個人向け国債は2003年に初めて募集され、ピーク時には年間7兆円を超える金額が個人投資家のために発行されました。それから金利が低水準になるにつれて下火になっていきましたがそれでも根強い人気があり、日銀の利上げが行われてから再注目されて発行金額も着実に増加傾向にあります。
お悩み
預貯金の使わない資金で個人向け国債を購入してみたいけど…
田中 実さん(仮名)・会社員・55歳男性(既婚、妻は専業主婦、子ども1人)
田中さんは以前から株式投資を100万円以内で売買してお小遣い稼ぎをすることを楽しみにしていました。家計の預貯金は妻に管理してもらっていたので、自分の余裕資金の範囲で大きく資産を増やすというわけではなく、株価の動きを見ながら企業を見比べることがルーティーンでもありました。
資産形成のためにNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を利用して積立投資をすることが普及してきてから、家計の余裕資金で株式インデックス投資をするようにもなりましたが、株式投資は個人資産の中で投資するにとどめていました。
ただ積立投資には回しづらい家計の余裕資金をどうするか悩んでいました。そんな時に個人向け国債の現金プレゼントキャンペーンのお知らせをみて、これはいいのではと興味を持ちはじめました。
証券会社のHPを見ると
- 額面1万円から購入可能
- 日本国が発行する債券なのでローリスク
- 買付手数料不要
- 毎月発行なのでコツコツと積立感覚で購入可能
などがPOINTとして記載されており、これまで購入したことはない商品ですが、ちょうど良さそうに感じています。
田中さんが、個人向け国債を購入する際にどんなことに気をつけたらいいでしょうか?
個人向け国債は債券投資の中でも特別なもの
証券投資で安定的な運用といえば債券投資がまず思い浮かびますが、特に日本円建ての債券で信用度の高い銘柄であれば、ローリターンではありますがローリスクでもあります。国債は信用度でいえば最上位の発行先といえます。
個人向け国債も国債の一種ですが、一般的な国債とはそもそもの仕組みが違います。「個人向け」という言葉がついているだけあって、投資初心者の個人でも購入しやすいように「年率0.05%の金利を最低保証」「途中換金しても元本割れしない(条件あり)」「最低1万円から投資が可能」など、個人へのさまざまな気遣いが感じられる仕組みとなっています。
その中でも「途中換金しても元本割れしない」という点は、投資初心者が最も望む条件の一つだと思いますが、そのためには以下の条件を満たす必要があります。
- 原則途中換金には発行後1年以上の経過が必要
- 中途換金時には、中途換金調整額(直前2回分の税引前各利子相当額×79.685%)が差し引かれる。
※詳細は楽天証券HPの 個人向け国債特集サイト をご覧下さい。
さらにいくつか種類のある個人向け国債のうち変動金利型10年満期の販売シェアは9割を超えています(楽天証券において、2022年4月から2023年3月の各販売期間の個人向け 国債買付注文データ を参照)。
変動金利の条件は、実勢金利に連動して半年ごとに変動し、利率の計算は、10年固定利付国債の金利に0.66を乗じた値となっています。つまり、日本の金利が上昇している現在、変動金利の条件も今後上昇する可能性が高くなっていると想定できます。
そこで今回は、投資初心者から玄人にまで幅広くおすすめできる個人向け国債に投資する際に知っておいてほしい「やってはいけない」ことをお伝えします。
個人向け国債のやってはいけない投資の仕方1:買付キャンペーンを利用しない
個人向け国債は、当初は四半期ごとに募集されていましたが、途中から毎月募集されるようになり、個人がいつでも買付できるようになりました。購入先も証券会社だけでなく銀行や信金にJAなど886の取扱機関(令和7年4月1日現在、財務省HPより)で購入ができるようになっています。
どの取扱機関で個人向け国債を買っても、商品性自体に違いはありません。しかし、個人向け国債について取扱機関によってはキャンペーンを行っており、その多くが買付金額にあわせて現金などをプレゼントするというものです。特に個人向け国債は現金プレゼント企画が毎月のようにどこかの取扱機関で実施されています。
