オリンピックとはなんだ?
2021年7月23日(金)日本時間20時、1年の延期を経て、第32回夏季オリンピック東京大会が開幕しました。当大会について、さまざまな議論が繰り広げられていることは、筆者も承知しています。
本レポートでは、そもそもオリンピック(以下、五輪)とは何か?という点を、データを用いて考察し、その考察から得られたアイディアが、金(ゴールド)市場を分析する際に、どのように役立てることができるか?について述べます。
開会式を自宅のテレビで見ていた時ふと、「オリンピックって何なんだろう?」という疑問が、筆者の頭に浮かんできました。その直後、「原点(原典)にあたれ」という筆者が大事にする言葉に従って、IOC((International Olympic Committee)のウェブサイトを開きました。
世の中にあるさまざまな定義や思想は、時代とともに変化することから、できるだけ、事実のみがつづられた資料や、データ(数値)を探すことに努めました。こうした資料やデータを見ていく中で、あまり報じられることがない、さまざまな面白い事実にぶつかりました。まずは、夏季五輪と東京の関係を確認します。
実は東京は3度、夏季五輪の開催国になっていた。
近代五輪と言われる大会の第1回は1896年にアテネ(ギリシャ)で開催されました。今回の東京大会は32回目で、1回目から今回までの間に、3度、いずれも戦争に関わる事情で中止となった大会がありました。
夏季五輪と東京の関係は以下のとおりです。IOCが東京を開催地と決定したのは、今回が3度目でした。1度目となった第13回大会は、同時に立候補したローマが、東京が立候補したことを知ったムッソリーニの意向で、立候補を取りやめ、ベルリンで開催された総会で、東京で開催することが決まったと、IOCの資料に書かれています。
図:夏季五輪と東京
五輪を開催したくば、日清戦争を収束させるよう、IOCが日本に最後通告したものの、収束は果たされず、IOCはヘルシンキに開催権を付与したと、書かれています。
次に夏季五輪に東京が名乗りを上げたのは、1960年の第17回のローマ大会でした。しかし、東京は候補地の最終選考に残ることはできませんでした。そして翌大会である第18回大会に、再び名乗りを上げ、1959年にミュンヘンで行われたIOC総会で、デトロイト、ウィーン、ブリュッセルを退け、開催地となりました。
そして今回、東京はイスタンブールとマドリードを退け、2013年に第32回大会の開催地となりました。
IOCの資料からは、同じ候補地が何度も立候補したり(東京のように)、同時に国内の複数の都市が立候補したり(1948年の第14回大会で、ボルチモア、ロサンゼルス、ミネアポリス、フィラデルフィアの5つの米国の都市が立候補。実際はロンドンで行われた)、近年、立候補する都市の数が少なくなっていることなどが、わかります。
特に1945年の第二次世界大戦終了後、各国は、国威発揚の他、高い技術を知らしめたり、多数のメディアを呼び込んで自国をアピールしたりするなど、さまざまな目的で立候補してきました。1964年の第13回東京大会では、米国のメディアがはじめてスローモーションで映像を撮影したり、赤道上に制止させる衛星を使って大会の模様を中継したりした、とされています。
この衛星が、東京大会で使用したあと、当時戦時下にあったベトナムとの通信に用いられたとNASA(アメリカ航空宇宙局)の資料に書かれていることから、五輪は技術をお披露目する場であり、同時に、それを実験する場でもあると言えそうです。
次は、選手数、参加国・地域数、競技・種目数、開催日数のデータに注目します。
データで夏季五輪を解剖する。見えてきたのは「多様性」を紡いできたこと。
以下は、夏季五輪における、選手数、参加国・地域数、競技・種目数、開催日数のデータです。近年、選手の数は全体として増加傾向(男性減少・女性大幅増加)、参加国・地域数は頭打ち、競技・種目数は増加、開催日数は横ばい、であることが分かります。
図:夏季五輪における各種データ
女性の選手数が大きく増加していることからは、夏季五輪において、社会が求める女性の社会進出・活躍が、実現しつつあることが伺えます。後に述べますが、今回の東京大会の女性選手の比率は過去最高となる、48.8%です。(参考までに、2018年の平昌冬季五輪の女性選手の比率はおよそ42%とみられます)
参加国・地域数については、上図のとおり、政治的な理由でボイコット(自分たちの考えを強く主張するため、意図的に大会にでないこと)が起きた場合、一時的に減少することがあります。
