石破首相が就任からわずか1年で辞任を表明。不安定な政権運営の中、8日の日経平均は大きく上昇しました。

かつての「安定政権=株高」という常識は崩れ、企業の好業績が株価を支えています。次期政権の政策で恩恵を受けそうな宇宙、インフラ、農業関連の注目5銘柄を紹介します。


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政治は混乱。日経平均は最高値圏へ上昇

 永田町を中心に「石破おろし」が吹き荒れた結果、石破茂首相が辞任の意向を固めました。昨年10月に誕生した石破政権は1年で退陣を迎えます。


 これを受け、9日の日経平均株価は大きく上昇。取引時間中として初めて4万4,000円を上回りました。


 今後、自由民主党による総裁選挙が行われる可能性が高まっていますが、1年単位で首相が変わる不安定な政治を悲観する市場関係者は少ないように感じられます。私も同感で、むしろ日本株は思惑先行で強い動きを見せるのではないかと考えています。「長期安定政権=株高」といった概念はもはや過去のものとして捉えるべきでしょう。


歴代政権と株価の関係を振り返る

 安定政権が経済政策の基盤となることで、株式市場には「長期安定政権=株高」という概念があったことは否定しません。代表例は、池田政権、佐藤政権、中曽根政権、小泉政権、安倍政権です。


池田勇人政権(1960~1964年)

「国民所得倍増計画」を掲げ、高度経済成長路線を明確にしました。積極的な公共投資・輸出拡大政策・技術革新を背景に、日本経済は年率10%前後の非常に高い成長を達成。

株価も上昇基調をたどり、日経平均は1960年代前半にかけて大きく値を伸ばしました。


佐藤栄作政権(1964~1972年)

 7年8カ月続いた長期政権で、東京オリンピック後の安定成長期を主導しました。新幹線・高速道路などインフラ整備が進み、重化学工業や輸出産業が拡大。株式市場も高度成長の恩恵を受け、1960年代後半には日経平均が2,000円台から3,000円台へと上昇しました。1968年には国民総生産(GNP)が世界第2位となり、海外投資家の信認が高まりました。


中曽根康弘政権(1982~1987年)

 日本電信電話公社(現NTT)や日本国有鉄道(現JR東日本など)など大型民営化、規制緩和を推進しました。国際的な金融緩和やプラザ合意後の円高対応と相まって、株式市場には活発な資金流入が生じ、日経平均は1980年代にかけて大きく上昇。「バブル景気」前夜の株高局面を形成しました。


小泉純一郎政権(2001~2006年)

「構造改革なくして成長なし」を掲げ、郵政民営化、不良債権処理、規制改革を断行しました。海外投資家からの評価も高く、東京市場への資金流入を後押し。2003年以降は景気回復とともに株式市場も上昇基調に転じ、日経平均は2003年の8,000円台から2006年には1万7,000円台まで回復しました。


安倍晋三政権(第2次以降、2012~2020年)

アベノミクス」による大胆な金融緩和、財政出動、成長戦略の「三本の矢」が市場に安心感を与え、外国人投資家の買い意欲を刺激することに成功しました。日本銀行による量的・質的金融緩和(異次元緩和)と円安政策により、輸出企業を中心に業績が改善。2012年末に1万円前後だった日経平均は、2018年には2万4,000円台まで上昇しました。


 いずれも長期安定政権による一貫した政策への期待感が投資家に評価されました。とりわけ、小泉政権や安倍政権は、国民に伝わりやすい政策だったことも材料視されたと考えられます。


「支持率低下でも株高」という新常識

 ただ、2020年以降、「長期安定政権=株高」の概念は大きく変わりました。それを象徴するのが岸田政権で、低支持率と株高が同時に進行しました。その流れは、石破政権にも受け継がれました。


岸田文雄政権(2021~2024年)

「増税メガネ」といった批判から支持率は30%前後と低迷。一方、世界的な金融緩和や円安進行、半導体・自動車など輸出企業の好業績を背景に株価は上昇。特に2023年以降は東京証券取引所によるガバナンス改革などを材料に外国人投資家の日本株買いが強まったことから、2024年には日経平均が34年ぶりに史上最高値を更新しました。


石破茂政権(2024~2025年)

 発足直後の衆議院選挙、そして、今年の参議院選挙と国政選挙で歴史的な敗北。


 政権与党が過半数割れという極めて不安定な政権運営に陥りましたが、企業業績は好調に推移したほか、米国関税交渉で一定の成果を出したことなどから日経平均は8月18日に史上最高値4万3,714円(終値ベース)まで上昇しました。「地方創生2.0」を掲げ、防災や防衛に力点を置いた政策を展開してきました。


