今週6月3日(月)~7日(金)は、米国では7日発表の5月雇用統計など重要な景気・雇用関連指標の発表が相次ぎます。


 5月の日経平均株価(225種)は前月比たった0.2%の上昇と、機関投資家が運用指針にする米国S&P500種指数の5月の上昇率4.8%に大きな差をつけられ、先週31日(金)終値も前週末比158円(0.4%)安の3万8,487円と2週連続の小幅安で終わりました。


 米半導体大手の エヌビディア(NVDA) が5月22日に発表した決算は市場予想を上回る驚異的なものとなり、AI(人工知能)関連の人気を独り占めし、5月に前月比26.9%も株価が急騰しました。


 しかし、先週の日本の半導体株はエヌビディア祭りの蚊帳の外とまではいわないものの、強弱まちまちの展開でした。


 その背景には、1ドル=160円を超える円安阻止に日本銀行が動くのではないかという思惑などから、30日(木)に長期金利の指標となる日本の10年国債の金利が12年10カ月ぶりに一時1.1%台まで上昇したことがあります。


 国内金利の上昇は株価が割高な水準まで買われた半導体株や成長株にとって逆風です。


 これを受けて半導体株の主力・ 東京エレクトロン(8035) の31日の株価は前週末比6.0%下落しました。


 今週も先週に引き続き、エヌビディア株急騰の影で今ひとつ低調な半導体株に見直し買いが入るかどうかが焦点です。


 今週は、6月7日(金)の米国5月雇用統計発表の前にも、3日(月)のISM(全米供給管理協会)の5月ISM製造業景況指数、4日(火)の米国4月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、5日(水)の5月ISM非製造業景況指数など重要指標の発表が控えています。


 物価がしつこく高止まりする中、景気・雇用指標が大きく減速すると、米国でソフトランディング(景気軟着陸)ではなく、ハードランディング(景気後退)が発生するのではないかという疑心暗鬼が生まれてもおかしくありません。


 もし、これら景気・雇用指標が良すぎたり悪すぎたりすると、米国市場でもエヌビディア株独り勝ちのまま、全体相場が調整下落に向かう恐れもありそうです。


 先週のS&P500は前週比0.51%安と6週ぶりに下落しました。


 ただ、31日(金)発表の4月の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)は市場予想通りで前月に比べて物価上昇率が鈍化したこともあり、31日の米国株はS&P500が取引終了直前に大幅に値を戻すなど堅調な状況で終了。


 これを受け、週明け3日(月)の日経平均株価(225種)終値は前週末比435円高の3万8,923円となりました。

午前には一時500円以上値上がりし、3万9,000円台を回復する場面もありました。3メガバンク株や損保は金利上昇から年初来高値を更新しました。


先週:半導体低調で全体相場は横ばい、電力・電気工事・電線やアクティビスト株は大盛況!

 先週の日本株は12年ぶりの長期金利上昇を受けて、金利上昇が収益拡大につながる保険、銀行、証券株が業種別週間上昇率ランキングでも上位に食い込むなど大きく上昇。


  第一生命ホールディングス(8750) が前週比8.4%高で上場来高値を更新。 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) も5.5%で高値を更新しました。


 一方、半導体株は人気の高い半導体検査装置の レーザーテック(6920) が6.8%安と下落した一方、証券会社が投資判断を引き上げた半導体成膜装置の KOKUSAI ERECTRIC(6525) が13.3%上昇するなど強弱まちまち。


 どちらかというと、時価総額の大きな大型半導体株が売られ、中小型の脇役的な半導体株が上昇する展開でした。


 脇役といえば、大量の電力を消費するAI(人工知能)向けデータセンターの電力需要を見込んで、先週に引き続き電力株が絶好調でした。


 その一角の 東北電力(9506) は宮城県の女川原発2号機の安全対策工事が完了し、再稼働にめどがついたこともあって20.7%高と急騰。


 銘柄物色の矛先はさらに、AIデータセンター用のクリーンルームなどを建設する電気工事・空調工事会社や電線メーカーにまで広がり、中部電力グループの総合設備会社 トーエネック(1946) は株式5分割も好感されて15.5%高。


