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著者の窪田 真之が解説しています。
「 INPEX買い!きわめて割安と判断。配当利回り4.8%、PBR0.5倍、PER6.7倍 」
今日は、日本のエネルギー安全保障にとって重要な役割を果たしている INPEX(1605) を「買い」と判断する理由を解説します。
その前にまず、INPEXが13日に発表した決算を解説、今なぜ、エネルギー関連株に注目するかを、説明します。
INPEXは今期減益予想
INPEX(1605) が13日発表した2024年12月期の連結純利益は前期比30.6%増の4,342億円と好調でした。ただし、2023年以降、原油・ガス価格が大きく下落した影響もあり、2022年12月期の最高益(4,984億円)には届きませんでした。
同時に発表した、2025年12月期の純利益(会社予想)は、前期比22.8%減の3,300億円と減益予想です。原油価格が低下する前提としていること(前期平均1バレル79.9ドル→今期前提平均75.0ドル)、また連結営業利益の7割を稼ぐイクシス事業で定期点検のためのシャットダウンがあることが、減益を予想する主な理由となっています。
INPEXの連結売上高・営業利益・純利益の推移:2014年3月期~2025年12月期(会社予想)

なぜ今、エネルギー関連株に注目するか?
エネルギー関連株に注目する理由から説明します。原油先物はウクライナ危機後の高値からすでに大きく下落しています。エネルギー事業の利益は減少し、株価もさえません。
WTI原油先物(期近)の動き:2022年1月3日~2025年2月17日

ただし、人類のエネルギー依存は今後さらに高くなると思います。特に今年は、生成AI(人工知能)の利用が世界中で拡大することで、電力需要が拡大するとみています。電力を大量に消費するAIデータセンターの増加によって、電力不足が話題になると予想しています。
再生可能エネルギーの発電量が拡大していますが、今年は増加する電力需要を賄いきれず、ガス火力発電や原子力発電を増やす必要が生じると思います。それが、エネルギー価格全般の上昇につながる可能性があります。そういう理由から、今はエネルギー関連株を、割安に買う好機と考えています。
ただし、今年もエネルギー価格の低迷が続くとの見方もあります。二つの理由があります。どちらもトランプ米大統領のアクションが影響しています。
一つは、トランプ大統領が、エネルギー開発の規制緩和を進め、米国内のシェール開発業者に「掘って掘って掘りまくれ」とハッパをかけていることです。
もう一つは、トランプ大統領がウクライナ戦争終結のために精力的に動いていることです。ウクライナ戦争が終結し、欧州へのロシアからの天然ガス輸出が増加すれば、欧州を中心にエネルギー価格の低下につながります。
二つとも、現時点で実現するかまだ分かりません。米国内のシェール油田については、現時点ですぐ増産できる余地のある地域はパーミアンなど一部に限られます。シェール油田の新規開発には多額の投資コストが必要で、トランプ大統領がいくら規制緩和してハッパをかけても、現在の油価では新規開発が急に増えるとは考えられません。
ウクライナ停戦については予断を許しませんが、欧州でも停戦を望む機運が高まっており、実現へ向けて話が進む可能性も出てきています。ウクライナ停戦で、ロシアと欧州の経済取引が再開されると、欧州経済にはプラスとなります。その期待から、今年に入って、欧州株の上昇率が高くなっています。
このように、今年エネルギー価格が反発するかどうか、不透明です。ただし、INPEXについては、今後エネルギー価格の上昇がまったく無いとしても買う価値が高いと考えています。長年にわたって取り組んできた先行投資が実り、今後、原油・ガス生産量のさらなる拡大が見込めるからです。エネルギー価格の上昇に頼らずに長期的に利益を成長させていく力があると考えています。
それでは、以下、INPEXを買い推奨する理由をさらに詳しく解説します。
INPEXを買いと判断する理由
INPEXは、日本最大の原油・天然ガス開発・生産企業です。日本のエネルギー安全保障にとって、もっとも重要な会社と考えています。敵対的買収されることのないよう、黄金株【注】を発行し、経済産業大臣が保有しています。
【注】黄金株
経営上の重要事項について、黄金株の保有者に拒否権がある。企業防衛策として高い効果がある。
INPEXは、2021年12月1日のレポートで投資判断を「強い買い」に引き上げた銘柄です。その時のレポートは、以下からお読みいただくことができます。
2021年12月1日: 利回り3.7~6.2%、12月決算の高配当株5選。INPEXを「買い推奨」に引き上げ
株価は、2021年12月1日の938円からすでに98%上昇して1,861.5円となっていますが、それでもPER(株価収益率)6.7倍、PBR(株価純資産倍率)0.46倍と、株価指標で見て極めて割安です。日本のエネルギー安全保障にとって重要な企業であることが、株価に織り込まれていないと考えられます。
以下、長期の株価チャートをご覧ください。同社株価は2020年まで、原油・天然ガス価格下落を受けて下落していました。2021年以降大きく上昇しているとはいえ、2007~2008年の株価と比較すると、まだ低い水準にあります。
INPEX株価、月次推移:2007年1月末~2025年2月(17日)