つまりキャンペーンなしで購入するということは、その分利益獲得の機会を失ってしまっているのと同じです。さらに1年以上保有して中途換金した場合であっても、プレゼント分は中途換金調整額の対象にはなりません。
もちろん今後の金利動向も重要ですが、個人向け国債を購入するならまずは各社のキャンペーンの比較を忘れないようにしましょう。個人向け国債自体は毎月購入する機会はありますので、条件が良いと思うキャンペーンが出るまで待ってからでも遅くはありません。
個人向け国債のやってはいけない投資の仕方2:安易に他の商品に切り替える
個人向け国債は、証券投資の中でも投資初心者が運用を始めるハードルとしてかなり低い金融商品です。投資することの価格変動(元本割れ)に不安があるという人でも、一定条件下であれば元本割れしない個人向け国債は、キャンペーンなどを理由に預金からのシフトしやすさは随一といえるでしょう。
ただし、個人向け国債は投資の中でもかなりリスクは低い商品であり、投資目的でいえば安定的な運用を希望しているといえます。ここで忘れてはいけないのは、投資は目的に合った商品を選ぶべきで、そこから投資目的の違う商品、特にリスクの高い商品への見直しは要注意です。
投資で大きな失敗をする理由で私が最も注意していただきたいと考えているのは、リスクの取りすぎと、投資金額を過大にしてしまうことです。個人向け国債はその商品性から大きな金額でも投資をしやすい商品ですから、特に気をつける必要があります。
商品の見直しをすることは悪いことではありませんが、投資目的や資産全体のバランスを考慮して行う必要はあります。中途換金のしやすさは個人向け国債の魅力の一つですが、それは他の商品へ見直すことよりも何かに使うための現金化しやすさを重視することをおすすめします。
個人向け国債のやってはいけない投資の仕方3:預金との比較をせずに投資する
個人向け国債が今注目されている理由の一つに、日本の金利上昇があります。9割以上が変動金利型10年満期を購入していることから、今後の利回り上昇期待がされていることが分かります。確かに半年ごとの利率見直しの際には、「基準金利(10年固定利付国債)の66%」が適用されることから、今の日本の金利動向からも十分魅力のある投資先といえます。
ちなみに、固定金利型3年満期は「『基準金利(3年固定利付国債)』-0.03%」で利率が決まり、固定金利型5年満期は「『基準金利(5年固定利付国債)』-0.05%」で利率が決まります。
ただし、金利が上昇するということは個人向け国債だけのメリットではなく、当たり前ですが預金金利の上昇も期待されています。実際にすでに普通・定期預金の利率は上昇してきており、預金のキャンペーンなどではここ何年も見ていない水準の利率も期待できるようになってきています。
現在は個人向け国債のほとんどが変動10年で購入されていますが、金利の上昇に伴い固定3年・固定5年も検討の余地がでてくるでしょう。今後はこれらと預金金利の水準やキャンペーンを比較した上で余裕資金の投資先を検討すると良いでしょう。
個人向け国債は個人専用に仕組みを考えられた債券
預金とは違うが、余った預貯金からの投資先として検討してみては?
一般的に資産運用は余裕資金で行うべきですので、預貯金として確保している資金は投資に振り分けるべきではありません。しかし、個人向け国債であれば、1年以上保有していれば途中解約しても実質的には元本割れをする心配がありません。
もちろん生活資金や緊急時用の預貯金は別ですが、それ以上に資金が貯蓄に回っているけど投資に回すのにはちゅうちょがあるという場合には、個人向け国債はうってつけです。積立投資やNISAが脚光を浴びていますが、これを機に個人向け国債も検討してはいかがでしょうか?
■著者・西崎努氏の著書 『やってはいけない資産運用 金融機関のカモにならない60歳からの資産防衛術』 (アスコム刊)、 『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』 (アスコム刊)が大好評発売中です!
【動画で解説!】
楽天証券「 トウシルの公式YouTubeチャンネル 」では、同筆者が執筆した「やってはいけない資産形成」のコラムを動画で視聴できます。
・ S&P500かオール・カントリーか…積立投信、銘柄選びで迷ったら
・ [住宅ローン]日銀利上げで変動金利どうなる?自分にできる備え3選
・ NISA×高配当株投資:失敗しやすい人の3つの共通点
(西崎努)