※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。
「 [動画で解説]三菱商事 レポートにいただいた視聴者の質問に回答 好決算でも売られた理由 」
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11月8日(月)、 「三菱商事が最高益更新・増配発表でも売られた理由。どうなる日経平均?」 というレポートを掲載、さらにトウシルYouTubeにそのレポートを 私が解説する動画 をアップしました。
レポートおよび動画にたくさんのコメントをいただきありがとうございました。今日は、そこでいただいたご質問・ご意見に対し、私の見解をお伝えします。
一部の方にしかレスポンスできなくてすみません。コメントを入れていただいているすべての方に感謝しています。今後ともたくさんのコメントをいただけますよう、お願いいたします。
コメント1:市場が間違えている?
それでは最初のご質問を紹介します。
【いただいたご質問】
市場が間違っている、正常じゃない、という考え方は、一定の忍耐が求められますね。市場が追いついてくれればいいんですが……(笑)
市場が自分の投資判断にどうしても追いつかない場合は、損切りの判断をされますか?またその判断、タイミングはどのように決めますか?
私は三菱商事を買い推奨していて、今回の決算を見て確信を強めたと書いています。
さらに動画の中で、私が「アメリカの電気自動車大手テスラがPER(株価収益率)200倍を超えていても熱狂的に買われ、一方、三菱商事はPER7倍でも売られる。行き過ぎでないか」と述べています。
私はこれは行き過ぎで、一部にESGバブルが発生していると考えています。
ただし、ファンドマネージャー時代、私は「市場が間違えている」とは絶対に言ってはならないと肝に銘じていました。ファンドマネージャーとして生き残るためです。
私は公的年金・国内投資信託・NY上場投資信託などで1,000億円以上の日本株ファンドを運用していました。すべてアクティブ投資です。アクティブ投資である以上、インデックスファンドに負けたら存在価値がありません。
2年連続で、ベンチマーク(競争相手)であるTOPIX(東証株価指数)に負けたらファンドマネージャーはクビと言われていました。幸いにして私は2年連続でベンチマークに負けることはなかったので25年ファンドマネージャーを続けられました。
ファンドマネージャー時代には3カ月ごとに四半期報告会があって、TOPIXに何%、どういう理由で勝ったか負けたかということや、今後の投資戦略などを報告する義務がありました。
そのために毎日、今日は何ベーシス、どういう理由で勝ったか負けたか、リアルタイムで見ていました。もし大きく負けていたら負け続けないようにポートフォリオを修正し、買っているようでしたらいつまで勝ち続けられるか考えながらポートフォリオの調整をしていました。
生き残るために必死でしたから、マーケットの流れについていくのが鉄則でした。
したがって、好決算を発表しても売られる銘柄は、原則売っていました。理由を考える前にまず少し売りました。理由は後からわかることが多く、理由がわかってからでは遅すぎることが多いからです。
売ったのが間違いだったと後からわかることもあります。その後、好材料が出て、株価が売値を上回る急反発するようでしたらそこで買い直しました。
売った価格より高くても気にしません。日本株の売買を支配している外国人投資家の動きにしっかりついていくことが生き残るために重要な「コバンザメ戦法」と心得ていました。
ご質問の「市場が自分の投資判断にどうしても合わない時は、損切りの判断をするか」に対する答えは、「YES」です。
「いつ損切りするか」は個別銘柄では判断しません。私が組んでいるポートフォリオ全体がTOPIXに大きく負けた日にすぐに決断します。何日も負け続ける前に早めに修正します。
でも、たまにマーケットの流れに逆らうこともあります。それはマーケットの動きが「どう考えてもおかしい」と自分なりに確信した時です。
自分がアナリストとして調べたこと、需給動向(誰が買っているか売っているか)、過去に株式市場で経験したこと、いろいろ考えた上で「ここは勝負」と決めたら、どかんと逆張りします。
マーケットの流れについていかないのには、それなりに覚悟がいりますが、ここは勝負と思った時に決断します。
ただし、その直後には、たいがい辛い日々が待っていました。逆張りしたのにマーケットの流れは変わらず、負け続ける辛い日々が続きました。このまま流れが変わらなかったら自分はクビと恐怖を感じることもありました。
それくらい逆張りはしんどいですね。順張りの方が楽です。
もっとも辛かったのは、ITバブル相場の1999年12月、IT株の集中投資が行き過ぎていると考えて勝負した時ですが、一時TOPIXに10%以上負けました。
そんなに負けたのは私のファンドマネージャー時代で初めてでした。これで私のファンドマネージャー人生も終わると、半ば覚悟しました。
