教育投資ジャーナリストの戦記さんは、子どもがお金に苦労しないためには、学歴や就職より金融リテラシーが重要だと話す。高学歴・高収入の商社マンでも「億り人」は意外に少なく、その理由に過剰支出や不動産集中投資があると言う。

自身がリーマンショックでの失敗経験を活かし、娘に早くから株式投資を経験させ、複利効果について教えている。


三井物産の億り人は意外な職種?金融危機時の爆損土下座と中1娘...の画像はこちら >>

 こんにちは、教育投資ジャーナリストの戦記( @SenkiWork )です。


 金融資産形成の鍵は、学歴やその先にある就職ではなく「金融リテラシー」だと僕は考えています。それでは、リアルな世界をのぞいてみましょう。全2回シリーズの第2回目です。

前回:三井物産のプロビジネスマンの残念な資産運用。お金持ちの条件は、学歴でも職歴でもなく、「金融リテラシー」:戦記さん


三井物産社員の億り人比率は20%?

 僕は2000年新卒で三井物産に入社しましたが、2000年は就職氷河期のどん底でした。大卒の有効求人倍率は0.99倍とひどい時代でしたが、それでも同期は約120名。2025年現在、そんな同期たちも50歳にさしかかろうとしています。


 同期は人間的にも良い人ばかりです。たまに僕も飲み会に呼ばれて「戦記君」として弄られることが増えてきました。有価証券報告書や四季報で公開されている通りだとすれば、参加者全員が年収2,000万円を超えている世界。その教育投資事情を聞くと、すごいと思わされることばかり。


「ほぼ全員が、一度は海外駐在を経験しているよね。つまり、子どもは帰国子女ということになるけど、英語はできて当然で、第二外国語が大事になってくるよね、という世界観だよな。」


「北米、欧米、アジア、オセアニア。どこに駐在しても基本的にはインターナショナルスクールに我が子を通わせることになる。学費は円安もあって、まあ一人当たり年間500万円超は普通だと思う。海外の教育コストは本当に高い。会社からの補助があっても、家計は苦しいよ。」


「給料や海外駐在手当がいくら良くても、我々は使う生き物だからね。教育、不動産、車、ゴルフ、飲み会、その他諸々。自分たちは生活が派手だとは思っていないから、当たり前と思う基準値が高いだけなのだとは思うけど。」


 要するに、「高収入・高支出」の家計構造になっていることが分かります。僕のざくっとした推定ですが、アラフィフ同期で1億円以上の金融資産形成に成功したのは、多くても20%程度ではないかと思います。


意外な職種が億り人だった・・・

 その後、三井物産時代の先輩Cさんとランチをご一緒する機会を得ました。灘から東大に進み、三井物産で一緒に働かせてもらった方です。以下は、その時の会話。


Cさん:「戦記君が持っている、アラフィフ物産パーソンの億り人比率が最大20%という仮説だけど、ないない、そんなにないね。

高くて10%だな。50代半ばでも、そんなにいないのが実態だから。灘生は結構ざっくばらんに会話するから分かるけど、他の総合商社も、億り人なんて少ないぞ。」


戦記:「え? マジですか?」


Cさん:「まず、多くの人が自宅マンションのローンが残っている。不動産への集中投資だな。まあ、住んでいるマンションの含み益がどれだけ上がっても、売却して利確は事実上できないから、引っ越さない限りあまり意味ないよな。不動産は配当金を産まないし。」


戦記:「居住型不動産の利確って、案外難しいですよね。」


Cさん:「総合商社業界の給料は確かに日本基準としては高いけど、振り返ってみると、毎日社内飲み会をやっているようなカルチャーだから、とにかく貯まらない。ゴルフも盛んだし。金融資産をつくりづらい環境だったよな。まあ、よくぞあんだけ飲んでいたと思うし、楽しい会社員人生だったから後悔はしていないけど。」


戦記:「たしかに、毎日飲んでいましたよね。」


Cさん:「あと、物産株の上昇は素晴らしいことだが、戦記君も知っての通り、社内でも誰も今の状態を想定していなかっただろ。2000年初頭なんて400円くらいだったよな。その後、ピークで4,000円、現在で3,000円だ。持株会にフルベットしていた人も、2018年の1,000円くらいで利確した人が大半だね。

それが合理的な行動であったのは間違いない。我々の問題点は、自分たちは大学受験含めて頑張ってきたから学歴が高いし、学力も高い、だから合理的な判断をする、と思ってしまうことなんだよな。」


戦記:「まあそうですよね。株価1,000円なんて夢の時代でしたから。」


Cさん:「それでこれがまた面白いのだけど、社内持株会に入社以来フルベットしていて、利確もせずに持ち続けて、総合商社業界のバフェット効果以降の株高を享受して、それだけで億に近い金融資産形成に成功したのは、誰だと思う?」


戦記:「えええ! そんな人がいるんですか? いたら神ですよ、神!」


Cさん:「実は、総合職ではなくて、旧一般職の方々が多いんだよ。すごい投資センスだよな。結局、給与所得の高さでは人生は決まらなかった。入社から定年までの持株会制度の補助率を有効活用して長期分散積立投資を継続した、旧一般職軍団の勝ち。物産はほんと人材の宝庫だと思う。」


戦記:「これは深いですね…。結局、給与水準ではなく、長期分散積立投資を堅持した人が、資産形成という観点では勝利したんですね。驚きました。」


 このように、給与所得の多寡と金融資産形成は、実は直接つながっているようで、つながっていないのが現実のようなのです。


戦記君2009年の反省:リーマンショックと土下座

 僕自身は小学生時代からコツコツと資産運用をしてきた人間です。


 記録によれば、僕の最初の資産運用は1985年(昭和60年)1月7日。小学生時代は郵便貯金の定期預金で5%以上の金利を獲得していました。これにより、小学生時代には金利が金利を生むという複利効果を発見して驚いたことを、今でも覚えています。


