■~ここからわかる、外国語学習の本質~



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「帰国子女」というと、ネイティブさながらに英語を流暢に話すイメージがあります。子どもは物事を覚えるのが早くてうらやましい限りですが、同じくらいのスピードで忘れるのも早いものです。



英語圏で幼少期を過ごし日本へ戻ってきた帰国子女でも、そのスキルは数週間~数ヶ月で低下します。大人になって海外赴任で英語を習得した人も、帰国してからの英語力の衰えに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。



なぜ英語を忘れてしまうのでしょうか。本記事ではカナダのイマージョン教育の例を参考に、英語力をキープする方法を解説します。



■イマージョン教育の成果はどうだったのか?



カナダで40年ほど前から広まりだした「フレンチ・イマージョン」という教育法をご存知でしょうか。「イマージョン」とは「immerse(浸す)」から派生した言葉です。



カナダの公用語は英語とフランス語ですが、英語しか話せない国民も多いことが問題となっていました。



そこで英語を話す子どもに、家庭では英語を使って生活する一方で、幼稚園から高校までの授業をすべてフランス語で行い、いわゆる「フランス語漬け」の取り組みが始まりました。この教育法が「フレンチ・イマージョン」です。



「たった数週間」で英語スキルは低下する!帰国子女はナゼ覚えた言語を忘れてしまうのか?

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着目すべきはこの効果です。フレンチ・イマージョンを卒業しても、バイリンガルになった子どもは半分程度だったとのこと。



さらに、バイリンガルになった子どもでも、大人になる頃にはフランス語を忘れてしまった人が多いという話もあります。



「幼稚園から高校までフランス語漬け」という徹底したフランス語教育もってしても、結局大半の子どもが、大人になってフランス語を忘れてしまっていたのです。



■ナゼ覚えた言語を忘れてしまうのか?



言語は「必ず忘れるもの」です。これは母国語であろうとなかろうと関係ありません。



ある単語Aを何度も見たり聞いたりすると、回数を重ねるごとに、脳内の情報にアクセスするエネルギーが少なくなっていきます。単語Aの利用方法が次第に「経済的」になっていくわけです。



逆に、長い間単語Aを見聞きせずに過ごしていると、単語Aを思い出すためにはたくさんのエネルギーが必要になります。つまり、単語Aを「思い出しにくく」なるのです。



そのため、実際に話そうとしても、適切な単語が「出てこない」という状況になります。英語力の中でも、特に英会話力が衰えやすいのはこのためです。



ちなみに、海外育ちの日本語ネイティブの子どもが英語を忘れやすいのは、子どもが英語に関する「長期記憶」をあまり持っていないからだと考えられています。



■このことからわかる!英語学習に必要な要素とは?



■英語の知識を「長期記憶化」する



記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。短期記憶は、電話番号を覚えてメモする時などに一時的に脳に蓄えられる記憶です。



せっかく覚えた単語を翌日に忘れたりするのは、その単語が「短期記憶」にとどまり、長期記憶へ保存されていないからです。一方「長期記憶」は「自分の名前」や「仕事上必要な知識」など、簡単に忘れることのない記憶です。



長期記憶は、短期記憶をリハーサル(頭の中で何度も繰り返すこと)することで定着するといわれています。英単語を覚えるために「繰り返し学習する」のは理にかなった勉強法なのです。



■エピソード記憶を活用する



長期記憶には、「意味記憶」と「エピソード記憶」があります。単純に単語の意味を暗記して、単語の「知識」をインプットするのは、「意味記憶」を利用しているといえます。



それに対して「エピソード記憶」は、「時間や場所・感情などの情報を伴った個人的な経験や体験」、つまり「個人的な思い出」です。



私が印象に残っている単語に、「dairy(乳製品)」という英単語があります。イギリスのホストマザーからは「diary(日記)」のiとaを逆にした単語だと説明されたのですが、全くピンときませんでした。



「たった数週間」で英語スキルは低下する!帰国子女はナゼ覚えた言語を忘れてしまうのか?

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私の感覚としては「daily(毎日の)」のlとrを入れ替えた単語だと説明された方がよっぽどわかりやすいのに…と思った記憶があります。結果として、この単語は10年以上たった今でも私の記憶に焼き付いています。



「思い出」といえるほど印象的なエピソードがなくても、その単語を覚えた時の出来事や、実際に使った時の記憶を手掛かりにすると、英語の知識は長く残りやすくなります。



ただし、長期記憶やエピソード記憶を駆使しても、英語の知識を半永久的に覚えていられるわけではないのが、英語学習を困難なものにしているといえるでしょう。



■英語の勉強は「一生モノ」



英語を「一度覚えたら二度と忘れないようにする」ようにする学習法は、おそらく存在しません。



英語学習とダイエットは似ているものがあります。健康的な体形を維持するためには、食事に気を付けたり、適度に身体を動かしたりする習慣は一生必要なものです。



英語力をキープするためにも、一生を見据えたトレーニングが必要です。



英語のトレーニングといっても、洋画を英語字幕や字幕なしで見たり、海外の友人とコミュニケーションをとったりすれば充分です。



「常に最低限の英語に触れている」生活を心がけると、英語力をキープすることができるでしょう。



また、本格的に英語が必要になった時は、文法や語いのおさらいをしたり、英会話スクール・英語コーチングスクールを受講したりと、集中的なトレーニングをするとより効果的です。



■まとめにかえて



このような話をすると、小さいお子さんをもつ保護者の方々は、幼児英語教育に不安を持つかもしれません。



幼児英語教育は全くのムダなのかというと、そういうわけではありません。



日本人の英語学習において大きなネックとなっているのが、「上手に話せないから外国人と話したくない」「完璧な英文を作るまで話せない」といった「精神的な障壁(メンタル・ブロック)」です。



小さなころに英語に触れて、「外国人は怖いものではない」と実感することや、英語に対して「楽しいもの」という印象を持つことは、将来の英語学習において有効です。



ただ、将来の英語力に直接影響があるとは考えにくいので、嫌がる子どもに英語学習を無理強いするのは逆効果です。目的をはっきりさせた状態なら、幼児英語教育を検討するのもよいかと思います。



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