景気と物価の関係、金利を動かす日本銀行の役割など、金融経済の超基本を分かりやすく解説。「最近のインフレは良いこと?」「金利は何が原因で動く?」「日銀は何のために利上げする?」といった、今さら聞けない疑問に答えます。


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▼著者:菱田雅生(ひしだ・まさお)


金利&物価上昇の背景を、正直FPヒッシー先生が分かりやすく解説!

1993年早稲田大学法学部卒、同年山一證券入社。98年同社の自主廃業を機に独立系FPに。2008年ライフアセットコンサルティング設立、代表取締役就任。「正直FPヒッシー先生」の愛称で、金融商品や保険商品を一切売らないFPとして活動。金融機関や企業向けセミナーなどで、正しいお金の知識を普及促進している。


 


 


 


 


たった1%の消費増で3兆円!?個人が動かす経済のしくみ

 そもそも経済とは、教科書的にいうと、私たち人間の生活に必要なモノやサービスを生産・分配・消費する活動のことをいいます。


 モノやサービスを【生産】することで生み出された付加価値(=利益、もうけ)は、働く人への給与や、出資者への配当として【分配】され、それが消費や投資へ【支出】されます。これが、【生産】=【分配】=【支出】という等式が成り立つ「三面等価の原則」と呼ばれています。


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三面等価の原則

 このような経済活動は、国(政府)や企業だけでなく、個人の家計においても日常的に行われています。また、政府・企業・家計の経済活動は、それぞれが影響し合いながら回っているともいえるのです。


 例えば、レストラン(企業)と、社員やスタッフ(家計)の経済活動を見てみましょう。


  • 料理を作ってお客さまに提供する=生産
  • 社員やスタッフに給与を支払う=分配
  • 社員やスタッフがお金を使う=支出

 そして、これを日本の国の全体で見たものが国内総生産(GDP)です。簡単に言えば、1年間で日本全体ではどのくらいのお金がもうかったのか、それがGDPです。


 2025年1-3月期のGDPを、物価変動による影響を差し引いた実質ベースで1年間に換算すると、約562兆円でした。支出面から見たGDPの構成割合では、全体の約53%に相当する約300兆円が民間最終消費支出(いわゆる個人消費)となっています。


 個人消費が約300兆円ということは、たった1%増えただけでも約3兆円のプラスの経済効果です。個人消費が日本経済に及ぼす影響は非常に大きいということが分かります。


 ちなみに、GDPの前期比または前年比の増加率のことを「経済成長率」といいます。


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GDPのうちの個人消費率はどれくらい?

景気と物価はどう関係している?インフレ・デフレのしくみ

 次に、「景気が良い」とか「景気が悪い」といわれる際の「景気」について見ていきます。そもそも「景気」とは、経済活動の状況のことを指していて、その時々で良くなったり悪くなったり、波のように循環して動くものです。


 例えば、企業の経済活動で、景気の良い悪い(好景気・不景気)を考えてみましょう。


 モノを作って販売している企業の場合、好景気とは、モノが売れて売上や利益が増えていく状態。社員の給与を増やしたり、新たな工場や店舗を造ったりすることができます。株価も上がっていくでしょう。さらにモノを買う人が増えて、モノが売れ、売上や利益が拡大していく良い循環になります。これがまさに景気が良い状態です。


 一方、不景気だと、モノが売れないため売上や利益が減っていきます。社員の給与の減少、工場や店舗の閉鎖、株価も下がっていくことでしょう。さらにモノを買う人が減り、モノが売れなくなり、売上や利益が縮小していく悪い循環になります。これがまさに景気が悪い状態です。


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景気の良い悪い(好景気・不景気)

 そして、この景気の波(循環)は、モノの値段(=物価)にも影響を及ぼします。


 好景気で多くの人の給与が増えれば、個人消費が活発になり、モノを買う人が増えてモノの値段は上昇していきます。これが、インフレーション(物価上昇)、略して「インフレ」です。


 一方、不景気で多くの人の給与が増えない、または、給与が減る状況になると、個人消費が冷え込み、モノを買う人が減って、モノの値段は下がっていきます。これが、デフレーション(物価下落)、略して「デフレ」です。


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急な物価上昇は本当に悪か?「緩やかなインフレ」が経済を育てる理由