2000年1月に入り、私は持っていたNTTドコモ(当時IT関連株の本命と見られていた)などのIT株をほとんどすべて売って、割安だと信じた銘柄群をさらに買い増ししました。
その直後からマーケットの流れが変わり、IT株が軒並み暴落、割安株が急騰を始めました。お陰で私は2000年4月までに負けを取り返し、その後さらに大きく勝つことができました。
だいぶ横道にそれましたが、私は「PER200倍を超えているテスラをどんどん買い上げて、PER7倍の三菱商事を売る」のは誤りと思っています。
ただし、短期的にマーケットの流れが変わるとは思いません。仮に私が正しいとしても、マーケットがその流れについてくるのには相当長い時間がかかる可能性もあります。
私が現役ファンドマネージャーならば、テスラが急落し始め、三菱商事が外国人(と推定される)買いで急騰し始めるまで手出ししません。「マーケットの1歩先を行ってはならない、半歩先しか歩いてはならない」がファンドマネージャー時代の鉄則でした。
でも、四半期ごとに報告する必要のない個人投資家ならば、すぐにテスラを売って三菱商事、あるいは私が日頃からおススメしている三菱UFJ FGを買っても良いと、私は思います。
もちろん、私の投資判断が間違えていることもあります。ファンドマネージャー時代にもさんざん間違えました。間違えたらさっさと間違えた株を売り、マーケットの流れについていくポジションに戻していました。
今回の投資判断だって、間違えている可能性はあります。結論のはっきりしない話で恐縮ですが、私の今の信条をお伝えしました。
コメント2:好決算は織り込み済みだった?
【いただいたご意見】好決算発表されていたのに2時に決算発表されたら株価がドンと下がったって、要するに織り込み済みだったのかサプライズなし(織り込み通りだった)っていうだけでしょ。
配当だけでいえば、純利益が倍増近いのに若干の増加でむしろガッカリ。配当、250円くらいに増配していたら株価もあがったと思う。
的確なご指摘です。確かに、三菱商事の好決算は織り込み済みでした。
石炭や鉄鉱石、天然ガス、原油、銅などの急騰によって、三菱商事が今期企業業績を大幅に上方修正する予想は、事前にアナリストレポートなどで出回っていました(私もそういうレポートを出していました)。
決算が発表になり、企業業績(会社予想)が上方修正された時、それがサプライズ(驚き)なのか、織り込み済みなのか見る方法があります。コンセンサス予想と比較することです。
コンセンサス予想とは、証券会社のアナリストなどが出している業績予想の平均値のことです。QUICKやIFISなどが計算して出しています。
三菱商事は11月5日、2022年3月期の純利益予想を3,800億円から7,400億円に修正しました。
純利益予想が、従来予想比、倍増近いのに配当を少ししか増やさなかったのがガッカリ、1株当たり配当金を250円くらいに増配していたら株価も上がったと思うというご指摘も、その通りと思います。
三菱商事は、1株当たり配当金を134円から142円に増やしました。増配といっても、ほんの少しです。配当利回りは4%までしか上がりませんでした。
1株当たり配当金を250円まで増やしていれば、配当利回りが7%を超えますので、株価は大きく上がったでしょう。今期の1株当たり利益(連結ベース)を501円まで引き上げたので、連結配当性向を50%まで引き上げれば、250円の配当はできないことはありません。
ただし、私はアナリストとして、配当よりも自社株買いをした方が、会社のためにも投資家のためにもプラスと考えています。
三菱商事は日本の投資家が配当を重視するので配当をたくさん出していますが、本当は配当をしないで代わりに配当原資をすべて使って自社株買いした方が、会社のためにも投資家のためにも良いと思います。
なぜならば、配当利回り4%の会社が、配当をゼロにして、配当に使うキャッシュをすべて自社株買いに振り向ければ、理論上、株価が4%上昇するからです。詳しくは、私の以下のレポートをご覧ください。
2021年4月6日:「自社株買い」で株価が上がるホントの理由をやさしく解説
結論だけ、かいつまんでご説明します。配当利回り4%の会社が配当しないで、その資金をすべて使って発行済み株式総数の4%に当たる自社株買いをやるとします。そうすると、発行済み株式総数が4%減ります。
すると、1株当たり利益が4%増えます。その分、PERが低下します。元と同じPERで評価されるならば、株価は4%上昇します。なんだかよくわからなかった方は、私の4月6日のレポートをお読みください。
配当を4%もらってしまうと、それにすぐに税金をかけられてしまいます(NISA[少額投資非課税制度]など非課税口座で投資している場合は課税されません)。一方、配当しないで自社株買いした結果、株価が4%上昇しても、売らない限り税金はかかりません。
いつ売って、売却益に課税されるか、投資家が選択できます。そういう意味で、配当よりも自社株買いの方が実は投資家にとってありがたいのです。
