50代は、収入が増える一方で支出もかさみやすい年代です。30代で子どもを持った人は教育費がピークに達する時期でもあり、住宅ローンの返済が残っている人も少なくないでしょう。

定年が間近に迫ってくる一方で、「仕事が忙しくて老後資金なんて考えられない」と思う人もいるかもしれません。しかし、定年になってからでは打てる手が限られてしまいます。



ここでは、50代の貯蓄や年金、退職金などの老後資金について詳しくご紹介します。



■50代の平均給与はどのくらい?



はじめに、年齢階層別の平均給与をチェックします。下記のグラフは国税庁の資料(※1)( https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/000.pdf )をもとに作成したものです。



50代で確認しておきたい「お金のこと」~退職金と年金はいくらもらえるのか~

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年齢階層別男女別の平均給与(国税庁の資料をもとにLIMO編集部作成)



民間企業に勤める多くの男性にとって、50代は人生でもっとも稼げる時期といえます。

一方、女性の平均給与は25歳から59歳までほぼ横ばいです。性別によらず、稼げるうちにできることをしておく必要があるのかもしれません。



■老後の生活費



つぎに、老後生活費の目安をチェックしましょう。公益財団法人生命保険文化センターが2019年に公開した調査結果(※2)( https://www.jili.or.jp/research/report/pdf/r1hosho.pdf )によると、老後の生活に必要なお金は下記の通りです。



  • 夫婦2人の世帯で老後必要になる最低日常生活費・・・月額22万1,000円
  • 夫婦2人の世帯でゆとりある老後を送るための生活費・・・月額36万1,000円

夫婦で老後を暮らすためには、最低でも毎月22万円程度のお金が必要です。



■公的年金はいくらもらえるのか



年金の支給額は今後の経済成長率によって変わります。

厚生労働省によると現在50代のモデル世帯が65歳になったときにもらえる年金月額は、20万~24万円ほど(経済成長率(実質<対物価>)0.0~0.9%の場合)になると予想されています(※3)( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html )。



モデル世帯とは、「夫が平均的な賃金で40年間就業し、妻が40年間専業主婦」という世帯のことです。老後に必要な生活費が22万円程度で推移していくと、年金のみで生活する世帯のなかには毎月赤字が発生するケースも出てくるでしょう。



■いわゆる「老後2,000万円問題」とは



2019年に話題を集めた金融審議会の「老後2,000万円問題」とは、平均的な無職の高齢世帯で毎月約5万円の赤字が出ていることから、「20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の老後資金が必要になる」とするものです(※4)( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )。



老後をどのように過ごすのかによっても必要な資金の額は変わってきますが、老後の生活に不安を持つ人は少なくありません。前出の生命保険文化センターの調査では、老後の生活について「不安感あり」と回答した人の割合が84.4%に達します。



■50代の貯蓄と負債はどのくらい?



ここで、50代の貯蓄と負債の状況を確認します。



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世帯主の年齢階級別貯蓄・負債現在高(総務省の資料をもとにLIMO編集部作成)



総務省統計局の資料(※5)( https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2019_gai4.pdf )によると、2019年の2人以上世帯の貯蓄現在高は平均1,755万円、負債現在高は570万円でした。50代に注目すると、貯蓄現在高が負債現在高を大きく上回っています。貯蓄現在高から負債現在高を引いた差額は約1,000万円です。



50代で負債を抱えている世帯の割合は全体の55.3%で、負債現在高652万円のうち578万円は「土地・住宅のための負債」です。50代で住宅ローンを完済していない人も少なくないとみられます。



収入が大きく減る定年退職後にローンの返済を続けていくのは容易ではないため、定年までにローンを完済することが望ましいでしょう。一方、「退職金でローンを一括返済しよう」と考えている人もいるのではないでしょうか。ここからは、退職金についてみていきます。



■退職金はいくらもらえるのか



厚生労働省の資料(※6)( https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html )によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は 80.5%で、約2割の企業には退職金制度がありません(2018年時点)。



退職金の支給額は減少傾向にあり、とくに大学・大学院卒の人で減少幅が大きくなっています。実績や能力を考慮して退職支給額を算出する企業も増えていますが、一般的にベースになるのは勤続年数です。



厚生労働省の資料をもとに勤続年数別形態別の平均退職給付額(合計額)のグラフを作成しました。



50代で確認しておきたい「お金のこと」~退職金と年金はいくらもらえるのか~

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勤続年数別形態別 退職給付額(厚労省の資料をもとに編集部作成)



大学・大学院卒で勤続年数35年以上の人には平均2,000万円を超える退職金が支給されています。一方、高校卒で勤続年数が35年未満の人は1,000万円に届きません。退職金でローンを一括返済すると、老後のための資金がなくなってしまう可能性も出てきます。



■50代の定年は何歳か



定年が65歳未満となっている企業には、高年齢者雇用安定法によって2025年までに下記のいずれかの項目を達成することが義務づけられています。



  • 定年の引き上げ
  • 定年の定めの廃止
  • 継続雇用制度の導入(65歳までの雇用を確保する)

2021年には改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業支援が企業の努力目標となりました。

現在の50歳が定年を迎える頃には、70歳まで就労できる道がひらけているかもしれません。



■50代から考える老後資金のポイントまとめ



50歳になったら、まずは①勤めている企業の定年制度をチェックしましょう。「定年は何歳なのか」や「再雇用制度や継続雇用制度があるかどうか」を確認します。②退職金制度の有無と退職金の概算額を知ることも重要です。③将来もらえる年金額は”ねんきん定期便”で確認しましょう。



つぎに④自分の貯蓄と負債の金額を把握します。⑤負債がある場合は完済予定日も明確にしましょう。定年を迎えた自分の人生を把握した結果、老後資金が足りないと思った場合は「不足分を埋めるために何ができるか」を考える必要が出てきます。



50代は安定的に高収入が得られる最後のチャンスかもしれません。定年後に「もっと計画的に貯金や投資をしておけばよかった」と後悔することのないよう、老後に備えるための具体的な検討を今すぐ始めましょう。



参考

(※1)「平成30年分民間給与実態統計調査」( https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/000.pdf )国税庁
(※2)「令和元年度 生活保障に関する調査(速報版)」( https://www.jili.or.jp/research/report/pdf/r1hosho.pdf )公益財団法人生命保険文化センター
(※3)「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)2019(令和元)年財政検証の資料」( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html )厚生労働省
(※4)「高齢社会における資産形成・管理」( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )金融審議会
(※5)「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2019年(令和元年)平均結果-(二人以上の世帯)」( https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2019_gai4.pdf )総務省統計局
(※6)「平成30年就労条件総合調査 結果の概況(退職給付(一時金・年金)制度」( https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html )厚生労働省
「高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~」( https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html )厚生労働省



【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。