 岸田政権、石破政権はともに国民の支持を得ることはできませんでしたが、日経平均は史上最高値を更新しました。その理由は、日本経済がデフレからインフレに変化したことに伴う好調な企業業績が大きな理由と考えます。


「今期(2026年3月期)こそ減益見通しでも来期(2027年3月期)は大幅な増益が見込まれる」といった考えが、日本株の原動力となっています。この前提が大きく崩れない限り、日本株の弱い展開は回避されるでしょう。


次期政権で注目される、投資チャンス5銘柄

 昨年9月に見られたような次期政権に対する政策期待も加わることで、日経平均は史上最高値を再度更新する可能性が十分あります。世界的な財政不安などで金利が上昇するという懸念材料はありますが、好調な企業業績という柱が崩れない限り、日本株への期待感は薄れないと考えます。


 今回は、次期政権に対する政策期待で関心が向かいそうな銘柄をご紹介します。


銘柄名 証券コード 株価(円)
(9月9日終値) 特色 アストロスケールHD 186A 695 宇宙ごみ除去を支援。「高市トレード」で期待 Liberaware 218A 2,360 小型ドローンによるインフラ点検事業。国土強靭化計画の一角 日本農薬 4997 1,033 農薬専業メーカー。備蓄米の流通で注目 インフロニア・HD 5076 1,515 道路の補修、老朽化対策などを手掛ける。国土強靭化計画の一角 大和自動車交通 9082 1,108 小泉進次郎氏の「ライドシェア解禁」で注目

アストロスケールHD<186A>

 宇宙ごみ(スペースデブリ)の除去や衛星運用支援を展開しています。昨年9月、自民党総裁選に立候補した高市早苗氏が宇宙事業に積極的な姿勢を示していたことから同社が話題となりました。


 人工衛星の打ち上げ増加に伴うデブリ問題は深刻化しており、同社はこの「宇宙の持続可能性」に特化したビジネスモデルを確立しています。「高市トレード」が市場で意識されると思惑先行の展開も期待できます。


Liberaware<218A>

 狭小空間用の非GPS小型ドローン「IBIS」シリーズなどを用いたインフラ点検ソリューションを展開しています。日本全国の水道管老朽化が問題視される中、自民党が進める国土強靭化(きょうじんか)政策(災害に強い国づくり)の関連銘柄として注目します。


 さまざまな企業との業務提携を推進しており、2025年7月期は創業以来初めて経常損益の黒字化が見込まれています。


 9月12日前後に本決算の発表が予定されていますので、受注拡大を背景とした2026年7月期の業績予想にも注目です。


日本農薬<4997>

 国内有数の農薬専業メーカーで、農業生産に不可欠な殺虫剤、除草剤、殺菌剤などを幅広く供給しています。米の価格高騰で、今年の夏は農業への関心が高まりました。


 備蓄米の流通などの陣頭指揮を執った小泉進次郎農水大臣が自民党総裁選に出馬ということになれば、思惑的な買いが入る可能性もあります。株価は年初来高値を更新していることから、需給面も良好と考えます。


インフロニア・HD<5076>

 前田建設工業・前田道路などが統合して誕生した総合インフラ企業です。地震、豪雨、台風など自然災害が頻発する日本において、道路や橋梁(きょうりょう)の補修・更新事業、堤防やトンネルの耐震化、老朽化インフラの再生といった事業を展開しています。自民党が進める国土強靭化政策の関連銘柄として注目します。


 水道管同様、全国各地で道路やトンネル、橋梁などのインフラ補修の必要性は増しています。国土強靭化に関連する公共インフラ需要が追い風となる中、同社の受注基盤は堅固なものとなるでしょう。


大和自動車交通<9082>

 東京を中心にタクシー・ハイヤー事業を展開しており、タクシー大手「日本交通」とも資本業務提携しています。既存タクシー事業者として積極的にライドシェア対応を模索していることから、昨年9月に小泉進次郎氏が自民党総裁選において「ライドシェア解禁」を公約に掲げた際に注目を集めました。


 ライドシェアは政府主導で限定的に解禁が進みつつあります。同社は、この動きを新たな需要創出の機会と捉え、既存の車両・ドライバー基盤を生かした次世代モビリティサービスへと事業領域拡大を模索しています。


(田代 昌之)

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