米国企業はそれがわかっているから、大手ハイテク企業などでは、配当よりも自社株買いで株主に利益還元するのが普通となっています。無配で自社株買いだけやる企業もたくさんあります。
自社株買いは、投資家だけでなく、三菱商事自身にもメリットがあります。増配すると、配当負担が恒常的に増加します。
配当金は、税引後利益から払わなければならないので、きわめて重い負担となります。しかも、三菱商事の場合、高収益をあげているのが海外子会社に多いので、子会社から親会社へ配当金を取り寄せなければならない負担もあります。
一方、自社株買いをすれば、発行済み株式数が減りますので、その分恒常的に配当負担が減ります。配当負担が減って1株当たり利益が増えれば、その見合いで増配すれば配当総額を増やさないで増配する余地が高まります。
投資家にとっても、三菱商事にとっても、増配よりも自社株買いの方がウィンウィンの関係でメリットがあることが明らかです。
今ここに書いていることは、三菱商事には、すべてわかっていることです。ただ、日本の投資家が配当を重視するので、それに合わせて配当を重視しているのだと思います。
今回の増配が小さかったのは、確かに、高収益が長期化するか見極めたいという同社の慎重さが表れている面もあると思います。ただし、それだけではないと思います。自社株買いと増配のバランスを取っていく必要があることも考慮に入っていると予想しています。
三菱商事が今後自社株買いを行うか否か、まったく私にはわかりませんが、今回の増配が小さかったことを、単純にがっかりする必要はないと考えています。
コメント3:原子力発電で電気自動車を動かすとどうか
【いただいたご意見】確かに、行き過ぎているのかもしれませんが、電力は、化石燃料だけでなく原子力もありますから、ガソリンよりは電気自動車のほうがCo2排出が少ないということ言えると思います。
私が「テスラを環境企業として評価するのはおかしい」と述べたことに対するコメントをいただきました。
まず、私の意見を説明します。テスラは電気自動車を作っていて、電気自動車はCO2を排出しません。だから環境を悪化させない企業として高く評価されています。ただし、現在、世界の発電の大部分が化石燃料(天然ガスと石炭)を使って行われています。
つまり、テスラは化石燃料を使って作った電気で自動車を動かしていることになります。したがって現時点では環境貢献企業として100点満点では評価できないと考えています。
何十年か先に、人類が使用する電気の大部分を自然エネルギーで発電するようになれば、その暁には電気で自動車を動かすテスラは100%環境貢献企業と言えるようになると思います。以上が私の意見です。
それに対し、電力は原子力からも作れるので、CO2を出さない原子力で作った電気で、電気自動車を動かせば完全な環境貢献企業になると、ご意見をいただきました。
私は、その意見には賛成しません。原子力発電はきわめてコストの高い発電で、経済合理性がないと考えているからです。安全対策コストに加え、使用済み核燃料を何万年も保管する場所が確保されていない問題があります。
現在、経済産業省は「核燃料リサイクル事業」が成立することを前提に原発は低コストとしています。しかし、核燃料リサイクルを実現するために必要な高速増殖炉はまったく稼働のメドがありません。核燃料リサイクル事業は実現不可能と世界で見られ、ほとんどの国が断念しています。
小型原発を動かすことが現在、検討されています。小型原発にすれば、安全対策コストは低下しますが、それでも使用済み核燃料の問題は未解決のままとなります。詳しくは、明日のレポートで解説します。
仮に原子力発電が有望で、原子力発電と自然エネルギーだけで人類が必要なエネルギーを大部分まかなうことを目指すとしても、それでもガス火力発電の重要性は変わりません。
もし、原発と自然エネルギーだけで電力を供給すると、どういうことが起こるでしょうか。原発+自然エネルギーだけで電気を供給すると、電力需給が機動的に調整できず、大規模停電や無駄に電気を大量に捨てる問題が起こります。
電源(発電の手段)には、ベース電源と調整電源があります。
ベース電源とは機動的な出力調整ができず、24時間、同じ出力の発電を続ける電源のことです。石炭火力・原子力・地熱発電などは、機動的に出力調整ができないので、ベース電源にしかなりません。したがって、急な電力需要の増加や減少に対応できません。
自然エネルギー発電は、さらにやっかいです。急に出力が増したり、減ったりします。電気は大規模な保存ができないので、供給と需要を常に一致させる「同時同量」が求められます。そのためには変動する電力需要と、自然エネルギーの出力変動に合わせて出力を機動的に調整する「調整電源」が必要です。
機動的に出力を調整できる電源は、現時点でガス火力しかありません。今後、三菱商事が行っているLNG事業の価値は、その意味でどんどん高くなっていくと予想しています。
(窪田 真之)