日本の国債利回りは人為的に金利の上昇を止めるイールドカーブ・コントロール(YCC)によって、数十年にわたって抑制されてきた。しかし、その人為的価格操作は崩壊しつつある。

事態を収束させるために、日銀がYCCや国債購入を再開する可能性はあるだろう。しかし、これは間違いなくインフレ率の上昇を招き、通貨安を招くだろう。


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株式市場で何が起きたのか?

 先週の米国株式市場は買いポジションの急増を記録した。新型コロナウイルス後のレバレッジ取引再開、2011年の米国債格下げからの反動の上昇、そして2015年の人民元切り下げパニックポジションの解消の時よりも大規模な買いがみられたという。


 買いの主体は誰なのか? EndGame MacroのXへの投稿によれば、ボラティリティの一時的な抑制と消費者物価指数(CPI)の低迷を受けて、株式市場への大規模な再投資を行った商品取引アドバイザー(CTA)などのアルゴリズム・トレードが活発に動いたようだ。この行動は機械的ルールに基づくものであり、相場観や裁量的なものではないという。


S&P500CFD(日足)


負債バブルが促す世界的な金利上昇と静かなレバレッジの解消
(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ナスダック100CFD(日足)


負債バブルが促す世界的な金利上昇と静かなレバレッジの解消
(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 株式相場の動向はドル/円次第である。大幅な円高に動いた時が株式市場の危機となる。一方で、円安になれば日本のバーゲンセールが加速し、海外勢が日本の資産をハゲタカ買いしていく。


ドル/円(日足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:楽天MT4・石原順インディケーター

日経平均CFD(日足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:楽天MT4・石原順インディケーター

世界的な国債バブルの崩壊と静かな円キャリートレードの巻き戻し

 石破茂首相は、5月19日の参院予算委員会で、減税の有無を問われ「金利がある世界の恐ろしさを認識する必要がある。減税して財源を国債で賄うことはしない」と述べた。


 そして、「財政的制約を政策(遂行の)エクスキューズに使ったことはない」としつつ、「金利がある世界が現出しており、日本の財政状況はギリシャよりよろしくない。税収も増えているが、社会保障の費用も増えている」と述べ、財政規律の重要性を強調した。


 だが、石破政権がやっていることは現代貨幣理論(MMT)と年金改悪である。

選挙対策の裏で、パート労働者の30%増税が行われている。


 日本銀行にできることは何もない。利上げすると円レバレッジのコストが上昇し、円キャリートレードの巻き戻しを誘発する。円キャリートレードが巻き戻されれば、金融システムを維持するために円の増刷に迫られる。その結果、円安が進み、日本国民のインフレコストが再び高まり、円の購買力がますます失われる。


「米国債に次ぐ約1,137兆円規模の日本国債市場で、長らく安定していた金利が米国やドイツなど主要国を上回るペースで上昇し始めた。償還期間が長い年限ほど上昇傾向が鮮明で、30年金利の水準は既に10年債の約2倍に達し、40年に続き過去最高水準が目前と青天井の様相を呈する」


(出所:5月17日 ブルームバーグ 『超長期金利の反乱、青天井で金融・財政に影響も-日本国債市場の異変』)


 日本銀行が輪転機で刷った円で政府の借金を帳消しにしようというインフレ政策は、日本国債や円に対する信認を揺るがしつつある。


日本30年国債金利(日足)


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(赤:金利上昇トレンド・黄:金利低下トレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

日本40年国債金利(日足)


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(赤:金利上昇トレンド・黄:金利低下トレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

日本40年国債金利(月足)


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(赤:金利上昇トレンド・黄:金利低下トレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 金融インフレの時代には資産価格が、ほぼ際限なく、つまりシステム全体が破綻するまで上昇するが、金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。


 現在、日銀の実質金利はマイナス3.1%だ。日銀の異常な金融政策で円安が定着している一方で、日本の長期および超長期金利が不気味な上昇を続けている。40年国債は発行以来の最高金利を記録した。

