■公的な教育への支出が少ない残念な日本



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文部科学省は7月28日、小学6年生と中学3年生を対象とした「2022年度全国学力・学習状況調査」の結果を公表しました。



結果によると、学級閉鎖や臨時休校など新型コロナウイルス感染症の影響は見られなかったとされています。



また文部科学省が2021年6月に小学6年生と中学3年生を対象に実施した「経年変化分析調査」でも、全体的に学力の低下は見られないと発表されました。



休校がダイレクトに子ども達の学力に影響を与えていないことが明らかになる一方で、このデータをそのまま受け取ることも難しい面があります。



「経済力がある家庭の子は通塾や習い事ができる」「家計が苦しいと子どもの教育費に投資することがままならない」。このように、学力と家庭の経済格差の関係は無視できないという考えが浸透しています。



日本では「学校以外の教育にどれだけお金をかけられるか」で学力や進路が決まってしまう傾向が強くなっているからです。



■公的な教育への支出が少ない日本



日本は公教育への支出が低いと指摘されていますが、2021年9月に発表されたOECD(経済協力開発機構)のデータ「教育に対する投資」によると、2018年の初等教育から高等教育の公教育費の支出はOECD加盟国38国の中でも下位25%に位置しています。



子どもの学力は貧困の影響が大きい?親ガチャより国ガチャになりつつある理由

出典:OECD「教育に対する投資」



OECD加盟国の平均値が4.9%、日本は4.0%です。2017年の報告書では日本の支出の割合が2.9%だったことを踏まえると増加しましたが、やはり平均値を上回る結果とはなりませんでした。



しかしながら、公教育への支出が少ないという指摘に対し、財務省は財政制度分科会で配布した資料にて「日本の子供の割合もOECD諸国の中で低い」と指摘し、支出割合に対する適正さを示しています。



基礎学力は公教育が担い、プラスアルファ的な学力を身につけるには家庭任せという考えが浸透しています。



成績アップを狙うにはお金を出して塾や通信教材のような教育産業を利用するのが常識とされ、これが経済力と学力差が結びつく大きな要因となっているのです。



■本当に親ガチャ?公立小学校・中学校の中でも教育格差が拡大



義務教育期間中である小中学校の公立学校でも、親の所得による差や雇用形態が機会格差、そして学力格差に繋がっています。



以前、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち 」が大きな話題となりましたが、学びの基本でもある教科書を正確に読めない子は存在します。



既習済みの漢字は教科書ではルビ無しで記されるため、漢字が苦手な子はスラスラ読むことが難しいです。日本の公教育では集団授業が基本であり、理解不足の単元や科目は各家庭が家で補うことになります。



平日、夕方から夜にかけて子どもの勉強を見ることが出来る家庭では、親が子どもの理解度をチェックすることができます。しかし、親が子どもの教育に関心があるかどうかでも変わってきます。



平日も夜遅くまで仕事せざるを得ない家庭では、そうした余裕はありません。土日休日も仕事に出る場合は、子どもの勉強を確認することすら難しい状況です。



家庭の問題は家庭で解決するという風潮が強い日本でも、子どもの貧困問題は「親ガチャ」で済まされないほど深刻になっています。



そうした中、内閣府は2022年3月に「令和3年度 貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データ連携・活用に向けた調査研究 報告書」を公表。



内閣府の調査報告では社会に取り残されている子ども達、家庭の存在を浮き彫りにしただけでなく「どうすれば子ども達が置かれている状況を改善できるか」を問うきっかけになっています。



■問題を抱えた子どものサポート体制構築が急務



報告書では学力や健康診断で問題点の多い児童生徒を把握し、自治体と協力して家庭支援を実施する取り組みが紹介されています。



とくに子どもの貧困問題はネグレクトや虐待のような社会問題と直結し、子どもだけでなく親子を対象としたサポート体制の構築が急務になっています。



現在はごくわずかの自治体が学校と連携して子供の成長の見守りに取り組んでいますが、やはり全国に広がりを見せるには国の支援が欠かせません。



単に公教育の支出を増やすのではなく、子どもの状況を確認しやすい学校の教職員や学校での健康診断のデータを活用するシステムに投資すれば、問題が深刻化するのを未然に防ぐこともできます。



子どもの学力や健康状態は「親ガチャ」というより、弱い立場をそのまま放置してきた現行の公システムにも問題があります。



教育格差が拡大する中で、「子どもが健全に成長するかどうか」という基本的な部分までを家庭任せで語るのは無理があります。



問題を抱えている家庭の子ども達の受け皿として注目を集めているフードバンクや子ども食堂も、NPOがメインで動いていることが多いです。



子どもの貧困は教育機会の喪失や学力不振に繋がり、大人になっても不安定な職業にしか就けないなどの長期的な問題も懸念されます。



コロナ禍を契機に、経済状況が苦しい家庭も増加しています。議論を繰り返すのではなく、早急なサポート体制を構築することが必要です。



■親ガチャと自己責任論で済ませない



望むような進学ができないことや習い事が出来なかったことを「親ガチャ」で済ませることが流行りました。



経済力があった方が何事も有利に働くことは間違いないでしょう。



しかし公教育でも取り残されることがある困窮家庭の子ども達は、やはり「親ガチャで外れた子達」と一言で片づけるのは酷なのではないでしょうか。



■参考資料



  • 文部科学省「令和3年度全国学力・学習状況調査経年変化分析調査実施結果」( https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20220325-mxt_chousa02-000021553_3.pdf )
  • OECD「教育に対する投資」( https://www.oecd-ilibrary.org/sites/12d19441-ja/index.html?itemId=/content/component/12d19441-ja#section-d1e487 )
  • 財務省「文教・科学技術(令和3年4月21日開催資料」」( https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20210421/02.pdf )
  • 内閣府「令和3年度 貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データ連携・活用に向けた調査研究 報告書」( https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/r03_data/pdf/print.pdf )
  • 2022年度全国学力・学習状況調査の結果
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