日経平均は連休後も4週連続で上昇し、戻り基調を維持しています。背景に、米国市場の安定に加え、国内要因や円安、海外資金流入などが考えられます。

今週も前向きな市場ムードが続きそうな中、株価の戻り基調が続くのか、上値を試せるかが焦点となりそうです。ただ、過熱感や「強気の罠」への警戒も必要です。本格的な上昇基調を見極めるポイントはどこにあるのでしょうか?


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 過去の急落時から探る現在の株価反発力~「強気の罠」を解除するタイミングは?~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


連休後の日経平均は順調な戻り基調を維持

 先週末5月9日(金)の日経平均株価は3万7,503円で取引を終えました。前週末終値(3万6,830円)からは673円高となったほか、週間ベースでも4週連続の上昇となり、日経平均は国内大型連休後も4月7日につけた安値からの戻り基調を維持したことになります。


 ちなみに、東証株価指数(TOPIX)も同様に株価の戻り基調が続いており、先週末9日(金)時点で12連騰となっています。


<図1>日経平均(日足)の動き(2025年5月9日時点)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:MARKETSPEEDII

 実際に、現在の日経平均の株価位置を上の図1で確認すると、3万7,500円台を回復したほか、75日移動平均線も超え、200日移動平均線や3万8,000円台も射程圏内に捉えつつあることが読み取れます。


 このように、短期的なチャートの形状は悪くなく、このままの勢いで200日移動平均線や、急落前の3月26日の高値(3万8,220円)を超える可能性は十分にありそうです。ただし、日経平均の下落トレンド自体は、2024年12月27日から始まっていますので、中長期的な上昇トレンドへの転換には「もう一段階」の株価上昇が必要になってきます。


 そのため、こうした状況を背景に、今週の日本株は「株価の戻り基調が続くのか?」、そして「さらに上値をトライできるのか?」が焦点になります。


日本株を押し上げた外部要因と内部要因

 そこで、足元の株価の戻りの勢いについて、もう少し掘り下げてみます。


<図2>日経平均(5分足)の動き(2025年5月1~9日の5営業日)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:MARKETSPEEDII

 上の図2は、直近5営業日における日経平均の5分足チャートです。


 このチャートで取引時間中の値動きの強さを見て行くわけですが、結論を先に述べてしまうと、「足元の日経平均は買いが優勢だった」ことが感じ取れます。


 そのポイントとしては2つ挙げられます。


 一つ目のポイントは、「窓」空けをきっかけに株価水準を切り上げてきたことです。


 図2では、窓空けの場面が3回出現したことが確認できます。最初の出現時では3万6,000円から3万6,500円に、次の出現時には、数日間の攻防戦を繰り広げたのち、3万6,500円から3万7,000円に、そして、先週末9日(金)の出現時には3万7,000円から3万7,500円へと、500円刻みで株価水準を切り上げていることが分かります。


 一般的に、窓空けは「前日の取引終了時から翌日の取引開始時までに状況が変わった」時などに出現しますが、当然ながら状況の変化に影響を与えるのは米国市場などの外部環境です。先週の米国株市場は、関税交渉の進展や、米中関係の改善期待、無難に通過した米連邦公開市場委員会(FOMC)、まずまずの経済指標の結果などを受けて株価水準を維持する展開でした。


 もっとも、株価が大きく上昇したわけではなく、米国株市場が目立って強かったわけでもありませんが、関税政策をめぐって英国とのあいだで合意に至ったことなど、一定の進展があったことが市場に安心感をもたらしました。


 二つ目のポイントは、「取引時間中にしっかり買いが入っていた」ことです。図2を見ると、取引時間中に株価の上昇が続いたり、売りに押されても持ち直す場面が多かったことが読み取れます。


 こうした背景には、先週の国内株市場では、外部要因だけでなく、「日本株を買う」内部的な要因も存在していたと思われます。


 具体的には、先日、25年末で投資会社のCEOを退任すると表明した米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、日本の商社株の保有を強く支持する発言があったことや、先週に NTT(日本電信電話:9432) が上場子会社の NTTデータグループ(9613) を完全子会社化すると発表し、親子上場の解消を材料視した買いが入ったこと、そして、決算と同時に自社株買いを発表する企業が増えていることなどが挙げられます。


 また、足元で進行する為替の円安や、米トランプ政権の不確実性を考慮した投資家による資産配分の見直しの動きの中で、米国市場から海外市場への資金シフトの向かう先として、少なからず日本株も意識されていることなども、株価上昇の理由として考えられます。


過去の株価急落時と比べた足元の株価反発は?

