国税庁の「令和2年(2020年)分民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は約433万円です。
こう聞くと、「年収600万円」は平均ラインより少し裕福なラインだと推察できます。
ちなみに、同資料で平均年収が最も高かったのは「電気・ガス・熱供給・水道業」の715万円、次いで「金融業」や「保険業」が630万円として挙げられています。

出典:国税庁「令和2年(2020年)分民間給与実態統計調査―調査結果報告―」
あわせて、年収600万円は、このように平均ラインよりも上の年収帯であることがわかります。しかし、ここを「プチ裕福世帯」と捉えるのは少し危険かもしれません。
■「年収600万円世帯」の平均貯蓄額はいくらなのか
ここからは、総務省発表の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果(二人以上の世帯)」から、年収600万円台の世帯の平均貯蓄額とその内訳をみていきます。
■年収600万円~650万円の勤労世帯
平均貯蓄額:1119万円
- 通貨性預貯金:421万円
- 定期性預貯金:299万円
- 生命保険:245万円
- 有価証券:124万円
- 金融機関外:30万円
■年収650万円~700万円の世帯
平均貯蓄額:1128万円
- 通貨性預貯金:455万円
- 定期性預貯金:310万円
- 生命保険:224万円
- 有価証券:112万円
- 金融機関外:28万円
こうみると、年収600万円の世帯は預貯金を中心に1000万円以上の貯蓄をしていることがわかります。
同調査では「世帯主の配偶者のうち女性の有業率が5~6割程度」という結果も示されています。「半数以上の世帯が共働きである年収600万円世帯」では、貯蓄の平均額が1000万円を超えると言えるでしょう。
■貯蓄1000万円でも安心できない?
「年収600万円の平均貯蓄は1000万円」というデータだけを見れば、ある程度はゆとりのある生活を送れそうなイメージを持つかもしれません。
たしかに数字だけ見ると余裕がありそうにも感じられます。しかし、その背景にある「家庭の状況」をのぞいてみると、そうとも言い切れない様子がうかがえるのです。
先ほどの総務省の家計調査報告によると、世帯主の平均年齢は、年収600万円~650万円の世帯で平均48.4歳、650万円~700万円の世帯で平均50.1歳となっています。
また、世帯の中に18歳未満の人が1名程度いることも分かっています。
仮に標準どおりの世帯である場合、18歳未満の子どもが大学進学を控えている状況も多いことでしょう。
大学費用は「私立か国公立か」、「自宅通学か下宿」などに大きく左右されるものの、時に数百万円の費用が発生する場合も珍しくありません。
毎月の収入から捻出するのはとてもむずかしいため、貯蓄を切り崩すことになるでしょう。こうなると、「1000万円の貯蓄があれば安心」とはいえない状況がわかります。
■貯蓄1000万円では「老後の生活」も安心できない
貯蓄1000万円では足りないのは、「老後の生活」を考えても明らかです。「老後には年金収入以外に2000万円が必要」という「老後2000万円問題」が記憶に新しい方もいるでしょう。
しかし最近では、2000万円でも足りないという声があります。原因はいくつかありますが、決して現役世代がシニアよりも浪費している(生活費が多い)わけではありません。
物価上昇や「住宅を購入できない=家賃を支払い続ける」などにより、老後の必要生活費はあがる一方なのです。
たとえ現時点で貯蓄が1000万円あったとしても、それ以上に貯めなければなりません。子どもの大学進学費用で貯蓄を削ることを考えると、さらにお金が必要になるでしょう。
先ほどのデータでは、1000万円ある貯蓄のうち半分以上が預貯金でした。しかし、現在の銀行預金では高い金利が期待できません。
今の60代や70代が資産を築いたように、「銀行に預けるだけでお金を増やす」ことは難しいのです。
その代わり、今の時代には無理のない範囲で取り組める少額投資なども出てきました。現役世代にとっては、こうした金融商品を駆使することも一つといえるでしょう。
投資と聞くと「博打」のイメージを持つ方もいますが、「リスクの高い投資先に一括で資産を注ぎ込む」ということはする必要がありません。
あくまでも分散をイメージすることで、大事に育てていくことは可能です。
とは言え、元本保証がないことはデメリットといえます。流行っているから安心と捉えるのではなく、自分にとって許容できるリスクや投資先をしっかり考えることが大切です。
■年収や貯蓄額にまどわされず、我が家にあった貯蓄計画を
「年収600万円だからプチ裕福」「貯蓄が1000万円もあれば十分」と捉えるのは、楽観的だといえます。
ライフステージの中には「お金がかかる時期」というのが確実に存在します。時には年収を上回る支出が立て込む年もあるでしょう。
こうした時にあわてないためにも、ライフプランやキャッシュフローを意識した貯蓄計画が大切です。
「あの時は貯蓄の黄金期だったのに…」と後悔しないためにも、今のうちから自分に合った貯蓄スタイルを確立しておきましょう。
貯蓄においては現代に合った方法、そして自分が許容できるリスクの中で取り組むことが重要です。それぞれの貯蓄手段について、まずは情報収集から始めてみましょう。
■【ご参考】貯蓄とは
総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。
■参考資料
- 国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」(令和3年9月)( https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2020/pdf/000.pdf )
- 総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯)」(2022年5月10日)( https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html )
- 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )