毎年9月16日は「競馬の日」です。
これは、1954年(昭和29年)に日本中央競馬会(JRA)が農林省(現在の農林水産省)の監督の下で発足したことに由来します。
競馬に関しては、勝馬投票券(馬券)を購入する人、馬券は購入しないけど好きな人、興味がない人、嫌悪感を持つ人など様々かと思いますが、「競馬の日」にあたって、競馬を中心に公営ギャンブルの現状を見てみましょう。
■公営競技の売上一覧~地方競馬の伸びが顕著
中央競馬は公営競技(「公営ギャンブル」と称されます)の中で最大規模を誇ります。具体的に2019年度(2019年4月~2020年3月)の売上実績を見てみましょう。カッコ内は対前期比です。
- 中央競馬:2兆8,818億円(+3.1%増)
- 競艇:1兆5,342億円(+11.7%増)
- 地方競馬7,010億円(+16.2%増)
- 競輪6,605億円(+0.9%増)
- オートレース739億円(+4.9%増)
なお、各競技の監督官庁は、競馬(中央競馬、地方競馬)が農林水産省、競艇が国土交通省、競輪・オートレースが経済産業省です。ちなみに、公営競技ではありませんが、宝くじは総務省、スポーツくじ(toto)は文部科学省、パチンコは警察庁の監督下にあります。
各競技の売上を見ると、五輪の正式種目になっている競輪よりも競艇の方が断然に大きいことや、解散したSMAPの元メンバーが活躍しているオートレースの規模が非常に小さいことなど、いくつか意外に感じることがあります。その中で、中央競馬が圧倒的な規模を誇っていることが改めて分かります。
そして、近年の大きな特徴の1つは、こうした公営ギャンブルの売上が増加基調であることです。競馬(中央、地方とも)は8年連続、競艇は7年連続、競輪は6年連続、オートレースは4年連続で前年を上回りました。
ザックリ言えば、アベノミクス始動後に増加基調が鮮明になったわけですが、政府(農水省など監督官公庁)が特段のテコ入れを実施した事実は確認できません。
■中央競馬でも売上はピークの7割水準
一方で、公営ギャンブルの売上は増加しつつあるものの、未だピーク時には遠く及ばないのが実情です。
多くの公営ギャンブルが1990~1997年にピークの売上を記録しましたが、近年の売上回復が著しい競艇と地方競馬がいずれもピーク時の約6割程度、競輪は約3分の1、オートレースに至っては約2割程度(つまり▲8割減)まで減少しています。
何年も連続で増加しているにもかかわらず、このような状況にあるということは、ピーク時の売上がいかに高水準だったかを示しています。
売上の大幅減退という意味では、中央競馬も例外ではありませんが、他に比べれば健闘しています。中央競馬の売上のピークは1997年の約4兆円でしたから、2019年度実績はピーク時の約70%水準になります。
大幅減少に変わりはありませんが、ピーク時の7割水準を維持していること自体、競馬に対する底堅い人気を垣間見ることが出来るでしょう。なお、中央競馬の売上高は、勝馬投票券による収入を用いているため、財務諸表上の売上高とは若干の差異があります。
また、公営競技である競馬は、原則として、1)勝馬投票券による収入(=ほぼ売上高に近い)の10%、2)最終利益の50%を国庫納付金として納入し、国の一般財源(国家予算)に繰り入れられています。
JRAによる国庫納付金は、1997年の4,663億円をピークに減少へ転じ、2006年以降は3,000億円未満が続いていました。
しかし、2017年からは3年連続で3,000億円を上回っており(2019年は3,205億円を計上)、一般財源収入の観点からも重要視されています(注:前掲の公営競技の売上高は年度、JRAの決算は12月決算)。
今年のコロナ禍にあって、無観客開催とはいえ、レース開催を強行した背景の一つがここにあります。
■ついに競輪を抜いた地方競馬
さて、最大規模を誇る中央競馬ですが、直近は地方競馬の勢いに押されがちです。というよりも、地方競馬の人気上昇が顕著と言うべきかもしれません。
実際、2019年度の地方競馬の売上高はついに競輪を抜くまで拡大しましたが、4年前の2015年度は競輪の方が約1,850億円も多かったのです(競輪:6,159億円、地方競馬:4,310億円)。改めて、地方競馬の売上増加ペースには目を見張るものがあります。
地方競馬の躍進の理由として、1)インターネット販売の推進、2)払戻し率の高いレースの開催、3)様々なイベントレースの開催などが挙げられます。
このうち最大の効果は、1)のネット販売の推進と考えられます。実は、やや意外かもしれませんが、中央競馬や競輪などは未だに現金販売の比率が相応にあります(中央競馬は約3割が現金販売という見方もあります)。
やはり、あれだけ大きな施設(競馬場や競輪場)を有している以上、「観客動員=売上」という概念が根強く残っているようです。
一方、人口減少の著しい地域で開催される地方競馬は、もともと集客が少なかったため、早くからインターネット販売を推進してきました。それが結果的に奏功したと言えましょう。
さらに、一連のコロナ禍で多くの公営競技が無観客開催を強いられて売上減少が続く中、多くの地方競馬は好調を維持している模様です。
■公営ギャンブルでもコロナ禍への対応が課題
また、在宅時間が増えたことで、公営ギャンブルに対する関心が高まりつつあるとも考えられます。
足元の状況を見る限り、一連のコロナ禍が完全収束するには相当な時間が必要でしょう。競馬場に1日で10万人以上の観客が集うことは、しばらく不可能かもしれません。ちなみに、オグリキャップのラストランとなった有馬記念(1990年)の入場人員が約17万8千人、直近では2019年の日本ダービーが同19万7千人でした。
コロナ禍による新しい生活様式への変革は、中央競馬を始めとする各公営競技でも対応が必要不可欠です。「競馬の日」に当たって、中央競馬・地方競馬の今後の対応に注目したいと思います。