■高額療養費制度の対象や注意点を紹介



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「高額療養費制度」は1ヵ月の医療費が高額になった時に、所得によって決められている自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度です。この制度によって、病気やケガで多額の医療費がかかっても、家計が破綻するような事態にならずに済みます。



ただし、この自己負担限度額は所得に応じて設定されているため、年収の少しの違いで限度額が大きく変わってしまうことがあるのです。



今回は70歳未満の高額療養費制度を確認しながら、年収700万円と年収800万円の場合にスポットを当てて詳しく見ていきましょう。



■「高額療養費制度」の基本



まずは「高額療養費制度」とはどんな制度なのか、概要をおさらいしておきましょう。



高額療養費制度とは、1ヵ月の医療費が年齢や所得に応じて決められている自己負担限度額を超えた場合に、請求することによって、超えた分が高額療養費として払い戻される制度です。



【高額療養費制度の落とし穴】年収800万円では「自己負担限度額」が年収700万円の約2倍に。その結果を試算

出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」



■高額療養費制度のポイント1



原則として、同一月、同一の傷病で医療機関にかかり、自己負担限度額を超えた場合に対象となります(入院と外来は別々に計算)。



■高額療養費制度のポイント2



入院時の食事代や差額ベッド代、先進医療の技術代など、健康保険扱いにならないものは高額療養費の対象とはならず、全額自己負担となります。



■高額療養費制度のポイント3



同一世帯(被保険者と被扶養者)で、2万1000円以上(70歳未満の場合)の自己負担額が複数ある時は、それらを合算することができ、合算額が一定額を超えた場合は高額療養費の対象となります(世帯合算)。



■高額療養費制度のポイント4



1年間に同一世帯で3ヵ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4ヵ月目からは自己負担限度額が下がります(多数回該当)。



■<高額療養費の自己負担限度額(70歳未満)>



【高額療養費制度の落とし穴】年収800万円では「自己負担限度額」が年収700万円の約2倍に。その結果を試算

出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」をもとに筆者作成



たとえば、年収500万円の会社員Aさん(50歳)の医療費が100万円かかったとすると、区分はウになるので、自己負担限度額は「8万100円+(100万円-26万7000円)×1%」となり、計算すると8万7430円となります。



Aさんの医療費の負担割合は3割なので、窓口での支払いは30万円となり、ここから自己負担限度額の8万7430円を引いた額である21万2570円が高額療養費として払い戻されます。



■年収700万円と年収800万円の自己負担限度額の違いを計算



総務省「民間給与実態統計調査(令和2年)」の勤続年数による平均給与を見ると、男性の勤続年数25年~29年の平均給与は725万円、30年~34年の平均給与は743万円となっており、年収700万円~800万円の層は特別に高給取りというわけではないでしょう。



しかし、前述の自己負担限度額の表を見ると、このあたりの年収を境に自己負担限度額が大きく変わっています。



年収700万円と年収800万円で自己負担限度額がどのくらい違うのかを見てみましょう。



年収以外の条件を同じにして自己負担限度額を計算してみます。



条件:会社員(50歳)、医療費100万円



  • <年収700万円> 区分ウ:8万100円+(100万円-26万7000円)×1%=8万7430円
  • <年収800万円> 区分イ:16万7400円+(100万円-55万8000円)×1%=17万1820円

年収800万円では、自己負担限度額が年収700万円の倍以上になっています。



標準報酬月額でみると、51万円の人と52万円の人で自己負担限度額が倍以上変わってしまうのです。



これが区分アの年収約1160万円以上であれば、貯蓄ができる分、自己負担額が上がっても仕方がない面がありますが、区分イに該当してしまう年収700万円後半から800万円前半あたりの層には厳しい制度設計と言えるのではないでしょうか。



■高額療養費のもう一つの注意点



高額療養費制度は「ポイント1」でもお伝えしたとおり、同一月、同一の傷病で医療機関にかかった場合の医療費が対象となります。そのため、月をまたいで入院した場合は注意が必要です。



たとえば、年収500万円(区分ウ)の人が、20日間入院して保険適用の自己負担額が15万円だった場合。



同月に20日間入院していれば、限度額の8万2430円を超えた部分が高額療養費として支給されるのに対して、月をまたいで入院し「前月10日間で7万5000円、今月10日間で7万5000円」だった場合、限度額を超えていないので高額療養費の支給はありません。



このように、月をまたいでしまう場合は、医療機関に会計をまとめてもらうことができるか相談してみるといいでしょう。



■まとめにかえて



日本では高額療養費制度があることによって、一般的な治療を受けている限り、「ひと月の医療費で200万円が飛んだ」といった事態はほとんどありません。そのため、民間の医療保険に入る必然性はそれほど高くないでしょう。



しかし、所得によっては自己負担限度額の積み重ねが家計を圧迫する事態が想定できます。



今回取り上げた年収800万円前後の層は、社会保険料や税金などが引かれて、実際の手取りは600万円程度になってしまう場合もあり、家計に余裕があるとは言い難い所得層です。



所得に応じて区分する場合、その境界線に近い所得の人はほんの少しの違いで明暗が分かれます。



これは仕方のないことですが、高額療養費の自己負担限度額の場合、段階の幅が大きいためかなりの差になってしまっています。



「健康に留意して医療費がかからないようにする、民間の医療保険に入る、貯蓄に励む」などの対策が考えられますが、個々の努力だけでは解決できない部分もあります。



賃金の引き上げや子育て世帯への支援など、今後の政策に期待したいと思います。



■参考資料



  • 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」( https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf )
  • 総務省「民間給与実態統計調査(令和2年)」( https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2020/pdf/002.pdf )
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