設備投資

 AIブームと1990年代のドットコム・ブームを比べると、明らかな類似点があります。それはどちらも設備投資によってけん引されているという点です。


 AIではまず生成AIを人間が普段喋っている言葉を理解するようトレーニングしなければいけません。

これには エヌビディア(ティッカーシンボル:NVDA) のGPUに代表されるような高速の半導体をたくさん購入し、AI生成工場とでも言うべき新しいデータセンターを建設する必要があります。なぜ高速な半導体が選好されるかといえば、それが結局コスト的に一番安くつくからです。


 そのような理由から今世界にある汎用データセンターは順次AI生成工場へと設備が更新され始めています。今のところはクラウドサービスプロバイダーにおける投資が盛んですが、ゆくゆくは世界各国の地域データセンターもAIに対応できるようアップグレードされると思います。


 企業がAI生成工場のサービスの提供を受け、その上にさまざまな独自のAIを構築した場合、それらの独自のAIはデータの消費量を計測するトークンにより従量課金されます。つまりトークンはオープンAI経済圏、グーグル・ジェミニ経済圏、マイクロソフト・コパイロット経済圏のような閉じたエコシステムを形成し、その域内通貨の様相を帯びてくると考えられます。


 トークンの利用はAI生成工場でしか可能ではないので、旧式なデータセンターはいずれ姿を消します。エヌビディアの成長余地が大きいと投資家が考える理由はここにあります。


 これまでのところクラウドサービスプロバイダーにおけるAI投資は アルファベット(ティッカーシンボル:GOOG) 、 アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN) 、 メタ・プラットフォームズ(ティッカーシンボル:META) 、 アップル(ティッカーシンボル:AAPL) 、 マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT) が中心となって行われてきました。


 彼らは潤沢な自己資本を活用することでそれを実行しています。


 一方、ベンチャー・キャピタルは基盤モデルの企業に積極的に投資を行っています。いずれ自動車産業、製薬会社、金融機関などがそれらの基盤モデルの上に自社のAIを構築することが予想されます。


ドットコム・バブル時の資金調達

 1990年代はインターネットのインフラストラクチャーをまず整備する必要があったので、投資も設備投資がブームとなっていました。現在との相違点といえば、当時はIPO(新規株式公開)を通じて株式市場から資本を調達することが多かったという事でしょう。


 創業して間もない会社でもストーリーさえ良ければ株式を公開することができました。現在のスタートアップ企業の多くがもっぱらベンチャー・キャピタルに資本の供給を頼っているのと好対照です。


 ベンチャー・キャピタルはドットコム・ブームの頃から比べると遥かにスケールアップしており投資資金が潤沢です。だから株式を公開しなくても数次の資本注入をベンチャー・キャピタルから受けることができます。


 そのことは事業規模がかなり大きくなっても、未公開企業のままでいることができることを意味します。とりわけここ数年、IPO市場が低調だったので、これらの企業は上場を先延ばしにしてきました。


 企業として成熟し、売上高成長率が鈍化してきているスタートアップ企業が多いです。それは仮にこれらの企業がIPOしたところで、いちばん旬のタイミングはすでに逃した後であることを示唆しており、あまり華々しいデビューは期待できないという事なのかもしれません。


マネタイゼーション

 企業がそのサービスを売上高に結びつけることをマネタイゼーションといいます。2022年11月にオープンAIがチャットGPTを無料公開し、広く大衆にAIを使ってもらうことでその良さを知らしめた時、正直言ってこれをどうマネタイズする?という問題は五里霧中でした。


 しかしそれ以降、マネタイゼーションの方法が幾つも発表され、ドットコム・ブームの時と比べても今回の方がマネタイゼーションはすんなりと進んでいる印象を受けます。


 すると今回のブームでは外部資本に依存する度合いが少なくて済む可能性があります。それは株式の需給関係という観点からはプラスです。


 しかし主要AIプレーヤーが大手ハイテク企業となってしまうためスタートアップ企業に大きなビジネスチャンスが残されるかどうかについては悲観的にならざるを得ません。現時点ではおのずと大手ハイテク企業の株を買ってお茶を濁すというようなやり方しか無いのです。


(広瀬 隆雄)

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