 最近の日本では、平成バブル崩壊以降の「失われた30年」ともいわれた長く続いたデフレ状態が遠い過去の出来事であるかのように、一気にインフレへと変わってきています。


 総務省が発表している消費者物価指数(総合指数)(CPI)で見ると、


2022年…前年比+2.5%
2023年…前年比+3.2%
2024年…前年比+2.7%


というように、3年連続で2.5%以上の物価上昇を記録しています。これは1980~1982年以来、42年ぶりの水準です。まさに今、昭和の時代のインフレが起きているともいえるでしょう。


 最近のインフレの問題点は、働く人の賃金上昇率がインフレ率(物価上昇率)よりも低いと、生活に困窮する人が増えてしまうという点です。


 大企業を中心に、物価上昇率よりも高い賃金上昇率を提示している企業もありますが、中小・零細企業では、原材料価格の高騰などで利益が増えず、賃金を上げられない企業も多いようです。


「じゃあ、インフレよりもデフレのほうがいいのか?」というと、そうではありません。


 健全な経済成長には「緩やかなインフレ」が必要なのです。


 モノの値段が緩やかに上がっていく状態だと、値上がりする前に買いたいと思う人が増えます。消費者の購買意欲が高まっているのを受けて、企業は商品やサービスの生産を拡大します。企業の収益がアップすることで賃金も上昇し、買い物をする人が増えて物価が上昇していく。


 このような循環が続いていくことが、健全な経済成長につながります。だからこそ、日本銀行は2013年に、物価安定の目標として「物価上昇率2%」を設定し、現在まで継続しているのです。


金利&物価上昇の背景を、正直FPヒッシー先生が分かりやすく解説!
緩やかなインフレは健全な経済成長に必要
 

インフレで金利はどう動く?お金の価値と日銀の役割を知る

 インフレ(物価上昇)は、世の中の「金利」にも影響を及ぼします。金利は、まさに金融に大きく関わるものです。


 そもそも金融とは、「お『金』 を『融』通する」ことが由来だとされています。

つまり、「金融=お金の貸し借り」です。お金を貸し借りする際には、お金の貸借料ともいえる金利のやり取りをするのが、昔から世界共通の経済原則となっているのです。


 多くの人にとって身近な金利は、預貯金金利や住宅ローンの金利などでしょう。最近ようやく預貯金金利が少し上がってきて、一時は普通預金で0.001%だったものが0.2%程度まで戻ってきました。超低金利時代から普通の低金利時代になった感じでしょうか。住宅ローン金利も、ここ1、2年で少し上昇傾向になっています。


 このような金利は、さまざまな要因で動いています。主に以下の五つが挙げられます。


  • 景気
  • 物価
  • 為替
  • 株価
  • 金融政策
  •  五つの要因の動きと金利の方向性についてまとめると、教科書的な動きとしては下図のようになります。


    金利&物価上昇の背景を、正直FPヒッシー先生が分かりやすく解説!
    金利が動く五つの要因

     この中で特に物価との関係性について、もう少し分解してまとめると…


     モノの値段の上昇が続くと、上がる前に買おうとする人が増えます。お金を借りてでも早く買おうとする人も増えます。お金の需要が高まることで、お金の貸借料である金利も上がっていくのです。


     逆に、モノの値段の下落が続くと、もう少し下がるまで買うのを待とうとする人が増えます。お金を借りてまで買おうとする人は減っていきます。お金の需要が減ることで、お金の貸借料である金利も下がっていくのです。


    金利&物価上昇の背景を、正直FPヒッシー先生が分かりやすく解説!

     また、物価の動向は、日本銀行の金融政策にも大きな影響を及ぼします。年2%の物価上昇の目標を掲げているとはいえ、物価がどんどん上がっていくことは日本銀行として好ましくありません。なぜなら、「お金の価値」が下がってしまうからです。


     お金の価値とは、日本でいえば、1万円札などの日本円の価値。それは、日本銀行の信用度そのものです。


     お金の価値が下がる=日本銀行の信用度が下がる


     日本銀行が物価の安定を目指しているのは、日本銀行の信用度を守るため、つまりは、お金の価値を守るためなのです。


     従って、お金の価値がどんどん下がる過度な物価上昇は、日本銀行としては何としても食い止めなければなりません。だからこそ、金融政策として「利上げ」(=金融引締)を行って、景気の過熱を冷ますように働きかけるわけです。日本銀行など世界の中央銀行が「インフレ・ファイター」と呼ばれるのはこのためです。


     つまり、今後さらに日本銀行が利上げを行うのかどうかは、過度な物価上昇が続くのかどうか、景気の過熱が起きるのかどうか、などがキーポイントになってくるといえるでしょう。


    (トウシル編集チーム)

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