国内総生産(GDP)比250%超の国家債務を抱える中、この金利上昇は日本の財政の持続性に危険信号を発している。


しばしば見落とされているのは、日本がインフレ対策を遅らせているだけでなく、世界的なキャリートレードを戦略的に支えているという事実である。日銀の政策転換は、単に国債利回りを押し上げるだけではない。為替ヘッジ付きの国債購入、米ドル資金の裁定取引、そして世界的なデュレーション需要という、数兆ドル規模の円キャリートレードの巻き戻しを誘発する。日本が本格的に金融引き締めを進めれば、その波及効果は国債の下落だけでなく資産間のレバレッジ解消にもつながる。米国債利回りの上昇、円高、海外のドル流動性の低下、そしてリスク・パリティ取引の強制的な解消などだ。真のショックは国債ではなく、それが引き起こす世界的なレバレッジ解消なのだ


(EndGame Macro)


 日本の国債利回りは人為的に金利の上昇を止めるイールドカーブ・コントロール(YCC)によって、数十年にわたって抑制されてきた。しかし、その人為的価格操作は崩壊しつつある。事態を収束させるために、日銀がYCCや国債購入を再開する可能性はあるだろう。しかし、これは間違いなくインフレ率の上昇を招き、通貨安を招くだろう。


 日本国債相場は世界最大のバブルと呼ばれているが、現在、世界規模で国債バブルが崩壊しつつある。これはキャリートレードの静かな解消である。


「米ドルは通常、債券利回りと非常に近い動きをする。したがって、利回りが上昇するとドルも上昇するはずだ。しかし、数年ぶりにそのつながりが崩れ始めている。これは、ドルを安定させるために金利がさらに上昇する必要があることを示唆している。あるいは、ドルはより深刻な崩壊の危険に瀕している」


(Bravos Research)


ドルインデックスCFD(日足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

米国20年国債金利(日足)


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(赤:金利上昇トレンド・黄:金利低下トレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

米国30年国債金利(日足)


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(赤:金利上昇トレンド・黄:金利低下トレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 われわれは今後も長い間、巨額の財政赤字の世界から抜けられないだろう。デフレは現金のバブル、インフレは現金の劣化である。歴史が教えてくれることは、国民への膨大なマイナスの分配にはインフレが使われる。そして、いつもインフレの犠牲になるのは政府や企業でなく個人である。われわれが資産運用をする究極の目的はインフレへのヘッジに他ならない。


 レイ・ダリオは、「現在、私たちは長期債務サイクルの危険な後期段階にいる。債務資産と負債の水準は、インフレ率に見合った十分な高金利を貸し手である債権者に提供することが困難になるほどの高さにまで上昇している。そうなれば、大幅な金利上昇か、あるいは米連邦準備制度理事会(FRB)による大規模な紙幣発行につながり、通貨価値がさらに下落する可能性がある」と指摘している。


『ブロークン・マネー』の著者リン・オールデンは、通貨制度がいかにあなたから価値を引き出すように設計されているかを論破している。不換紙幣がどのように終わりなき戦争の資金源となっているのか、中央集権的な台帳がなぜ政府にこれまで以上の支配力を与えているのか、そしてシステムに対する信頼が崩れたときに何が起こるのか…。


 ポール・チューダー・ジョーンズは、「米国は支出問題に真剣に取り組まない限り、すぐに破産するだろう」と述べるとともに、「すべての道はインフレに通じる」として、ビットコインとゴールドを含むコモディティをロング、ナスダックのバスケットを保有する一方、利回りのある金融商品からは離れるよう推奨している。


ゴールドCFD(日足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ビットコイン/ドル(日足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

ビットコイン/ドル(週足)


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「この列車を止めるものは何もない。現時点では、今陥っている負債バブルから抜け出す方法を考えることが先決になる。この負債バブルは、このまま行けば、より一層深刻なインフレへと発展してしまうからだ」


(リン・オールデン)


5月21日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 5月21日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、荒地潤さん(楽天証券FX・CFD事業部)をゲストにお招きして、「世界的な国債バブルの崩壊」「円キャリートレードの巻き戻し」「金利の上昇が問題ではない!レバレッジの解消が問題」「日本の金融抑圧は続く」「日本の円安政策は国の実質借金減らしなのか?」「国民の預金を担保にした日本のMMTはそろそろ限界か?」「FX投資家の動向」というテーマで話をしてみました。ぜひ、ご覧ください。


負債バブルが促す世界的な金利上昇と静かなレバレッジの解消
出所: YouTube

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  ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。


負債バブルが促す世界的な金利上昇と静かなレバレッジの解消
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5月21日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー


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(石原 順)

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