米インフレ鈍化で利上げは年内7月の1回だけか?

 先週は、米国の6月のCPI(消費者物価指数)、PPIなど物価指標の伸びが鈍化しました。


 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が今月25、26日にFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げをすることは既定路線とする見方は変わらなかったものの、次回の9月会合以降で利上げがあるとの観測が後退して米金利は低下しました。それを受けて、14日の外国為替市場では1ドル=137円台前半まで円高が進みました。


 さらに、米7月ミシガン大学が発表した消費者態度指数(速報値)が市場予想を上回り、消費者の期待インフレ率も強い内容となったため、ドルは139円台前半まで一時上昇。ただ、139円台を維持するのに勢いが足りず、138円台後半で週を超えました。


 週明け17日は、東京外国為替市場は休場でしたがが、米国では7月ニューヨーク連邦準備銀行製造業景気指数が発表されました。プラス1.1と市場予想(マイナス3.5)より良かったためドル買い優勢となり、139円台半ばまで上昇しましたが、やはり勢いは続かず138円台で推移しています。


一連の米国の物価・経済指標を振り返ってみますと、


 7月12日 米6月CPIは前年同月と比べた上昇率は3.0%と予想(3.1%)を下回り、5月(4.0%)より低下。2021年3月以来、2年3カ月ぶりに4%を割り込んだ。

前月比の上昇率は0.2%と5月(0.1%)より若干大きくなりましたが、予想(0.3%)を下回りました。為替は1ドル=139円台半ばから138円台前半に円高進行


 13日 米6月PPIも前年同月比の上昇率は0.1%、前月比も0.1%で、いずれも予想(前年同月比0.4%、前月比0.2%)を下回りました。前年同月比では5月(0.9%)より大幅に縮小したため一時138円割れの円高に


 14日 東京外国為替市場で日本銀行の政策修正期待から円は続伸し、137円台前半に。米7月ミシガン大学消費者態度指数(速報値)が72.6と予想(65.5)を上回り、消費者の期待インフレ率は1年先が3.4%と6月時点の3.3%から上昇し、予想(3.1%)も上回りました。5年先も3.1%と予想(3.0%)より強かったため、ドルは139円台前半まで上昇。139円台を維持する勢いはなく、138円台後半で週を超しました。


 17日 米7月ニューヨーク連銀製造業景気指数がプラス1.1と予想(マイナス3.5)より良い数値のためドル買い優勢となり、ドルは139円台半ばまで上昇しましたが、勢いは続かず138円台で推移


 このようにCPI、PPIの伸び低下でインフレ鈍化が確認されるとドル安となりましたが、ミシガン大学消費者態度指数、NY連銀の指数の発表を受けてドルが買い戻される動きとなりました。


 ただし、ドルの買戻しも、1ドル=139円台のドル高を超えていくには上値が重たいようです。この上値の重さを見ると、米国のインフレ鈍化の方が景気の堅調さよりも為替市場に与える影響が大きいようです。


 FRBの7月利上げは市場に織り込まれていますが、インフレ鈍化によって、年内9月以降にもう1回の利上げがあるとみる観測はかなり後退しました。


 イエレン米財務長官は17日、G20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開かれたインドで、米ブルームバーグのインタビューで「インフレは落ち着きつつある」との認識を示しました。


 FRBのパウエル議長が25、26日のFOMCで、インフレ指標鈍化の中でタカ派姿勢を維持するのか、あるいは少し緩めて柔軟姿勢をみせるのか、注目です。


 少しでも柔軟姿勢を示せば、ドル安がさらに進むことが予想されます。もちろん、堅調な労働市場を背景にタカ派姿勢を貫くことも想定されるため、市場参加者も柔軟に臨む必要があります。


植田日銀総裁G20で緩和継続強調も、政策修正期待くすぶる

 1ドル=145円から今回円高が進んだ背景として、日銀の政策修正期待があります。そのためFOMCで利上げ継続姿勢が示されても、7月27、28日の日銀金融政策決定会合が控えているため、ドルの買戻しは限定的になりそうです。


 G20に出席した日銀の植田和男総裁は18日の記者会見で、「持続的、安定的な2%のインフレ達成にはまだ距離がある」と発言したため政策修正期待が後退し、1ドル=139円台へと円安が進みました。しかし、それ以上の勢いはないところをみると、市場では日銀の政策修正期待が消えておらず、くすぶり続けているようです。


 もちろん、政策修正がなければ、失望感から円売りになる点には留意する必要があります。


 しかし、日銀が7月会合で政策修正をしなくても、3カ月に1度まとめる「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、物価見通しを上方修正した場合、今後、市場の政策修正期待が強まる可能性も想定されます(4月展望リポートの物価上昇率見通し 2023年度1.8% 2024年度2.0%)。


 日銀は政策維持と物価見通し上方修正の整合性をどのように説明するのか焦点となります。


日本の物価高収束せず米国と逆転か!円高ドル安になりやすい環境に

 日銀の政策決定会合前には政策に影響を与える日本の6月CPIが21日に発表されます。5月CPIでは変動の大きい生鮮食品を除いた総合指数は前年同月と比べ3.2%上昇しました。上昇率は4月(3.4%)から縮小しましたが、上昇は21カ月連続となりました。昨年4月から日銀が物価目標とする2%を越えた状態が続いています。


 6月の予想は5月から横ばいの3.2%上昇とのことですが、もし、予想通りなら、米国の6月のCPIは3.0%なので日米物価上昇率が逆転することになります。米国CPIが昨年6月にピークの9.1%を付けた時には7%近くの開きがありましたが、逆転を迎えるかもしれません。


 ところで、日本の5月CPIの生鮮食品を除いた総合指数の上昇率は3.2%で、4月(3.4%)から縮小しましたが、この縮小には政府の政策が大きくかかわっています。


 総務省の試算では、電気・都市ガス料金の抑制策と全国旅行支援によって1.0ポイント押し下げる効果があったとのことで、この政策効果がなければ、5月時点で物価上昇率は米国と逆転したことになります。5月のエネルギー価格は8.2%下落し、4月の下落幅(4.4%)から拡大しました。電気代も17.1%下落と、4月の下落幅(9.3%)より大きくなっています。


 また、ガソリン価格抑制の政府の補助金は6月以降、段階的に縮小され、9月末に終了する予定となっています。


 加えて大手電力7社が6月使用分からの電気料金を値上げしたことも、6月以降のCPIに反映されるため、日本の物価はなかなか下がらない環境が続きそうです。この環境が続く限り、市場の日銀への政策修正期待は続き、ドル円の頭が重たくなる状況が続きそうです。


 米国の物価高の鈍化は金融引き締めが緩まる方向に動き、日本の物価上昇は金融緩和が引き締め方向に動くということになります。すなわち、ドルは売られやすくなり、円は買われやすくなるということになります。植田総裁が政策修正期待をけん制する発言を繰り返しても、物価がこの方向に動く限り、市場の期待はくすぶり続けるということになります。


 しかし、米国の物価が再び上昇し始め、日本の物価が下がり始める場合は市場の期待が後退することが想定されます。日本の物価が下がり始めなくても上昇しなくなった時も同じようなシナリオが想定されるため注意する必要があります。


(ハッサク)