米国株式市場はトランプ政権の強硬政策で一時調整しましたが、長期的な視点では堅調なトレンドの中間反落と見られます。過去のスタグレーションとは異なり、最新の米国経済は底堅さを示しています。
米国株式市場は「トランプ2.0」の強硬策に揺れる
米国市場ではS&P500種指数が2月19日に付けた最高値(終値:6,144)から約10%の調整(Correction)を余儀なくされました。トランプ大統領の高関税政策と貿易戦争を巡る不確実性やDOGE(政府効率化省)による急激なリストラがもたらす雇用不安に加え、2022年10月を起点とした強気相場をけん引してきたナスダック主力株が広く反落したことが主要因です。
ただ、過去30年にわたるS&P500のドローダウン(直近高値からの下落率)は平均してマイナス11.5%で、今回の株価調整(マイナス10.1%)が特に大きいとはいえません。強気相場を終わらせる「弱気相場」(Bear Market=高値から20%以上の下落)には及んでいません。
図表1で示すとおり、長期市場実績で振り返るとドルベースや円ベースのS&P500が世界株式(MSCI ACWI)堅調をけん引してきたトレンドにおける中間反落とみられます。1995年以降約30年にわたるS&P500の年率平均リターンは+9.8%、円ベースでは為替差益(ドル高・円安)の効果で+12.4%でした(3月末)。
注目されている「Fear & Greed Index(恐怖と貪欲指数)」( CNN Business )は、テクニカル指標やオプション市場での取り組みなどから構成されており、「市場心理が極度の恐怖」にあることを示します。これは逆張り指標と呼ばれ、投資タイミングを見極める一つのモノサシとされます。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏による「他人が貪欲なときに恐れ、他人が恐れているときに貪欲となれ」との名言を思い起こさせる株価調整局面とはいえそうです。
図表1:長期的な株式パフォーマンスでみた足下の「調整局面」

米国市場が警戒する「スタグフレーション」を振り返る
トランプ政権の対外関税や行政改革(官庁のリストラ)を受けた「ソフトデータ(アンケート調査による景況感やインフレ予想)」(例:ミシガン大・消費者信頼感指数やISM(米サプライマネジメント協会)景況指数)が示す景況感悪化やインフレ予想上昇に市場が過度に反応しているとの見方もあります。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は3月19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)直後の記者会見で先行きの不確実性を指摘しつつも「米国景気には底堅さがみられる」と発言。実際、ハードデータ(雇用統計、小売売上高、住宅関連の公的指標)は景気後退やスタグフレーション(景気停滞とインフレ上昇の同時進行)を明確に示していません。
図表2が示すとおり、直近の「米国経済悲惨度指数」(失業率+CPI(消費者物価指数)上昇率)は6.9%(2月)と歴史的には低位にとどまっており、1970年以降の算術平均(10.1%)を大きく下回り、1970年代から1980年代初にかけての「オイルショック発のスタグフレーション」とは遠い実態が分かります。
3月FOMCが公表した最新のSEP(経済・金利見通し)によると、12月時予想よりやや上方修正されたものの、失業率は2025年末で4.4%、2026年末で4.3%と見込み、インフレ低下(PCEコア物価上昇率で2025年の+2.8%から2026年は+2.2%へ低下)予想に沿って「2025年に2回の利下げ」「2026年に2回の利下げ」との見通しを維持。
トランプ政権は民主党政権からの構造転換(歳出削減による小さな政府)を目指す一方、新政権発足後に公表された累計約4兆ドル(約600兆円)に及ぶ内外からの民間直接投資(生産と雇用の増加)、所得税減税、法人税減税、規制緩和などプロビジネス政策をテコに経済活性化を進めることで株価を復調させたいと思われます。
トランプ政権は、建国250周年にあたる2026年秋の中間選挙勝利を目指す途上での副作用(需給悪化)を「デトックス」と呼びました(ベッセント財務長官)。まずは4月2日以降に発表される相互関税や自動車関税の詳細、実効性、影響度を見極める相場となりそうです。
図表2:米国経済が経験した「スタグフレーション」を振り返る

「長期積立投資実績」で資産形成効果を検証してみる
株価調整(Correction)入りした米国市場ですが、景気変動や金利変動などを巡る不確実性で需給が悪化し株価が下振れたことは過去に多々ありました。そうした中、「TIME in the market is more important than TIMING the market」(相場の上下にあわせて売買するよりも、長く投資を続けていく方が大切)との格言を再認識したいと思います。
ヘッジファンドなどによるシステム取引が存在感を増す中、一般個人投資家が相場変動に応じて売買を繰り返して成果を出し続けることは「言うは易く行うは難し」です。投資理論や市場実績に倣えば、長い時間をかけて積立投資(定時定額投資)を続けていくことが「資産形成の王道」といえます。
つまり、10年、20年、30年に及ぶ「時間」を味方につけて「投資資金に着々と働いてもらう」との考えは米国における投資教育のプリンシパル(原理原則)です。
図表3は、約30年前の1995年1月に5万円を米国株式(S&P500種指数/円ベース/為替ヘッジなし)に分散投資。その後も毎月末に5万円ずつ継続的に投資してきたケースをシミュレーションしたものです。
この過程における「ドルコスト平均法」(株価下落時には安く多く買える)と「複利運用」(雪だるま)の効果で、投資元本の時価総資産は1億円超(累計投資額の約5.6倍)に膨らんできました(3月末時点:配当を除く)。株式市場が下落しても動揺せずに「買い増し」や「積み増し」を続けてきた結果として「誰でも億り人になれた」ことを示します。
米国株式や為替(ドル/円)相場を下落させた「トランプ・スランプ」も長期的な視野に立てば「さざ波」の範囲で積立投資継続の好機にしたいと思います。
図表3:米国市場の実績で「長期積立投資」の効果を検証する

(香川 睦)