇用):テニュアドになるには、まず、テニュアトラックというポジションで採用されなくてはなりません。かなり倍率が高いポジションです。
その後、論文出版や学会出席、また指導評価などの厳しい審査を5~6年後に受け、合格すればテニュアド教授として何歳までも働けます。
ノン・テニュア(フルタイム―契約更新型雇用):保険や年金システムなど福利厚生はつくものの、一般的に年収はテニュアよりも低く、数年毎の契約更新型なので雇用の保証はありません。
パートタイム講師:1コース単位で学期ごとの契約。
しかし、少数の有名私立大学では約$8,000というところもありますが、コミュニティーカレッジでは$1,600というところもあるようで、中央値はもう少し低いでしょう。
法的なパートタイムの時間制限があるため、1学期に1つの大学と契約できるコース数は多くて4コース(12単位)が限度ではないでしょうか。そのため、複数の大学を掛け持ちする人も多いです。その低収入の中から、多くの人達は学生ローンの返済もしなければなりません。
因みに、つい最近1,400人以上の大学上級管理職の年収が公表(※5)されました。
私立大学(2017年)
1位:ブライアント大学 ロナルド・マックル学長 $6,283,616(約7億円)
公立大学(2018年)
1位:テキサス州立大学システム ウィリアム・マクレイヴン総長 $2,578,609(約2.8億円)
基本給料の他にボーナスやベネフィットを含んだ合計額になります。
「管理職の年収を少しカットすれば、学費も少し下げられるのではないか」という声も多くあがっています。
■教えるコトが好き―誇りを持っている
「パートタイム講師は苦境にいながらなぜ辞めないのか」という問いに、『彼らは教えるコトに情熱をもっている』といいます。パートタイム講師をしながら、フルタイムポジションを探しているうちに歳をとってしまい、転職するにもつぶしがきかなくなってしまったのかもしれません。
前述の売春をしているという女性パートタイム講師は「次世代を担うミレニアル達が批判的思考者になれるよう支援することに熱意を感じている」といいます(※1)。
バウム氏は、テニュアドになった教授の中には手を抜く人もいるし、管理職側に転身する人もいるといいます。上手く立ち回って行けば教授職よりも高給な上級管理職のコースに乗れるということです。バウム氏は「そのような教授らに、(教えることに情熱をもつ)パートタイム講師の(コース)単価よりも高く支払うのは不当だ」と主張します。
同じレベルの学位を持ちながら違いが出てしまうのはなぜなのでしょうか。運が無かった、実力が足りなかった、タイミングが悪かった、世渡りが上手くなかった…。
大学は夢を売るように学生たちに次の学位をとるよう刺激します。
夢や理想を持つことは大切なことです。しかし、いくらその仕事に情熱をもっていても、まともな生活が出来ないのであれば、手遅れにならないうちにどこかで見切りをつけるという勇気も必要なのかもしれません。
【参考】
(※1)“Facing poverty, academics turn to sex work and sleeping in cars( https://www.theguardian.com/us-news/2017/sep/28/adjunct-professors-homeless-sex-work-academia-poverty?CMP=share_btn_tw%E2%80%AC )”The Guardian
(※2)“The Exploitation of Part-Time Teachers in Higher Education( https://newpol.org/the-exploitation-of-part-time-teachers-in-higher-education/#_edn2 )”New Politics
(※3)“The Real Reason College Tuition Costs So Much( https://www.nytimes.com/2015/04/05/opinion/sunday/the-real-reason-college-tuition-costs-so-much.html )”The New York Times
(※4)“2018-19 Faculty Compensation Survey Results( https://www.aaup.org/2018-19-faculty-compensation-survey-results )”AMERICAN ASSOCIATION OF UNIVERSITY PROFESSORS
(※5)“Executive Compensation at Public and Private Colleges( https://www.chronicle.com/interactives/executive-compensation#id=table_private_2017 )”THE CHRONICLE