1976年の第21回モントリオール大会では、アフリカの20カ国以上が、人種隔離政策を執る南アフリカと大会参加国の一つであるニュージーランドが交流があることを理由にボイコットしました。
1980年22回モスクワ大会では、前年の旧ソ連(ソビエト連邦)のアフガニスタン侵攻を理由に、米国や米国と関りが深い国、旧ソ連と反対の姿勢を取る国、合わせて65カ国がボイコットしました。
大会への参加は、NOC(National Olympic Committee国・地域ごとのオリンピック委員会 JOCなど)に加盟していることが求められますが、IOCが承認するNOCの数は206で、今回の東京大会には206のNOCの選手が参加する予定です。
外務省の資料によれば、世界の国の数は196です(2021年3月12日時点)。これらから、IOCは現時点で、ほぼ全ての国にあるNOC、そしてそれ以外のおよそ10の地域に属する選手の大会への参加を認めているわけです。今後、国や地域が細分化されない限り、これ以上、参加国・地域が大幅に増加することはないと、考えられます。
競技数・種目数は、この数回の大会で増加しています。今回の東京大会では、5競技、合計34種目が追加されました。競技は、野球・ソフトボールが復活し、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンが新たに追加されました。
種目では、アーチェリーや陸上、トライアスロン、卓球、水泳などの競技に男女混合の種目が、ボクシング、カヌー、自転車競技などに女子選手のみの競技が追加されました。混合や女子選手のみの種目が増えていることと、女性選手数の増加は密接な関係がありそうです。
また、IOCは、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ競技である「eスポーツ(esports)」に注目していると、報じられており、今後の大会(2024年の第33回パリ大会、2028年の第34回ロサンゼルス大会、2032年の第35回ブリスベン大会など)で正式競技になる可能性もあり、今後も、競技数・種目数が増加する可能性があります。
開催日数については、第二次世界大戦後の第13回ロンドン大会後、おおむね2週間で行われており、大きな変化がありません。参加者が増え、競技・種目数が増えても、日数はほぼ変わらず、です。この点は今後の課題なのかもしれません。
次より、金(ゴールド)に関りが深いデータに触れます。
東京2020の金メダルは、1個94,000円だった!?
以下は、今大会で授与されている、金メダルの重さと物質的価値(筆者推定)です。
図:東京2020の金メダル1個あたりの物質的価値(筆者推定)
オリンピック憲章には、1位の選手に授与するメダルは、「少なくとも6グラムの金をメッキが施された、銀製のメダル」、と書かれています。今大会の金メダルも、それに則って作られています。
IOCの資料によれば、純金製のメダルが送られたのは、第3回セントルイス大会、第4回ロンドン大会、第5回ストックホルム大会です。後述する「夏季五輪の金メダルのサイズ」のとおり、まだサイズ(直径)が小さかったころです。ちなみに、第1回アテネ大会では1位に銀製のメダルが送られました。
仮に、1グラムあたりの買取価格(税込)を、金を6,990円、銀を95.0円とした場合、今回の大会の金メダル1個あたり、金が41,940円分、銀が52,250円分含まれていることとなり、合わせれば94,190円となります。
また、データから、今回の大会のメダルのサイズは、過去最大級であることが、わかります。
図:夏季五輪の金メダルのサイズ
今大会の金メダルの直径は85ミリメートル(8.5センチメートル)です。この大きさは、第30回ロンドン大会、第31回リオデジャネイロ大会と同様です。先述の純金のメダルが授与された大会の直径は、3.3センチメートルから3.9センチメートルでした。
サイズの大型化が進行している中で、同時進行している要素があります。デザインの多様化です。第9回アムステルダム大会から第27回シドニー大会まで、メダルの表面は、左手で勝利を意味するヤシの葉を抱え、右手で王冠を握りしめている女神が描かれていました。
第28回アテネ大会からは、パナシナイコスタジアム(ギリシャのアテネにある、近代オリンピックが初めて開かれた競技場)に立つ、翼のはえた勝利の女神ニケとなりました。
大型化により、2008年の第29回北京大会では、はじめてヒスイ(翡翠)が裏面に埋め込まれました。ヒスイには繁栄や幸福、叡智・調和などの意味があり、中国では宝石として扱われているようです。
