日本人投資家には日本国債を買うインセンティブがあるので、日本政府の資金繰りは破綻しない、と筆者(塚崎公義)は考えています。
新型コロナ不況への対応として、政府は巨額の財政支出を行なっています。
■破産するか否かは資金繰りの問題
債務超過の会社が破産するとは限りません。たとえば銀行が融資を引き上げずに資金繰りが回っていれば、破産することはないからです。
債務超過の会社に対して銀行が融資を引き上げない、というのは稀なことではありますが、皆無ではありません。銀行にはそうするインセンティブもあり得るからです。そのあたりについては拙稿『銀行が「再建困難な借り手も支援すべき」なのは、銀行の得になるから( https://limo.media/articles/-/17507 )』をご参照いただければ幸いです。
そして、日本政府の場合には、まさに銀行等の日本人投資家が日本国債を買い続けているので、日本政府は巨額の赤字を続けていても資金繰りが破綻していないのです。
この状態は今後も続くのでしょうか。筆者は続くと考えています。それは、日本人投資家には日本国債を買うインセンティブがあるからです。
■日本国債は為替リスクのない資産の中で最も安全
投資家が日本国債を買う理由として、「いつでも日銀が買ってくれるのだから、安心だ」と考えている人がいるとしたら、それは違います。
日本国債は、円建て資産の中では最も安全なのです。大切なことは、メガバンクに預金しても札束を持っていても、日本国債より安全だということはない、ということです。
したがって、投資家が日本国債を持ちたくないと考えた時には、為替リスクを覚悟して外貨資産を持つしかないのです。
■為替リスクよりは日本国債の方が安心
日本政府は巨額の借金を抱えているから、いつかは破産するかもしれない、と考えている投資家は多いようですが、それでも彼らが日本国債を買うのは、為替リスクが怖いからです。
米国債等を買えば、為替リスクを負うことになります。それとの比較で考えれば日本国債の方がリスクが小さい、というわけですね。
将来のことはわかりませんが、日本政府が明日までに破産する可能性は非常に小さいでしょう。それなら、「とりあえず1日だけ日本国債で運用して、明日以降のことは明日考えよう。今日は日本国債を買おう。それを売るか否かは明日考えよう」という行動は合理的です。
明日までに日本政府が破産する可能性が非常に小さい一方で、明日までにドル安円高になって為替差損を被るリスクは決して小さくないからです。
多くの日本人投資家が同じように考えて、とりあえず明日までは日本国債で運用するとします。日本政府が明日までに資金繰り破綻する可能性は一層小さくなります。
そうなると、外国人投資家でさえも、日本国債を買うかもしれません。まあ、彼らにとっては日本国債は倒産リスクと為替リスクが両方あるので、好んで買う投資家は多くないでしょうが。
■銀行にとって、ハイパーインフレはリスクではない
少し突拍子もないことですが、開き直って考えてみましょう。銀行にとっては、資産と負債が両方とも円建てであるならば、何が起きても困らないのです。
日本政府が破産して紙幣が紙くずになったとしても、実はそれは銀行にとってはリスクではないのです。紙幣をそのまま預金者に渡せば良いからです。
政府が日銀に紙幣を印刷させて国債を償還し、その結果としてハイパーインフレになったとしても、実はそれは銀行にとってはリスクではないのです。紙幣をそのまま預金者に渡せば良いからです。
上で、日銀に国債を買い取ってもらっても、受け取った日銀券は紙くずだ、と記しました。
■経常収支の赤字が続くと問題かも
経常収支が赤字であること自体は、別に日本が損しているというわけではないので、特に問題にする必要はありません。
しかし、経常収支の赤字が続いて、日本全体として外国から借金をしなければいけなくなると、問題が生じます。
外国人投資家には、日本国債を買うインセンティブが小さいからです。財政赤字が巨額で将来は破産するかもしれない国の国債を、為替リスクがあるのに買う外国人投資家は少ないでしょう。そうなると、日本政府は資金繰りに行き詰まる可能性も出てきますね。
もっとも、日本は経常収支が巨額の黒字で、将来にわたって外国からの借金を必要とする状態にはなりそうもありませんので、この点の心配は無用でしょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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