日本は長らく続いたデフレからインフレへの転換が見られます。「株はインフレに強い」といわれますが、業種や銘柄によって差があると考えられます。

今回は、「インフレで価格が上昇しやすい資産を保有」していて、「個人消費に左右されにくい」という特徴をもつ5銘柄をご紹介します。


原油、ビットコイン、不動産…インフレに強い資産をもつ日本株5...の画像はこちら >>

日本はデフレからインフレの時代に

 日本の金利が上昇傾向にあります。7月15日、日本の長期金利の指標となる10年物国債利回りは1.595%と、2008年10月以来およそ16年9カ月ぶりの水準まで上昇しました。背景には、米国のインフレが再加速する警戒感で米長期金利が上昇したほか、参議院選挙をめぐる思惑などがあります。


 内閣府や経済産業省など政府機関から正式な「脱デフレ宣言」は出ていません。


 ただ、総務省が公表する消費者物価上昇率は、2022年4月あたりから急上昇し、2022年度の消費者物価指数(2020年=100)は、値動きの大きい生鮮食品をのぞいた総合指数(コアCPI。※以下の消費者物価指数はいずれもコアCPIを指す)が前年度比+3.0%と、第2次石油危機があった1981年度(同+4.0%)以来、41年ぶりの高い伸びとなりました。


 2023年度は同+2.8%、2024年度は同+2.7%と伸び率は鈍化していますが、モノの値段は上がり続けています。


 2024年12月の前年同月比+3.0%以降、2025年6月まで同3.0%台を維持しており、令和の米騒動の影響を受けた5月は同比+3.7%と2023年1月(同比+4.0%)以来とインフレは再加速気味です。


 今後、6月のボーナスなどが影響して、8月上旬に公表される物価の変動を反映させた6月の実質賃金はプラスとなりそうですが、プラスを継続できるかどうかは「ほどよいインフレ」に向かう大きなポイントと考えます。


 この場合の「ほどよいインフレ」は、「モノの値段は上昇するが、賃金はそれ以上に伸びていく状況」を指します。1950年代半ばから1970年代初頭にかけての高度経済成長期のようなイメージです。


 さすがに世界4番目の経済大国である日本が60年前のような高い経済成長を続けるのは厳しいですが、インフレ時代を社会人として体験したことがない50歳前半までの方は、高度経済成長期をイメージとして持つのが理解しやすいでしょう。


「株はインフレに強い」注目すべき銘柄は?

「株はインフレに強い」と一般的にいわれています。なぜなら、販売しているモノやサービスの価格が上がれば企業の収益が増加し、株価は上昇しやすい環境になるからです。


 一方、インフレへの警戒感から株価が下がるというケースもあります。日本銀行は急激なインフレを抑えるために、金融政策として金利を引き上げ、市中に出回るお金の量をコントロールします。結果、株式市場にお金が向かいにくくなるため、急激な金利の上昇は株価にとってはマイナス要因となります。何事も「適度」「いいあんばい」が大事です。


 では、インフレとなった場合、どのような業種、銘柄が注目されるでしょう。


「金利上昇なので、利ザヤビジネスを展開している銀行は上がりやすい?」
「有利子負債が多い不動産は上がりにくい?」
「価格転嫁しやすい小売業は安定した利益を出しやすい?」


 こうした考え方が一般的にある一方で、視点を変えると、


「金利上昇した場合、借金をする人も減少するので、そこまで利益は上がらないのではないか?」
「不動産の価値も上昇することから、不動産を多く保有している不動産企業の資産価値は上がるのではないか?」
「個人消費意欲が価格上昇によって低下した場合の反動は大きくなるのではないか?」


といった考え方もあります。


インフレに強い資産をもっている銘柄5選

 今回は下記2点を基準に銘柄を選びました。


「インフレ状況下、価格が上昇しやすい資産を保有」
「個人消費に左右されにくい」


 個人ではなく企業を相手に事業展開している会社をイメージしています。つまり「B to C」ではなく、「B to B」です。そして、もう一つは、インフレ状況下で価値が上昇する何かしらの資産を保有していることで、資産価値の上昇が期待できることです。