 光ファイバーケーブルを製造する 住友電気工業(5802) は、米巨大ITグーグルがインド洋海底ケーブル計画を発表したことから、7.2%高。


 エヌビディア熱が飛び火した形の電力・電線株の急騰劇は米国でも発生しており、今後も止まらない可能性が高そうです。


 また30日(木)には、テレビ業界大手の フジ・メディアホールディングス(4676) に対して、物言う株主として知られる米国投資ファンドのダルトン・インベストメンツがMBO(経営陣による株式買収)を要求したと報じられ、同社の株価は翌31日(金)に前日比8.4%も上昇。


 他のテレビ会社の株価も軒並み上昇するなど、物言う株主=アクティビストの登場が今後、日本株上昇の起爆剤になりそうです。


 一方、米国では30日(木)発表の2024年1-3月期の実質GDP(国内総生産)改定値が小売売上高や設備投資の軟化で、速報値の前期比年率1.6%増から1.3%増に下方修正されるなど景気鈍化を示す指標が目立ちました。


 29日(水)には、クラウド向け顧客管理ソフトウエア会社でダウ工業株30種平均の採用銘柄でもある セールスフォース(CRM) が今期2024年5-7月期の売上高の伸び率が過去最低の1桁台に落ち込むことを発表。


 翌30日(木)に株価が20.0%も急落するなど、エヌビディア株急騰の陰で、AI普及の恩恵をまだ享受できていないソフトウエア関連株が軒並み急落しました。


 30日(木)にはサーバー事業を手掛ける デル・テクノロジーズ(DELL) も2024年2-4月期が久しぶりの増収になったものの、AI向けサーバー事業の成長が投資家の期待を裏切ったことで、翌31日(金)に株価が18%も値下がり。


 急速に普及するAIですが、AIの恩恵を受けるまでまだ時間がかかりそうな企業、AIの普及で逆にビジネスチャンスが失われてしまいそうなIT企業は、これまで期待感だけで上昇し過ぎた分、期待を少しでも裏切ると急落する恐れも高そうです。


今週:米景気・物価指標発表でハードランディング論台頭?外国人は日本株投資に飽きた?

 冒頭で見たように今週は米国で景気・雇用関係の指標発表が相次ぎます。


 ここ最近、米国で景気、雇用、物価の鈍化を示す指標が多いのは9月の利下げに期待する米国株にとって朗報です。


 ただし、今週発表のISMの製造業・非製造業景況指数は前回の4月分がそろって好不調の境目である50を割り込み、価格指標だけが高止まりしました。


 今週発表の5月分でも価格指標だけが高止まりしたまま、景況感が予想以上に弱含むと、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーションの懸念も台頭しそうです。


 折しも、先週30日(木)には、2024年11月に迫った次期大統領選に共和党候補として出馬が確実視されるトランプ前大統領が、ニューヨーク州地方裁判所で、不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる34件全ての罪状で有罪の評決が下されました。


 この有罪評決を機に、米国の政治的分断が深刻化して株価の足を引っ張る事態も考えられそうです。


 振り返って日本では主力の半導体株がエヌビディアに連動して大きく上昇できなかったこともあって売買高も低調で盛り上がりに欠けました。


 5月第4週(20~24日)の投資主体別売買動向によると、外国人投資家は現物株と先物取引合わせて269億円の売り越し。これで3週連続の売り越しとなり、一部の外資系物言う株主の動きだけが騒がれている状況です。


 また財務省が31日(金)に4月、5月に実施した為替介入の実態が明らかになり、政府・日銀が過去最大の総額9兆7,885億円の円買い為替介入を実施したことが判明しました。


 にもかからず、31日(金)のニューヨーク外国市場終値は1ドル=157円30銭台まで円安が進み、5月2日に政府・日銀が2回目の為替介入を行う前の157円台半ばの水準に近づいています。


 外国人の日本株買いが一服しつつある中、大人気株エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)の出身地である台湾では、フアン氏が同国で開かれたIT関連の見本市を訪れたことをきっかけに主要株価指数である加権指数が27日(月)に史上最高値を更新。


 日本株の上昇を支えてきた外国人投資家が「日本株に飽きて台湾株に乗り換えた」とまではいえないものの、外国人投資家が日本株をさらに買い増すには単なる割安株の小出しの株主還元策ではもう難しいのかもしれません。


 ROE(自己資本利益率)を高めて稼ぐ力を向上させたり、物言う株主も納得するほど大規模な自社株買いを行ったりするなど、もう一段のサプライズが必要なようです。


(トウシル編集チーム)

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