金(ゴールド)と原油の価格が大きく上昇しています。中東情勢の悪化が主な要因と考えられます。
金(ゴールド)と原油は急騰状態に
足元、金(ゴールド)と原油の相場が、急騰状態にあります。6月の2週目以降、中東地域に関わる高いリスクを想起させるキーワードが広く報じられているためです。
図:「高リスク」を想起させるキーワードとそこからもたらされるイメージ

「中東で戦争」というキーワードは、1970年代後半のオイルショックや、インフレを想起させ、「核施設を攻撃」というキーワードは、核戦争や放射性物質の拡散、拡大解釈を経て第3次世界大戦などを想起させます。大変に物々しい、イメージが膨らみます。
こうしたイメージが強まってか、以下のとおり、原油と金(ゴールド)の価格は、中東で強いリスクが生じる直前に比べて、大きく上昇しています。
図:主要銘柄の騰落率(2025年6月10日と13日を比較)

日米の株価指数が下落幅を縮めていることを考えると、全体的には中東情勢の悪化を悲観的に受け止めた「初期反応」はいったん収まったと言えます。とはいえ、原油と金(ゴールド)の下げ幅は小幅にとどまっています。これらの市場には、まだ不安心理が残っていることがうかがえます。
トランプ氏も攻撃を止められなかった
以下の図は、交戦状態にあるイスラエルとイランの位置を示しています。イスラエルは地中海に面し(青色)、イランはアラビア湾(ペルシャ湾)の東側(オレンジ色)に位置しています。
図:中東の主要国、ホルムズ海峡の位置およびイランの原油関連データ

イスラエルは長年にわたり、複数のイスラム武装組織と交戦状態にありました。イスラム武装組織とは、同国と隣接するガザ地区のハマスや、レバノンのヒズボラのほか、イランの革命防衛隊、アラビア半島南部のイエメンのフーシ派などです。そしてそれらの組織に資金を提供していたのが、イランでした。
最近まで、イスラエルに同調する姿勢を示してきたのが、米国でした。イスラエルが、ユダヤ人の国家として樹立した歴史を持っているためです。米国国内では選挙の際、ユダヤ系の米国人やイスラエルを支持する人が持つ「ユダヤ票」が、結果を左右するカギの一つといわれ、米国の大企業の重役がユダヤ票の動向に影響できるとされています。
そのイスラエルは、2023年10月に発生したガザ地区のハマスによる同国に対する奇襲攻撃のあと、ガザ地区に対し、断続的に大規模な報復攻撃をしかけました。その後、ヒズボラやフーシ派、イラン革命防衛隊などと交戦が目立ち始めました。
これを受け、米国国内ではガザ地区に住むパレスチナ人を擁護する声が大きくなり、米国の「親イスラエル」の姿勢は徐々に弱くなっていきました。
こうした動きも後押ししてか、2024年5月、イスラエルの国連大使は国連総会の壇上で、パレスチナの国連への正式加盟を支持することは国連憲章に反するという主張を、同憲章が書かれた紙を小型のシュレッダーで裁断するという行動で表しました。イスラエルの国際的な孤立が決定的になった場面だったと、筆者は振り返っています。
また、イランは、トランプ政権の2期目が始まってから、核開発について米国と数回にわたり協議を行いました。「平和利用」だと主張するイランと、核兵器製造につながりかねない開発を停止するよう呼びかける米国の考えは平行線をたどりました。
イランの核開発は、イスラエルにとって脅威です。核開発の進展を目の当たりにし、孤立状態に陥りつつあるイスラエルは、米国の静止を振り切り、イランの核施設に攻撃しました。
図:日本の原油輸入量、中東8カ国からの原油輸入量および依存度

上の図のとおり、日本は中東の産油国に強く依存しています。報道では「およそ8割」とされるケースが多いですが、2023年のデータを確認すると、9割を超えている可能性があります。イランが「ホルムズ海峡封鎖」のカードを切った場合、甚大な影響を受けます。
こうした「テールリスク(起きる確率は非常に低いが、起きた場合の影響が甚大なリスク)」の存在も、足元の原油相場を押し上げる材料になっていると言えます。
原油:急反発によって元のレンジに戻った
以下のグラフは、原油の国際的な指標の一つであるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油※先物の、日々の安値の推移です。今回の急反発によって、2022年の後半から続いていた80ドルを挟んだプラスマイナス15ドルのレンジに戻りました。
※WTI原油:米国の西テキサス地域で産出されるガソリンなどを比較的多く抽出できる原油。West Texas Intermediate。
図:NY原油先物(期近)日足終値 単位:ドル/バレル

レンジ相場とは、上昇と下落、両方の圧力に挟まれ、価格が一定の高値・安値の間で推移している状態のことです。足元の原油相場にかかる上下の圧力は、以下のとおりです。
図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年6月)

トランプ氏、OPECプラス、ともに上下の圧力をかけています。こうした中で最も強い圧力をもたらしている材料が、トランプ氏が止められなかったことが一因で発生した、今回の中東情勢の混乱です。
世界に大きな影響力を行使するトランプ氏でも、イスラエル、イラン、双方の動きを止めることができなかったことは、今回の交戦状態が(昨年と異なり)長期化する懸念を強めています。われわれは今、ホルムズ海峡封鎖や、核兵器を用いた戦闘など、これまで強く想定してこなかったリスクをも念頭に置かなければならなくなっているのかもしれません。
金(ゴールド)も短期的な反発
以下は、海外と国内の金(ゴールド)相場の推移です。現在も、2010年ごろから発生した長期視点の上昇トレンドが継続していることが分かります。
図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年1月~2025年6月)

以下の図のとおり、今回の中東情勢の悪化によって強まっている「有事ムード」も、株価が急反落した際に集まる「代替資産」需要も、短中期的な材料だと考えられます。
先述のとおり、中東情勢の悪化が継続すれば、今後もこれらの材料がもたらす上昇圧力を受け、金(ゴールド)相場は、短期的に上値を伸ばし、その結果、国内・海外ともに史上最高値を更新する可能性があると筆者は考えています。
とはいえ、「有事ムード」も「代替資産」も、情勢の変化を受けて短期的な下落圧力をもたらす材料になることもあります。ただし、中長期の「中央銀行」、超長期の「世界分断」は、今後も長期視点の上昇圧力をかけ続けると筆者は考えています。
図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年6月時点)

長期視点では、金・原油ともに高止まりか
今回の中東情勢の悪化の一因を「世界分断」とした図が以下です。「戦争勃発・悪化」の一因に世界分断があり、その世界分断は以前の「 急落時の避難先、金(ゴールド)はポートフォリオの何%が最適解か? 」で示したとおり、世界の民主主義の停滞によって起きていると考えられます。
世界の民主主義の停滞は、長期視点の根深い要因で発生していると考えられます。このため、世界の民主主義の停滞は長期化し、それにより世界分断も長期化する可能性があります。
金(ゴールド)も原油も、この世界分断をきっかけとしたさまざまな影響を受け、価格が長期視点で支えられると筆者は考えています。
図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景

今、「戦争」という目に見えやすい材料が目立っている時だからこそ、世界分断や民主主義の停滞の原因である根深い要因という、目に見えない材料に目を配る必要があると筆者はみています。
[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中期:
関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)