 とはいえ、図1のチャートを見ても分かる通り、4月7日に底打ちしてからの日経平均は、「順調すぎる」ぐらいの勢いで戻り基調を辿っているため、過熱感や上昇一服を指摘する見方が増えてくるタイミングに差し掛かろうとしています。


 では、過去の日経平均が急落した後の反発局面と、現在の戻り基調とを比較して、今後の値動きについて考えて行きたいと思います。


<図3>日経平均急落前後の動きの過去比較(急落時の底値を100)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:MARKETSPEEDIIデータを基に作成

 上の図3は、日経平均が過去に急落した場面で底打ちした日を100として、その前後150日間の株価推移を比較したものです。


「コロナ・ショック」時の2020年3月や、2024年8月の急落時のように、株価の反発が落ち着いた後も堅調に推移していたものや、2018年12月のように、株価の反発力は強くはないものの、継続的に戻り基調を描いたもの、「チャイナ・ショック」時の2015年9月のように、株価が反発した後に、再び下落基調に戻ってしまったものなど、値動きのパターンはまちまちです。


 先週までの株価反発(2025年4月)の値動きは、2020年3月および2024年8月の時と似ている印象ですが、過去10年のパターンを見ると、底打ちしてから150日以内に急落前の株価を回復して上値を伸ばしたものはありません。


 必ずしも「歴史が繰り返される」わけではありませんが、株価が大きく下落した後、下落前の株価水準を回復するには結構時間が掛かること、株価反発が一巡した後に売りに押される展開が多く、さらに株価を押し上げる新たな材料が出てこなければ、足元の株価が「そろそろ」感で売りに押される展開も想定しておく必要があるかもしれません。


 まずは、5月10日(土)~11日(日)にスイスで行われている、米中協議の行方とその内容が試金石として注目され、週初の相場のムードを左右することになりそうです。


「強気の罠(ブル・トラップ)」について

 最後に、もう少し先の展開についても考えて行きます。


 これまで見てきたように、近いうちに足元の株価反発が一服するタイミングがやってくることになりそうですが、「その場合の下落局面は買いなのか?」が次の焦点になります。


 以前、 こちらのレポート で「強気の罠(ブル・トラップ)」について解説しました。


 詳細については当該レポートに譲りますが、強気の罠とは、株価が下落から上昇へと転じ、あたかも下落トレンドが終了したかのような動きになったと思いきや、結局は株価の上昇が一時的なものにとどまってしまい、再び下降トレンドに戻ってしまうことを指します。図3では、2015年9月や2016年1月、2018年3月のパターンが該当します。


 では、「強気の罠への警戒モードはいつ解除したら良いのか?」ですが、米国株市場では、「50日と200日移動平均線のゴールデン・クロスが出現するまで」という目安があります。


 元々、50日と200日移動平均線の交差(クロス)はあまり頻発するサインではありませんが、足元の米S&P500種指数の日足チャートでは、「デッド・クロス」が出現しています(下の図4)。


<図4>米S&P500(日足)の動き(2025年5月9日時点)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:MARKETSPEEDII

 つまり、先ほどの目安に沿うのであれば、強気の罠への警戒モードを解除するのは、「再び50日移動平均線が200日移動平均線を上抜けるゴールデン・クロスが出現するまで」ということになります。


 実際に、過去の事例を見て行きます。


<図5>米S&P500(日足)の動き(2022年3月:インフレと利上げ時期)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:Bloomberg

<図6>米S&P500(日足)の動き(2020年3月:コロナ・ショック時)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:Bloomberg

<図7>米S&P500(日足)の動き(2015年8月~:チャイナ・ショック時)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:Bloomberg

<図8>米S&P500(日足)の動き(2010年7月(欧州債務危機)&2011年8月(米国債格下げ))
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:Bloomberg

<図9>米S&P500(日足)の動き(2007年12月 リーマン・ショック前後)
日経平均の4週連続上昇と「強気の罠」。カギを握るゴールデン・クロス
出所:Bloomberg

 図5から図9のいずれもパターンも、50日と200日移動平均線のデッド・クロスが出現し、ゴールデン・クロスが出現するまでの株価は、かなり不安定であることが分かります。


 したがって、目先の株価はまだまだ上昇する展開もありそうですが、強気の罠へが解除されるまで、まだしばらく時間が掛かるかもしれません。


(土信田 雅之)

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