また、今回の大会では、裏面がメダルのデザインコンペティションで寄せられたデザインだったことから、メダルのデザインについては、表面はIOCが決め、裏面は開催国が決めるルールであると、考えられます。メダルで独自性を出せる点は、開催国としては、メリットと言えるかもしれません。
今度は、女性選手の比率と金価格の推移を重ねて見てみます。
社会の変化が、五輪選手の女性比率と金価格の動向を変化させた。
図:五輪選手に占める女性比率と金価格先述の「夏季五輪における各種データ」で示したとおり、五輪では女性選手の人数が増加しています。この点を上図で女性比率として表現しました。また、同時に、金価格の推移を記しました。
1970年ごろから、女性選手の比率と金価格が、勢いを伴って上昇しはじめたことがわかります。2つが相関関係にある(2つが関わり合っている)わけではありませんが、同じ理由で、2つが上昇しはじめたと、考えられます。
その要因とは、社会の変化です。女性選手の比率の上昇は、多様性を重視するムードが強くなったことで起き、金価格の上昇は、世界の経済発展が進み、莫大な資金供給を可能にするため、金(ゴールド)を裏付けとする通貨制度を廃止したことによって起きたと、考えられます。
多様性を重視した社会を実現すること、そして、経済発展を続けることを実現することは、われわれ人類の望みと言えるでしょう。特に多様性を重視した社会を実現することについては、国によって濃淡はあるものの、近年特に、議論が深まりつつあるように、感じます。
ここまで述べた、五輪の各種資料やデータから、1970年ごろ以降、女性選手の数が目に見えて増え、そして比率が上昇していること、それに伴い、男女混合や女子選手のみの競技や種目が増えて競技数・種目数が増えていることが、わかりました。メダルの裏面のデザインを、開催国が選べるようにもなりました。
その意味では、五輪は、多様性を重視した社会を実現したいという人類の望みを、一定程度、体現していると言えそうです。政治的な色合いが濃くなったり、扱う資金の額が巨額になりすぎたり、パンデミックなど強い外的要因にさらされ、機動的に方針を決められなかったり、さまざまな課題はあるものの、各種データからは、五輪がここまで紡いできた成果の一部を確認できたような気がします。
ではこのような五輪のデータから得られた考察は、金価格の今後を考えるために、どのように活かすことができるのでしょうか。
五輪や金メダルは、自分自身の中で「多様性」を紡ぐことの重要性を教えてくれている。
各種データから、五輪は一定程度、「多様性」を紡いできたと考えられる、と述べました。「多様性」を紡ぐことを、自分自身の中で行うことが、金価格の動向を考える上で役立つと、筆者は考えています。以前の本欄で、何度も述べた「材料を点で見ないこと」につながります。
以前の 「虫になるな!鳥になれ!不安増・株高時、金とプラチナの「二刀流」は有効か?」 の、「質問「なぜ金価格が下がっているのか?」の深層心理。「上がるべき」という謎の自信」で述べたように、「有事と言えば金高」、「株安と言えば金高」などと、材料を点で見ては、現代の金相場を正しく分析することはできません。
自分自身の中で多様性を紡ぐことは、以下の金市場に関わる6つのテーマを俯瞰する、換言すれば、「同時に尊重する」ことが非常に重要です。この点が、一定程度「多様性」を紡ぐことを体現してきた五輪や金メダルの姿から得られた、金相場の今を説明し、今後を読むために役立つ考え方です。本レポートが、皆さまに役立つことを願っています。
図:足元の金市場の変動要因(イメージ)
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。
純金積立
金(プラチナ、銀もあり)
国内ETF/ETN
1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF
GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド
外国株
ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物
金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム
海外商品先物
金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)
商品CFD(金・銀)
(吉田 哲)