9月に入り急速に円安が進行。今後の日本の政局次第ではさらに円安に進む可能性もあります。

今週は米雇用統計の発表も相次ぎ、波乱の材料になり得るか警戒が必要です。トランプ関税についても違憲の判断が出ており、米国債の動きには注目したいと思います。


9月からの円安加速の背景。米雇用統計で利下げペースは早まるの...の画像はこちら >>

9月から急速な円安進行。日本の政局やFRBなど波乱材料が多いことに警戒

 8月のドル/円は、米7月雇用統計の悪化によって150円台から円高に進んだ後は、146円台前半から148円台後半を行き来しました。


 そしてジャクソンホール会議でのパウエル議長の利下げ可能性示唆があっても、米連邦準備制度理事会(FRB)への政治介入があっても、ベッセント財務長官の日米金融政策に関する発言(FRBは1.5~1.75%の利下げ余地、日本銀行は利上げの遅れを指摘)があっても146円を割れませんでした。市場は実際の利下げを待っているようです。


 9月に入ると、2日には日本からの材料で急速に円安が進みました。背景は、日銀の氷見野良三副総裁の講演がハト派的な内容であったことや日本の政局不安でした。


 氷見野副総裁の講演は、経済・物価情勢の改善に応じて利上げを継続していく姿勢が示された一方で、トランプ関税の影響や足元の物価上昇を慎重に見極めた姿勢が示されるなど、追加利上げに踏み込んだ発言がなかったため円安に反応しました。その後自民党の森山裕幹事長の辞意表明など日本の政局不透明感が円安を後押ししました。


 ドル/円は、147円台前半から149円手前まで円安に動きました。NY市場では、8月米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数が48.7と前月を上回りましたが、予想を下回り、引き続き好不況の分岐点である50を下回ったことからドル安となり、一時148円を割れる円高となりました。


 しかし、財政規律を重視する石破茂首相退陣となれば、財政悪化懸念が高まり、長期金利の上昇を伴った円売り圧力が続くことが予想されます。石破首相は支持率上昇を受けて続投を表明していますが、自民党内では反対意見も多く、臨時総裁選の賛否を8日に判断する予定となっています。


 続投となれば、円売りの巻き戻し(円高)、退陣となれば円安がさらに進むことも予想されるため注意が必要です。


 一方で、今週は3日から米国の雇用指標の発表が相次ぐため、148円台後半で様子見相場となっています。3日は7月雇用動態調査(JOLTS)求人件数、4日は8月チャレンジャー人員削減数、8月ADP雇用統計、そして、5日には8月雇用統計が発表予定です。毎月のことですが、5日の雇用統計前にこれらの雇用指標で上下に動くことが予想されるため注意が必要です。


 5日の8月米雇用統計では、パウエル議長が指摘した雇用の下振れリスクが続いているのかどうかが注目です。非農業部門雇用者数(NFP)の低調が続くかどうか、失業率が上昇するかどうかに注目したいと思います(8月予想:前月+7.3万人より低下の+7.0万人、前月4.2%より上昇の4.3%)。


 また、過去2カ月分の修正にも注目です。雇用統計調査の回収率は速報値段階で70%程度、改定値段階で90%程度、確報値段階で100%の回答率とのことですが、速報値段階での回収率は調査人員の削減などにより最近では低下しているとのことであり、先月の大幅下方修正(過去2カ月分でマイナス25.8万人)は速報値の回収率が低かったために生じたのかもしれません。


 このように非農業部門雇用者数は、速報値→改訂値→確報値と2回修正されますが、改訂値から確報値の修正ではさらに下方修正されることが多いようですが、上方修正される場合もありますので注意が必要です。


 9月は、16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ期待からドルの上値が重い展開が予想されますが、0.25%利下げはほぼ織り込まれていることから、利下げが決定されてもドル安・円高の動きは限定的になるかもしれません。


 大幅に動くためには、5日の米雇用統計が低調となり、11日の消費者物価指数(CPI)が抑制的な動きを示すことによって0.50%の大幅利下げが決定されるとか、あるいは0.25%の利下げでも年内3回(9月、10月、12月)の利下げが示唆されるとか、あるいは18~19日の日銀会合で利上げに一歩踏み込んだ発言が出ない限り、円高進行は緩やかな動きになるかもしれません。


 逆に雇用統計が堅調な数字となり、CPIが予想以上に上昇していれば、9月の利下げに慎重になるのではないかと市場の利下げ期待が後退することも予想されるため注意が必要です。それでも10月のFOMCでの利下げ期待は残ることが予想されるため、ドル高の動きも限定的になると思われます。仕切り直して10月発表の米雇用統計と物価が注目されることになります。


 また、FRBに対する政治介入が高まっていることにも注意したいと思います。8月に入って、FRB理事達への辞任・解任工作が現実の動きとなってきており、パウエル議長に対して外堀が一層埋められてきました(9月のFOMCでは理事7人の過半数が利下げ派の可能性も)。9月のFOMCが近づくにつれてパウエル議長への利下げ圧力、解任圧力がさらに強まることも予想されます。


 しかし、トランプ大統領が強硬に出過ぎるとFRBの独立性懸念から米国の信認低下につながることも予想され、金融・為替市場の波乱材料になるため注意したいと思います。


トランプ関税のコストは消費者へ?

 トランプ関税については市場のかく乱要因ではありますが、不確実性が後退しているため、あまり大きな材料にはならないかもしれません。それよりも追加関税による経済への影響がより出てくることが予想されるため、個々の経済指標に注目したいと思います。


 ゴールドマン・サックスの調査によると、これまでトランプ大統領の関税によるコストの大部分は米企業が負担してきましたが、今後はその負担が徐々に消費者に移っていく見通しと分析しています。調査レポートによると、米国では6月までに関税コストのうち推定22%を消費者が負担しているが、今後は67%まで上昇すると指摘しています。


 一方、米企業はこれまで関税コストの約64%を負担してきたが、今後は10%未満に低下する見通しとのことです。また、海外の輸出業者は関税コストの約14%を負担したとみられるが、今後は25%まで上昇する可能性があるとしています。


 つまり、トランプ関税のコストは今後、米企業の負担が減って米国消費者の負担が増えるということになります。企業から消費者へ価格転嫁が進むことによって物価が上昇するということになります。海外の輸出業者(例えば日本の自動車メーカー)はコスト負担が増えて、収益が圧迫されるということになります。


 一方で、関税による物価上昇を嫌気して消費は慎重になり、景気は後退し、結果として物価上昇も抑制的な動きになるという見方もあることには留意したいと思います。


 また、トランプ関税については二審でも違憲判断が出ました。トランプ大統領はすぐに連邦最高裁に上訴する方針を示しました。現在の最高裁はトランプ派が多いためトランプ有利との見方が多いですが、このことが米国不信につながらなければよいのですが。米国債の動きには注目したいと思います。


(ハッサク)

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