9月は利下げの決定が予想される米FOMCが最大の注目イベントとなります。ただ、利下げ決定が出尽くし感につながる可能性があることに加え、9月は株式市場のパフォーマンスが悪化しやすい月となります。
需給面が株価の下支えにつながる「信用好取組銘柄」に注目
9月のアノマリー、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の出尽くし感、半導体・AI関連株に対する先行き懸念の台頭などから、目先の株式市場にはやや警戒感を強める必要があります。相対的に下値余地の乏しい銘柄に関心を高めるべきであり、将来の買い需要につながる空売りが多い状態にある「信用好取組銘柄」にも注目したいところです。
中でも、株価が上昇傾向にある銘柄ほど、買い戻し圧力は強まりやすく、25日移動平均線よりも株価が上に位置している銘柄がより注目できるでしょう。
そこで今回は、信用倍率(信用買い残÷信用売り残)が0.7倍未満と売り長の信用需給状態にある高配当利回り(配当利回り3.5%以上)銘柄をスクリーニングしています。株価下落場面では売り方の利益確定の動きが下支えとなり、上昇場面では損失を避けるべく買い戻しが急がれ、それが株価の一段高につながる展開を想定します。
(表)需給妙味が強い高配当利回り株 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 9月1日
終値(円) 時価総額
(億円) 信用倍率
(倍) 信用売り残
(株) 7296 エフ・シー・シー 3.96 3,135.0 1,631 0.30 188,900 7270 SUBARU 3.88 2,962.5 21,716 0.49 1,034,300 1808 長谷工コーポレーション 3.68 2,442.5 7,346 0.56 233,800 6371 椿本チエイン 3.68 2,172.0 2,306 0.30 234,700 3003 ヒューリック 3.63 1,571.0 12,063 0.65 631,100 注1:信用倍率、信用売り残は8月22日現在
銘柄選定の要件
株価、時価総額、信用倍率、信用売り残、25日移動平均線と株価の位置関係などは、楽天証券のスーパースクリーナーにおいてスクリーニングが可能となっています。配当利回りは会社側の決算資料を参照しています。
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 エフ・シー・シー(7296・東証プライム)
クラッチ専業の自動車部品メーカーです。二輪向けが47%、四輪向けが53%(2025年3月期、以下同)を占めており、利益構成比は二輪向けが高くなっています。主要顧客別では、筆頭株主となっているホンダグループ向けが37%を占めますが、四輪事業においてはフォード向けが最も高い構成比となっています。
また、海外売上比率は米国やアジアを中心に約93%の水準となっています。海外生産拠点は14カ所あります。非モビリティ事業では、セラミックセッターやリチウムイオン電池用導電助剤の量産化などを進めています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)は、円高や米国四輪車用クラッチの販売減少で売上高は減収ながら、製品保証引当金繰入額の計上が一巡したことにより、営業利益は50億円で前年同期比2.5%増を確保しました。
2026年3月期通期営業利益は150億円で前期比13.4%減の見通しです。為替前提は1ドル=141.15円前提で前期比11.43円の円高を想定、円高のマイナス影響を28.5億円、米国関税のマイナス影響は17.4億円と試算しています。
第1四半期の進捗(しんちょく)から、やや保守的な印象もあります。2026年3月期年間配当金は124円を計画、記念配当金126円を含んだ2025年3月期202円からは減配となります。
8月1日の決算発表後、2026年3月期の減益見通しを受けて売りが先行しましたが、悪材料出尽くし感が台頭して反転、同日の急落前水準も回復しています。同日は出来高も膨らんでおり、この水準は買い戻しのタイミングになると考えられるでしょう。
同社は9月中間期末にも62円の配当を計画しているほか、9月末の200株以上保有かつ、1年以上継続保有の株主を対象に、2,500円相当の地元特産品を贈呈するなど、株主優待も計画しています。HPでは、9月末優待品は静岡県特産三ヶ日青島みかんと紹介されています。