INPEXを高く評価する点は、以下5点です。
1. 日本最大の原油・天然ガス生産・開発企業。長年の先行投資が実り、今後生産量・埋蔵量とも拡大が続くと見込まれる
原油・ガスの生産量・埋蔵量は国内最大で、海外20カ国に資源権益を有します。長い年月をかけて開発を進めてきた オーストラリア(イクシス)で先行投資が実り、生産量や確認埋蔵量が拡大する局面に入っています。インドネシア(アバディ)も2030年ごろ生産開始を目指し、開発が進んでいます。
2. 海外権益のほとんどが友好国に
海外権益は、オーストラリア、インドネシア、中東などの友好国にあります。権益喪失の危機にあるロシアの「サハリン1」にも出資【注】しているが出資比率は低く、仮に撤退・減損という最悪の事態になったとしても影響は限定的と考えられます。
【注】
INPEXは、サハリン1の権益30%保有する「サハリン石油ガス開発」の株式を6.08%所有
3. 技術的に難しい海底ガス田を開発
技術的に難しい海底ガス田を開発、陸上にガスを誘導してLNG(液化天然ガス)に転換して日本などに輸出するプロジェクトを行っています。
4. 脱炭素にも積極的に取り組み
2050年にCO2排出ネットゼロを目指し、(1)水素・アンモニア事業(2)CCUS(CO2回収・貯留・利用)(3)再生エネルギー事業(地熱・風力など)(4)メタネーション(合成メタン)(5)森林保全などの事業を推進しています。
5. 株価割安、株主への利益還元に積極的
PBR0.46倍と、株価は買収価値と比較して極めて割安と判断しています。黄金株を導入しているので、合意なき買収がかかることは無いと考えられますが、それにしても株価は低評価です。日本のエネルギー安全保障にとっての重要企業であることが、評価に反映されていないと考えています。
INPEXは、日本企業として珍しいほど、株主への増配・自社株買いに積極的です。自社株買いを、2022年1,200億円、2023年1,000億円、2024年1,300億円実施しました。2025年も事業環境を見極めながら、積極的に自社株買いを実施すると考えられます。配当と自社株買いを合わせた株主への総還元性向は、2022年が44.1%、2023年が60.6%で、2024年は55.0%と高水準です。
一方で、不安材料もあります。特に私が重視しているのは、以下2点です。
1. 資源ナショナリズムのリスク
最大のリスクは、資源ナショナリズムです。海外に保有する権益はいつでも資源ナショナリズムによって接収されるリスクがあります。現在、友好国中心に権益を保有しているとは言っても、その友好関係がなんらかの理由で崩れるリスクは常にあります。
国交断絶にならない限り、さすがに無償で権益を没収されることは無いと考えられますが、それでも友好関係が崩れると不当に低い対価で権益を奪い取られるリスクが生じます。日本企業が保有する権益に対し、「環境アセスメントで問題あり」など難癖をつけて取り上げることが考えられます。
友好国であっても法人税率をどんどん高めることで実質的に利益を取り上げられてしまうこともあります。INPEXもすでに海外事業で高率の法人税を取られています。
2. 脱炭素が進むことに伴うリスク
世界中で、脱炭素に向けた取り組みが進む中、化石燃料ビジネスを展開する企業は、「環境税」などのペナルティを科せられるリスクがあります。これに対し、INPEXは2050年のCO2排出ゼロを目標としてさまざまな取り組みをしていますが、その効果が出るにはかなりの年数を要します。
ただ、上記に挙げたリスクを勘案しても、先に解説した五つのポイントから、INPEXに投資する価値は高いと判断しています。
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(窪田 真之)