過去3カ月の推移と今回の予想値
5月 6月 7月 8月
(予想) 非農業部門雇用者 7.2万人 ↓ 19.3万人 ↑ 16.4万人 ↓ 15.9万人 ↓ 失業率 3.6% → 3.7% ↑ 3.7% → 3.7% → 平均時給(前月比) +0.3% ↑ +0.3% → +0.3% → +0.3% → 平均時給(前年比) +3.1% ↓ +3.1% → +3.2% ↑ +3.1% ↓ 注:矢印の方向は、前月結果からの変化を表す
米雇用統計が強い? そんなの関係ない!
いつまた大炎上しても不思議ではない米中関税対決が続く状況で、今回の米雇用統計の結果で、マーケットの雰囲気がガラリと変わることはありません。
いくら雇用統計が良いからといって、トランプ米大統領の怒りを買ってまで、FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を据え置くこともないでしょう。
今回の雇用統計は、そういう事情を頭に入れて、見ていく必要があります。
前回(7月)雇用統計のレビュー
7月の雇用統計は、全体として良好な内容でした。
非農業部門雇用者数は、16.4万人の増加。前々回に比べて鈍化したとはいえ、製造業部門の雇用が米中貿易摩擦の長引く中でもしっかり(+0.5万人の予想に対して+1.6万人)増加していたことは、注目に値します。
7月の失業率は3.6%の予想に対して3.7%。失業率の上昇は労働参加率が上がったことが大きな理由と言われています。米雇用市場にまだ拡大余地が残されているという意味で悲観することではありません。いずれにしても失業率は過去最低水準にあるわけで、心配は無用です。
7月の平均労働賃金は、前月比+0.3%、前年比+3.2%でした。わずかながら予想を上回り、さらに前月比については6月分が上方修正。賃金上昇はインフレ期待にとっても良いことですが、最近のFRB(米連邦準備制度理事会)はこのデータをそれほど重要視していないため、反応はわずかでした。

今回(8月)雇用統計の予想
9月6日に発表される8月の雇用統計は、非農業部門雇用者数の予想が+15.9万人の予想。7月よりさらに伸び悩むことになりそうです。平均労働賃金予測は、前月比+0.3%、前年比+3.1%、失業率予測は3.7%で横ばいです。
いずれにしても、今回の8月雇用統計の結果とは関係なく、FRBは必要と判断すれば、9月利下げはするでしょう。

米雇用市場はこれからも拡大していくのか
前回記事の「雇用統計詳細レポート」 にも書きましたが、雇用市場の実態をより正確に把握するには、速報値だけではなく、過去月の修正分を見る必要があります。
非農業部門雇用者数が、ここ数カ月連続して下方修正されている事実は、雇用市場が勢いを失いつつある兆候です。
さらに気になる報告もあります。
米国工場では、雇用はここ数カ月増加傾向で表向き順調なのですが、実は工場労働者の就労時間は短縮されているようです。人手は確保しておくが、生産が増加しているわけではなく、むしろ部門全体では減少しているのです。これも、貿易摩擦の影響といえます。
労働時間がカットになって賃金を減らされた労働者は、外食したりレジャーにお金を使うことを控えます。製造業の不振が、サービス業の不振につながるという悪循環が発生しつつあります。
雇用統計の速報値では見えない部分で、雇用市場の衰えが進んでいるとすれば、利下げを急ぐFRBはやはり正しいということになるでしょう。

(荒地 潤)