会社側では配当性向は50%としており、業績上振れがあれば、その分、配当水準も引き上がることになります。なお、米トランプ大統領の電気自動車(EV)に対する後ろ向きな姿勢から、エンジン車の復調が見込まれることは、フォローとなる可能性が高いとも考えられます。
2 SUBARU(7270・東証プライム)
自動車業界大手の一角で、世界販売の7割超を北米で販売するなど米国向けのウエートが高いことが特徴です。「レガシィ」「インプレッサ」「フォレスター」などが主力車種となっています。
SUVの比率が85%と高いことも特徴になります。水平対向エンジンやシンメトリカルAWDなどの技術が強みといえます。自動車の生産拠点は群馬県と米国インディアナ州の2拠点です。また、大型航空機中央翼やヘリコプターなどの航空宇宙事業も手掛けます。トヨタ自動車が21%を保有する筆頭株主になっています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)営業利益は763億円で前期比16.2%減となっています。米国を中心に販売台数は堅調な推移となりましたが、米国の追加関税の影響が556億円ほどの利益悪化要因につながったようです。
また、通期営業利益は2,000億円で前期比50.7%減の見通しとしています。海外を中心に販売台数の減少を見込むほか、追加関税の影響を2,100億円、為替の影響を750億円ほど想定しています。ドル/円レートは1ドル=145円(2025年3月期は152円)を前提としているようです。なお、年間配当金は前期比横ばいとなる115円を計画しています。
7月23日、自動車関税を含め、日本への相互関税を15%にすると決まったことが材料視され株価は急騰しました。
その後も株価は堅調な動きが続いていますが、信用倍率0.49倍と圧倒的な売り長の状況の中で、25日移動平均線レベルは買い戻しのタイミングとも捉えられるため、今後も下値の堅い相場展開が続きそうです。
米国関税の早期引き下げの可能性は低いとみられますが、利下げによる米国自動車需要の回復などはこれから期待できるでしょう。なお、株主資本配当率(DOE)3.5%をめどとしているため、大幅な減配の可能性が低いことも妙味でしょう。
3 長谷工コーポレーション(1808・東証プライム)
マンション建設の最大手企業です。2025年7月末のマンション施工累計実績は72万1,092戸となり、現在ある国内マンションの約1割、首都圏の32.5%を施工しています。国内トップの施工実績を背景としたトータルプロデュース「土地持ち込みによる特命受注方式」という独自のビジネスモデルを展開しています。
サービス関連事業として、42万戸超のマンション管理なども受託しています。将来的な施工量の減少に備えて、リフォームや中古の売買仲介などストック市場、不動産売買事業、海外事業などにも注力しています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は204億円と、完成工事利益率の改善、収益不動産の売却計上などにより、前年同期比54.2%の大幅増益となっています。単体受注高も1,283億円で同7.5%増と想定通りの進捗となっているようです。2026年3月期通期では、920億円で前期比8.6%増の見通しとしています。
不動産売上高の増加と完成工事利益率の改善で増収増益を見込んでおり、第1四半期の利益率改善はやや会社想定を上回っているもようです。
第1四半期の大幅増益決算も好感されて、8月に入り株価は上昇しています。ただ、25日移動平均線との乖離(かいり)も縮小し、強い過熱感は乏しいと言えます。
金利上昇でメリット銘柄として、信用売り残が多くなっていますが、米国の利下げ局面では、日本銀行の利上げのハードルも高まるとみられます。日本銀行の利上げ先送りは買い戻しの活発化を誘う公算もありそうです。なお、同社は3月末株主に対して、リフォーム工事代金や不動産売買仲介手数料などが割引となる株主優待も実施しています。
4 椿本チエイン(6371・東証プライム)
産業用スチールチェーンと自動車エンジン用タイミングチェーンで世界シェアトップとなっています。シェアは前者で16%、後者で40%程度と試算されています。世界最小、最大チェーンを扱っているほか、引っ張り強さ世界一のチェーンなど、同分野では高い技術力を誇っています。
チェーンの他、搬送・保管システムを扱うマテハン事業も手掛けています。EVが持つ大容量バッテリーと建物や電力網を、双方向につなぐV2X対応充放電装置なども新規ビジネスとして扱っています。