 デフレ下では、不動産を保有しても価値が目減りする一方なのでネガティブですが、インフレで不動産の価値が向上すればポジティブな評価になるという考えです。


 これらを前提として5銘柄ご紹介します。

なお、大きく分けると、インフレは日本だけのインフレと世界的なインフレの2パターンが考えられますので、その観点も考慮しています。


銘柄名 証券コード 株価(円)
(7月23日終値) 特色 INPEX 1605 2,069.5 天然ガス・原油の埋蔵量・生産量は国内トップ メタプラネット 3350 1,238 ビットコイン保有量は国内トップ 住友金属鉱山 5713 3,570 高品位で高含有量を誇る菱刈鉱山を保有 三井物産 8031 3,142 総合商社では資源事業の割合が最も高い 三菱地所 8802 2,839 丸の内の大家さんは不動産価格上昇が追い風に

INPEX<1605>

 天然ガスと原油の埋蔵量と生産量ともに国内1位を誇っています。世界的なインフレにより天然ガスや原油価格が上昇した際、保有している資源の鉱区にかかる権益の価値が高まるため、同社のような鉱業各社に恩恵が大きくなります。


 天然ガスや原油は、世界経済の好不況に左右される傾向はありますが、トランプ米大統領が推し進めるエネルギー政策は価格押し上げ効果がありますので、米国から追い風が吹いているとも考えます。


メタプラネット<3350>

 国内上場企業では最もビットコインを保有しており、7月21日時点で1万6,352枚と世界の上場企業ランキングでも5位の保有量を誇っています。同社は「555ミリオン計画」において、2026年末までに10万ビットコイン、2027年末までに21万ビットコイン以上の保有を目指す中長期戦略を明示しています。


 ビットコインの価値はインフレ時に高まるといわれていますので、保有枚数を膨らませる同社の資産価値も右肩上がりになる可能性はあります。


 一方、ビットコインは誕生して歴史が浅いことから、インフレの状況下、価値が高まるかどうかの検証は、ほかの資産より乏しい現実はあります。価格の乱高下が激しいなどビットコイン特有のリスクを秘めていることも注意すべき点だと考えます。


住友金属鉱山<5713>

 日本最大の金埋蔵量を有する鹿児島の菱刈鉱山を保有しています。同社はカナダにも金鉱山を保有していますが、菱刈鉱山は鉱石1トンあたりの金の平均含有量が約20グラムと世界標準の約5倍と高い含有量と高い品質を誇っています。


 金はインフレだけではなくリスクが高まった際、価値が高まりやすい典型的な資産です。これまで、金価格が上昇する過程で、同社に対する思惑買いは度々ありました。特段ひねりのない銘柄選定かもしれませんが、オーソドックスなインフレ関連銘柄といえます。


三井物産<8031>

 総合商社では、最も利益に対する資源事業の割合が高い企業です。鉄鉱石、天然ガス・原油では国内首位を誇っています。

総合商社ですので資源以外でも幅広い事業を展開していますが、オーストラリアでのリオ・ティント、BHPビリトンとの鉄鉱石事業が高い存在感を示しています。


 著名な米投資家ウォーレン・バフェット氏が総合商社に投資を行っていることで、個人投資家の関心も高いですが、世界的なインフレで鉄鉱石や天然ガス・原油など資源価格が上昇した際は、より高い関心が向かうと考えます。


三菱地所<8802>

 国内企業で最も有形固定資産(土地+建物)を保有しています。2024年度の有価証券報告書に記載されている2025年3月31日時点では、4兆8,544億円と時価総額を超える金額が記載されています。


 特に東京駅周辺の丸の内エリア一体の土地を所有・管理していることから「丸の内の大家さん」と呼ばれています。1890年代に明治政府から払い下げられたことがきっかけですが、丸の内を日本有数のオフィス街に育てたことで圧倒的な資産を有することとなりました。


 日本がインフレとなった場合、不動産価格の上昇が期待できますので、丸の内エリアの資産価値は自然と上がっていくでしょう。


(田代 昌之)

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