 僕はその後もコツコツと資産運用をしてきました。個別株にも投資しつつ、2007年からは当時国内でも有力だった某投資信託(株式50%、債券50%)や国内個別株に投資し、コツコツ増やしました。


 そして、2008年のリーマンショックを迎えました。投資信託や個別株が暴落すると同時に、僕自身のMBA受験での塾代支出、そして妻の出産が重なり、2009年7月末時点では金融資産はほぼゼロという痛い目に遭いました。


 最後は、情けない事態になりました。


戦記:「(妊娠中の妻に土下座して、震える声で)…すいません。家計のお金を溶かしてしまい、400万円損をしました。毎日流れてくるニュースにおびえて、MBA留学の英語の勉強に集中できません。申し訳ありませんが、400万円で損切りさせて下さい(涙)。」


 僕は2007年から日記をつけているのですが、2009年7月1日(水)にはこう書いてあります。


「朝、妻とゆっくり起きる。焼きそばを食べる。ふと、損切りをすべきだと考える。

個別株、投資信託、共に解約する。株は700万円→378万円(マイナス322万円)、投資信託は300→234万円(マイナス66万円)。合計で約400万円のロス。もう、今後の人生で二度と投資をすることはないと思う。今日は、新しい人生が始まる日。」


 バランスよくポートフォリオを構築していたつもりが、単なる自己満足であったことが分かった日でした。要するに、長期分散積立投資をしていなかったので、ストレスに耐えきれなくなったのです。


中1娘の金融リテラシー向上に生かす

 僕は僕自身の反省、そして三井物産の先輩方からの学びを生かして、娘には中学1年生のときから二つの資産運用の経験をしてもらっています。


 一つ目が、中1で自分の証券口座を開設させて、お小遣いや入学お祝い金など含めた100万円をGAFAMに投資するというもの。2022年4月に運用開始し、12月にはマイナス33万円の含み損まで経験しましたが、2023年6月には+7万円で利確しました。理由は「7万円のトレンチコートが欲しかったから」。


 この体験から、中学生が米国個別株投資を行うには、(1)夜起きている必要がある、(2)配当金などの確定申告が大変なことが分かり、その後はS&P500投資信託への投資を一貫して実施しています。娘はお小遣いや各種お祝い金をコツコツと積立投資して、本原稿を書いている現在では、時価評価は約290万円(約+90万円)と増加しています。


 二つ目が、娘が、自分の中学・高校・大学の学費である1,600万円を運用する実験です。僕がS&P500投資で利確した1,600万円を原資としましたが、あくまでも僕の証券口座内での運用ですので、娘へ贈与したわけではなく、僕が最終意思決定をする仕組みではありますが。


 二人で議論した結果、「娘が1,600万円の運用に期待することは、大学受験向けの塾代(年間60万円)を投資で賄うことだ」との結論になったので、S&P500の中でも特に高配当な銘柄に絞って投資する上場投資信託(ETF)「SPYD(SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF)」で運用しています。


 インカムゲインで塾代を賄うという発想です。配当金を税引き後4%と仮定すると、約64万円になりますので、塾に通えることになります。


 それでは、なぜ、このような運用経験が大事なのか。


 それは、中学高校時代に実際に運用する経験を持ち、複利効果の偉大さ(と怖さ)を実体験しておくことで、大学時代に金融リテラシーの重要性に目が向きやすくなると考えるからです。


 大学時代に金融リテラシーに目覚めておかないと、独立した家計として給与所得を得る社会人時代に以下の式の重要性を理解するのが遅れてしまいます。


将来の金融資産 =(収入-支出)x (1 + 運用年利回り%)^(年数)


 これと似た数式が、2002年初版の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計入門』(橘玲さん著)で紹介されていますが、僕は娘に対して複利効果の重要性を説くことが多いので、「^(年数)」をいつも強調しています。


 ここで、シミュレーションをしてみましょう。


 22歳から40歳までの18年間、毎年いくらをS&P500運用(運用利回り6%での複利と仮定します)に回せば、40歳時点で億り人になれるでしょうか。計算結果は以下の通りです。


■毎年の追加投資額:40歳時点での時価評価額
(1)50万円:1,688万円
(2)100万円:3,376万円
(3)200万円:6,752万円
(4)300万円:1億128万円


 つまり、毎年コンスタントに「(収入-支出)」の余剰資金を捻出し、追加投資できるようにすることが大事なのです。当然、高収入は金融資産形成には有利になりますが、高支出で追加投資ができなければ、金融資産を形成することは難しくなります。


 そう、「高収入は、億り人になるための十分条件ではない」のです。


 大事なのは、「(1)家計を黒字にして、(2)余剰キャッシュで資産運用して、(3)長期分散積立投資で時間的複利効果を得る」ことなのです。


 僕は高1娘に月初にお小遣いをあげていますが、その際には、娘が運用している自分のお小遣いのポートフォリオと、娘の意見を取り入れて僕の証券口座で運用している1,600万円の投資成果について、経済やマーケットの動きと併せて説明するようにしています。


 このような早いタイミングでのリアルな投資体験が、その後の金融リテラシー強化につながります。給与所得を得る社会人Day1から資産形成のスタートラインに立てることの重要性は、「投資期間が長いほど複利効果を得られるので、早いほど有利」だとすれば、理解しやすいはずです。


 学歴よりも、就職よりも、金融リテラシーを授けることが、「お金に苦労しない、独立した子ども」にしてあげるための、大事な親の仕事ではないでしょうか。


(戦記)

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