2026年3月期第1四半期(4-6月期)の営業利益は32億円で、前年同期比19.8%減となっています。チェーン事業が為替の影響や米国関税の影響で減収減益となりました。マテハン事業も米国での売上減少で伸び悩みました。ちなみにドル/円レートは前年同期の1ドル=155.85円から144.60円へと円高が進んでいます。
2026年3月期通期では215億円、前期比5.9%減の見通しとなっています。チェーン事業やモビリティ事業の減益見込みを、マテハン事業が大幅増益となって下支えする計画のようです。第1四半期の受注高は前年同期比6.5%増と順調に推移しています。なお、年間配当金は80円を計画していますが、株式分割を考慮すると前期比横ばいの水準となります。
自動車関連銘柄の一角とも位置付けられるため、自動車関税15%への引き下げが買い材料視されて、7月中旬から株価は水準訂正を果たしています。信用倍率は0.3倍と大幅な売り長状態になっていること、12月にかけて高水準の自社株買いを実施中であることなどから、現在下値支持線となっている25日移動平均線は今後も強固に機能し続けそうです。
2026年1月には、同業の大同工業と経営統合を予定しています。
5 ヒューリック(3003・東証プライム)
東京23区を中心としたオフィス、商業ビル、ホテル、老人ホームなどの「不動産賃貸」を中核事業としています。東証一部上場の不動産セクター内で、経常利益の水準は大手3社に次ぐ水準となっています。
銀座・有楽町エリアや渋谷・青山エリアなど、首都圏の駅近・好立地に多くの物件を保有しており、保有物件の空室率は0.3%(2024年12月末)になっていることが特徴です。
成長戦略としては、観光ビジネスを拡大する方針であるほか、都心型データセンターなど次世代アセットへの取り組みにも注力しています。2024年より海外事業についても本格的な取り組みを開始しました。
2025年12月期上半期(1-6月期)営業利益は750億円で、前年同期比8.8%増となっています。投資の進捗やレーサムの子会社化によって、主力の不動産事業が順調に拡大しているほか、ホテル・旅館事業も稼働率が向上して収益水準が拡大しています。2025年12月期通期営業利益は1,780億円で前期比8.9%増の見通しです。
リソー教育とレーサムの連結子会社化に伴うのれんの償却、金利上昇などのマイナス影響も織り込んでいるもようです。着実な案件取得や、開発も順調に進行する中で、空室率も低水準での推移が続いています。年間配当金は前期比3円増の57円を計画しています。
8月に入って株価は大きく上昇しており、2024年1月につけた高値1,648円が視界に入っています。今後高値に接近していく過程においては、買い戻しの動きが活発化しやすくなると想定されます。新ヒューリックとして上場以降、増益・増配基調が続いており、2024年12月期は16期連続での増益・増配を達成しています。
また、強固な事業基盤を構築している中、都心型データセンターへの注力や銀座エリアでの豊富な開発案件、成田物流開発計画や幕張海浜公園でのアリーナ整備計画などプロジェクトも多く、着実な業容拡大も望めるでしょう。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など長期投資には非常に合致する銘柄とも考えられます。
8月の日経平均株価は2024年7月の史上最高値を更新
8月(8月1日終値~9月1日終値)の日経平均株価(225種)は3.4%の上昇となりました。8月4日には売り先行となり、一時、7月22日以来の4万円割れとなる場面も見られました。ただ、その後は盛り返し、12日には2024年7月11日につけた史上最高値4万2,426.77円を一気に更新しました。
8月19日には、史上最高値を4万3,876.42円まで伸ばす展開となっています。その後は上値が重くなり、9月1日には一時、8月4日以来の25日移動平均線割れを見ています。なお、この期間(8月1日~8月29日)のダウ工業株30種平均は4.5%の上昇となっています。
この期間の最初は、雇用統計や米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景気指数など経済指標の下振れを受けて、米国の景気減速に対する警戒感が強まりました。ただ、売り一巡後は、景気の減速懸念に伴って、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げ期待が高まり、株式市場の押し上げ材料となりました。
