日本の常識は、世界の非常識ということの1つに「人前で叱る」というものがあります。
実際、日本では人前で叱るケースがよくあります。
日本は「安全に怒ることができる国」なのかもしれません。しかし、アメリカ、東南アジアなどの海外でコレをやると文字通り命取りになるのです。アメリカではビジネスキャリアが終わりますし、フィリピンなどでは恨みを買って現地の人に殺害される事件も起きています。
「人前で叱る」という日本独自のガラパゴス文化は、グローバルの拡大とともにそろそろ終焉を迎えるべきだと感じます。
■アメリカ社会で「人前で怒ること」の意味
日本のオフィスでは「バカヤロウ!こんなこともわからないのか!?」と周囲の目があるのに怒鳴ることは、それほど大問題になることは少ないでしょう。もっとひどいケースでは、怒りを戦略的に活用する場合もあるのです。
取引先に上司と部下が謝罪に赴き、「お前のせいで大事な取引先に迷惑をかけた!」と部下に激怒してみせ、取引先は「まあまあ。その辺で…」と慌てて取り繕うことで、相手から許しを請うという会社もあるようです。
筆者は米国系の複数の外資系企業勤務経験があります。その経験で感じたのは、アメリカ人は相手の評価をする時には極めて慎重になる文化を持っているということです。米国社会では、周囲の目があるのに叱りつけるということは許されません。人前で怒る人は感情をコントロールできない、未熟なチャイルディッシュな人物であり、信頼に足らないという烙印が押されます。
筆者がかつて勤務していた米国の外資系企業でも、周囲にイライラしながら教えていた人物がいました。それを目ざとく見つけた彼の上司が個室に呼びつけ、部屋から出てきた時には彼はすっかり牙を抜かれていたのを覚えています。日本では許されることも、アメリカ社会ではまごうことなき「パワハラ」という認識になるのです。
アメリカ社会で相手を叱る時は、必ず1対1の個室です。それが相手の尊厳を守るためには常識なのです。
■東南アジアで人前で叱ると命を落とす
米国ではビジネスの信用を落としてしまうのですが、東南アジア諸国では文字通りの意味で命を落とす事になりかねません。
- フィリピン…担任教師が、他の生徒がいる前である生徒を叱った。その後、恥をかかせたことに怒った生徒が教師を殺害
- タイ…日本人ビジネスマンが相手のミスを人前で指摘し、逆恨みを受けた
- インドネシア…従業員を会社で叱ったら、他の従業員から総スカンを食らった
フィリピン大使館の「フィリピンにおける安全対策」( https://www.ph.emb-japan.go.jp/files/100020574.pdf )では、公衆の面前で罵倒してはいけないということへの注意喚起がなされており、過去にこれが元でトラブルが発生したことが分かります。
フィリピンにおいては,相手が誰であっても,公衆の面前で罵倒し,恥をかかせるといった行為はタブーとされています。たとえ自分の家族に対する暴力的な言動であっても,周囲からいやがられます。(従業員を他の従業員の面前で叱責したために暴行・脅迫を受けた例や,自分の配偶者や子を叱っていて他人から訴えられ,警察に逮捕された例もあります。)
(引用元:在フィリピン日本国大使館「フィリピンにおける安全対策」)
日本人、韓国人が自国と同じ姿勢で、現地の人を公衆の面前で叱責したことで恨みを買って事件に発展したことは何度も起こっています。「年功序列」という儒教文化は他国では非常識とされる国もあるのです。
■日本でも叱ることにメリットはない
そもそも、日本は世界屈指の安全な国であり、さらに儒教文化によって自分の身を危険に晒すことなく叱ることができます。しかし、考えてみれば人前でその人を叱ることにメリットは一切ありません。米国や東南アジアほどでなくても、人前で怒る姿は本人の評価を下げるだけです。
また、叱られた側にもメリットはないと考えます。「もう叱られたくない。恥をかきたくない」とリスクを恐れて、ビジネスで積極的に挑戦できずに萎縮してしまうだけでしょう。筆者も会社員時代は至らない点も多く、あちこちで叱られてしまったものです。
日本もグローバル化の波に乗って、コロナ禍の前は訪日外国人が年間3,000万人を超える規模でした。COVID-19が落ち着けば、また多くの外国人がやってくるでしょう。今後はますます多くの外国人がオフィスで働く社会になるかもしれません。その時には今の「人前で叱る文化」をアップデートしておかなければならないと感じます。
参考
「【タイ】邦人殺害で、再考する注意したいタイ人の気質」( http://www.globalnewsasia.com/article.php?id=2649&&country=2&&p=2 )GLOBAL NEWS ASIA
「フィリピンにおける安全対策(安全の手引き)」( https://www.ph.emb-japan.go.jp/files/100020574.pdf )在フィリピン日本国大使館