また、 トヨタ自動車(7203) が大幅な下方修正を発表しました。これにより、米国関税に伴う日本企業の収益悪化の程度が、十分に織り込まれたとの見方にもつながったようです。
その後、日本株はお盆休みシーズンにかけて上値追いを強める形になりましたが、日経平均株価が高値を更新したことで買い戻しの動きが急がれ、市場参加者が減少する売り物薄の中で、株価上昇に弾みがつきました。
8月後半には、ジャクソンホール会合、米エヌビディア決算発表の二大イベントがありました。ジャクソンホール会合ではパウエルFRB議長が9月の利下げを示唆し、買い安心感につながりました。また、エヌビディアは好決算を発表しました。ただ、ともに市場では織り込みが進んでいたとみられ、その後の株価反応は限定的にとどまっています。
この期間は4-6月期決算発表が相次ぎ、 JX金属(5016) のような好決算を手掛かりに買われる銘柄が多く散見されました。ほか、ボーイングの航空機受注拡大を受けて、航空機用のスポンジチタンを手掛ける 大阪チタニウムテクノロジーズ(5726) が人気化しました。
また、「造船」が国策として関心を高める中、船用エンジンを手掛ける 三井E&S(7003) なども大幅高となっています。米ナスダック総合指数の上昇やAI関連株として、 ソフトバンクグループ(9984) の上昇も目立ちました。ほか、 三井金属(三井金属鉱業:5706) はAIサーバー向けの電解銅箔に対する期待が高まったようです。
一方で、 シスメックス(6869) 、 LINEヤフー(4689) 、 日本ペイントホールディングス(4612) 、 オークマ(6103) などは決算がネガティブインパクトとなり15%前後の下落となりました。また、防衛関連銘柄に利食い売りが集まり、 川崎重工業(7012) も大幅な下落となりました。
米FOMCでの利下げ決定後の出尽くし感の有無が焦点に
2000年以降の月次平均騰落率を見ると、S&P500種指数のパフォーマンスは9月が最低水準となっています。米国株の下落に伴い、海外投資家の売り圧力が日本株にも波及する形からか、日経平均株価も9月は軟調な動きになりやすいとするアノマリーがあります。
今年は9月16~17日にかけて米FOMCの開催が予定され、0.25%の利下げが決定される可能性は高まっています。ただ、ジャクソンホール会合を受けて、利下げ自体はすでに織り込み済みであるとみられるため、大幅利下げの可能性が高まらなければ、その後の出尽くし感に伴う株価下落を警戒すべきでしょう。
ちなみに、関税策が米国のインフレに与える影響は依然として不透明な状況といえ、9月以降の米国の利下げ継続を現段階で楽観視することはできないと考えます。
株式市場のムードを左右しやすい半導体関連株にも、足元で警戒ムードが強まりつつあります。中国のアリババが新型のAI半導体を開発したと伝わっています。
アリババはエヌビディアの主要顧客の一つとされていますが、今後はエヌビディアのアリババ向け売上が減少するのみならず、中国市場における競争の激化にもつながる可能性が出てきます。国内半導体関連銘柄にとっても、エヌビディア向け売上の先行き懸念へとつながりそうです。
また、デルやマーベルなどの半導体関連がそろって決算発表後に大幅下落しました。AI需要の鈍化が意識されつつあるようで、こちらも、国内半導体・AI関連の警戒材料となります。こうした状況は、9月1日の国内半導体関連銘柄の下げにつながりました。
8月28日には、牛丼チェーン店のすき家が9月4日からの価格改定を発表し、11年ぶりの値下げとなるもようです。食品インフレに対する家計の負担が厳しさを増す中、今後は外食や小売業界全般的に、これまでのような値上げ一辺倒の流れに変化が生じる可能性があります。
値上げによる一段の収益拡大期待が後退する中、小売セクターは8月が権利月となっている銘柄も多いため、今後の株価反発には時間を要する可能性が出てきたとみられます。
一方、中間配当権利月である9月相場入りとなったため、今後は9月末配当権利取りの動きなどに意識が高まる公算があるでしょう。高配当利回り銘柄などのバリュー株が市場を下支えしていくものと考えます。
ほか、米国が想定通りに利下げを行った場合でも、日本銀行の利上げ観測が後退しなければ、為替市場でのドル安・円高も想定すべきであり、円高メリット銘柄などにもあらためて関心が高まる余地があります。
また、石破茂首相の去就も依然として流動的ですが、仮に、支持率上昇を要因に続投の可能性が高まった場合は、石破政権成立時ににぎわった、地方創生などの石破政策関連銘柄などにも注目が向かっていく可能性は高いでしょう。
(佐藤 勝己)